Prince and Princess




フラッドと出会ったフェイト達は、彼を警戒しつつも状況を把握する為にその後を着いていくことにしたらしい。
そして着いて行った場所はフラッドの家だったようで、不審な表情をしつつも出迎えた母親にフェイト達の事を「友達」だと誤魔化したフラッドはそそくさとフェイト達を自室へと案内した。




「ねぇ、お兄さんのフルネームを教えてもらえるかな?それと出身地も」


「僕の、名前?」


「うん!」


「そんなこと聞いてどうするつもりだ?」


「別にどうにも?ただ確認したいだけだよ!」




自室に案内して早々、フェイトに向かって名前と出身地を聞いたフラッドはクリフに不審がられるが、「確認したいだけ」だと首を振って敵意が無いことを示した。
すると、フェイトはそんなフラッドを見てそれくらいなら大丈夫だと判断したのだろう、自分の名前と出身が地球ということを伝えると、フラッドは何やら空中スクリーンでカタカタとタイピングを始めた。




「これで…よし、っと……出た!すげぇや!!やっぱりお兄さん達はそうだったんだ!成程成程…納得!ブレアの言った通りだ!!」


「おい坊主、1人で納得してんじゃねぇ、何がやっぱりなんだ?お前エクスキューショナーの関係者じゃ…」


「…っおい!お前、今「ブレア」と言ったか…?!」


「え?う、うん…言った…けど?えっと、怖いお兄さん、ブレアの知り合いなの…?エターナルスフィアの住人なのに…?」




検索結果が出たのだろう、何やらそれを見つめて1人で楽しそうに…無邪気に目を輝かせて納得しているフラッドに痺れを切らせたのか、それを見ていたクリフは早く説明しろと言わんばかりに食ってかかってしまう。
しかしそれは隣にいたアルベルが突然焦ったように声を上げた事で遮られ、クリフがそれに気づいた頃にはもうアルベルはフラッドの目の前まで移動していた。

その赤い瞳はギラリと光り、まるで逃がさないとばかりの勢いをその瞳からも、彼の表情からも見て取れた面々は驚いて言葉を失ってしまうが、驚きつつもこのままでは話が進まないと何とかアルベルの肩を掴んでフラッドから距離を取らせたクリフは、エターナルスフィアとは何のことだとフラッドに問いかけた。




「取り敢えず落ち着けアルベル。よく分かんねぇが、その話はこいつの話を聞いてからにしようぜ、だから一旦待ってくれや。な?」


「…っ、」


「…よし。…で?坊主、そのエターナルスフィアってのはなんなんだ?」


「ビックリしたなぁもう…まぁいいや。エターナルスフィアっていうのはね、これのことだよ!」




何やら思うことがあるらしいアルベルを何とか一旦落ち着かせたクリフはフェイト達とアイコンタクトをとってフラッドにエターナルスフィアとは何の事かと問う。
すると、それを知らないフェイト達に説明するには、実際に見せた方が早いだろうと言わんばかりに空中スクリーンをフェイト達が見えるように回転させたフラッドは、そこに映る映像を彼らに見せた。

そこには何故かフェイト達が先程まで対面していたエクスキューショナーと、それに立ち向かう…自分達をこの場に送り出す為に命を張ってくれた人達が乗っていたアクアエリーが映っていた。
そして…無惨にもその命の灯火が簡単に消え去ってしまった光景を見たフェイト達は信じられない…と自らの目を疑ってしまう。


何故、何故この光景が今ここで映し出されているのか。




「っ…これは…連邦と、エクスキューショナーの戦いね…」


「そう、今エターナルスフィアで実際に起きている事さ」


「実際に起きている事だぁ?おい坊主!何で連邦とエクスキューショナーの戦いがここに映し出されてんだよ?!」


「落ち着いて!ちゃんと説明するよ!…エターナルスフィアっていうのはね、シミュレーターの中の世界なんだ。で、地球もその世界の中に存在する惑星の一つってわけ」


「…っ…え?」


「エターナルスフィアは、個々の端末から鑑賞出来るんだ。だから、銀河系で起きている事件もここで見れるというわけ。つまり、お兄さん達はエターナルスフィアというシミュレーターの中にいる登場キャラクターなんだよ」




折角、折角ここまで来たのに。
沢山の期待と、沢山の命を背負って…ようやくここまで辿り着いたのに。
少しずつでも前へ前へと確実に進んでいるのを実感していた筈なのに
それがまるで…全てが「無かった」ものにされてしまったかのように、ピタリと時が止まった気がしてしまったフェイト達は目を見開いて固まってしまう。

何を言っているんだ、この少年は。
つまりそれは、自分達が…




「…僕達が、シミュレーターの中の登場キャラクターだって…?」


「そう」


「…つまり、俺達はプログラムだってのか…?」


「まぁ、端的に言えばそういうことになるよね」







作られた、存在だという事。







「じゃぁ…銀河という世界は、ただのゲームのステージだと言うの…?!」


「ううん、エターナルスフィアはオンラインで僕ら参加者全員が共有しているんだ。勝手にリセット出来ない。だから、ゲームっていうのとは少し違うよ。まぁ一種のパラレルワールドみたいなものかな」


「僕は…僕達は、君達FD空間の住人に踊らされてただけなのか…っ?!」


「そう言ってしまえばそうだけど…でもお兄さん達はそれぞれ独自のAIプログラムで動いているわけだから、本質的には僕達と一緒だよ。別に、コントローラーで操作してるわけじゃないもんね。少なくとも僕はそう思ってるけど。存在してる次元が違うだけさ」




作られた存在、それは確か。
しかしフラッドの考えでは、それは完全にそうとは言いきれず、そうだとしても、結局はフェイト達は独自のAI…つまり、独自の思考を持っていて、感情もある。
作られた存在なのだとしても、本質的にはFD人と何も変わらない。

そういうフラッドの言葉に、未だに脳天を鈍器で殴られたような衝撃を受けつつも心のどこかで救われた気持ちになったフェイト達は、そんなフラッドに更に気になっている事を問う。
しかし何故か、こんなにも衝撃的な話を聞かされているのにも関わらず、その場にいるアルベルだけは下を向いていてその表情が分からない。

そんなアルベルを気にしつつも、フェイトが口にしたその質問は自分達を何度も苦しめた存在に対する事だった。




「なら…エクスキューショナーって一体何なんだ?やっぱりプログラムなのか?」


「うん、その通り。この間発表されたプレスリリースによるとね、エターナルスフィアのプログラムの一部である銀河系って区画に異常が認められたらしいんだ。お兄さん達の出身区画だよね?…それで、その異常をそのまま放置しておくと、プログラム全体に悪影響を及ぼすって判断したみたいなんだ。で、その悪影響部分を削除する為に送り込んだプログラム、それが執行者。つまりエクスキューショナーってわけ」


「バグフィックスプログラムというわけね…」


「冗談じゃねぇ…神だなんだって話も充分馬鹿みてぇな話だと思ったが、プログラムだと?!」


「っ…でも、私達がプログラムなんだとしたら、どうしてここに存在出来るんでしょう?この子の言うことが本当だとしたら、私達はここに存在出来ない筈じゃ…?」


「それは僕も分かんない…」


「…それがマリアの力なんだろう?アルティネイションのさ」


「そうなんでしょうね…ラインゴット博士が与えてくれた力…プログラムの生み出したプログラム…考えてみれば、空恐ろしい力だわ」




フラッドから聞けば、やはり想像通りにエクスキューショナーさえもプログラムだったという事実を知ったフェイト達は思わず息を吐いてしまう。
しかしその答えが余計に自分達の世界がこの世界の住人によって作られたものなのだと実感させられる。

やっと敵地に辿り着いたと思い、いざこれからだと言う時にこんな事実を知ることになるとは思わなかったが、こちらに対して見下すことをしないフラッドは良いとしても、その他の住人にとってはやはり自分達は「見せ物」なのだろう。

それに対して怒りが湧いてくるが、それよりも気になったのは何故そんな詳しい情報をこんな小さな少年が知っているのかということだった。
すると、クリフが全員のその疑問を代弁するかのように疲れたようにため息をつきながらもフラッドに質問を投げた。



「…しかし坊主、お前なんでそんなに詳しいんだ?」


「あ、うん。僕の友達がエターナルスフィアの開発会社の関係者だからさ。さっきそこの怖いお兄さんが気にしてたのが、そのブレアって人。その人が僕に色々教えてくれたんだよ。…あっ、でも勘違いしないで!僕は敵じゃないからさ!…というか、そうだよ!怖いお兄さんはなんでブレアを知ってるの?」


「くくく…っ、!ふははは…っ!」


「お、おい…どしたよアルベル…?」




フラッドに色々と教えた存在。
それがブレアというエターナルスフィアを作った関係者だということをフラッドの口から聞いたアルベルは、逆にフラッドから質問されたことに答えるでもなく、何故かとても機嫌が良さそうに、嬉しさを堪えきれないとでもいうように笑い出した。

そんなアルベルの突然の行動に「おいおいどうした」と思わず聞いてしまったクリフだったが、アルベルは余程機嫌が良いのだろう、普段は触りもしないクリフの肩をポン、と叩いて一つ息を吐く。





「っいや…、!別にもうそのブレアって奴のことはどうでも良くなった。そこのガキの説明で全部の辻褄があったからな。どうやら俺は、やはりお前達に着いてきて正解だったらしい」




(っ……………生き、てる…世界が…違う…。空間が、違うの……だか、ら…会えない…こっちからはそっちの世界が見えるけど、そっちからは…無理なの…)


(…それは何故だ)


(……………っ、)


(早く言え)


(…………アルベルの………世界を、創った、のが………こっちの世界の…………、っ…私の………お兄ちゃんみたいな、人………だから…)





そうだ…あの時。
ロアに向かって半ば無理矢理に問いただした、あの時。
あの時のロアの言葉が、フラッドの説明を聞いている時に面白い程に重なっていたのだ。
だから別に、自分にしたら知らなかったフェイトとは違って事前に自分達が「作られた存在」だと言うことは分かっていたし、これと言ってショックだって受けていない。

だからこそ冷静でいられて、こうしてロアとの繋がりを確実に出来たのだ。
つまりどうやら自分は、あの時も今も、判断を一切間違っていなかったのだと、そして何より確実にロアを見つけたのだと実感してしまって、嫌でも笑いが込み上げてきてしまう。




「どういうことだ?あ、もしかしてお前が探してるロアさんのことで分かった事があったのか?」


「まぁ、そんなところだ」


「そっか…そうだよな、元々お前の目的はロアさんを見つけることだし…」


「え?ロア?ロアって…あの記憶喪失のお姉ちゃんのこと?」


「!お前…ロアの事も知っているのか?…っ、あいつは何処にいる、今度は今すぐ話せ!」




アルベルがどうしていきなり笑い出したのか、それを理解したフェイトが「そういえばアルベルの目的はロアさんだった」とその行動に納得してしまえば、なんとそれを聞いていたフラッドからロアの名前が出る。

すると、それを聞いたアルベルは弾かれるようにその方向を向くと、右手でフラッドの腕を掴んで焦ったように問いただした。
先程はフェイト達に後にしてくれと言われたが、今度ばかりはその事は待てないと口にして。




「えっ、えっ?!あ、う、うん!僕の知ってるお姉ちゃんであってるなら、そのロアって人はブレアと同じ場所…えっと、スフィア社にいるけど!………ん?……あれ……そういえばお兄さんって……」


「っ、何だ!」


「あ、赤い瞳だね…?そういえば髪の毛も黒と金だし、……えっと、確かに……言われてみれば、一致する、ような…ないような…?」


「だから何がだ!ロアがお前に何か言っていたのか?!まずお前はロアに会ったことが…!」


「いや、会ったことはあるけど!えっと、ロアお姉ちゃんが言ってたんだよ!えっと、その…いやでも、やっぱりお兄さん怖いし、別人の事かもしれな、」


「なんでも良いから早く言いやがれこのクソ虫ッ!!」





ロアの情報なら、どんなものでも欲しい。
それが例えどれだけ些細なことでも、今の自分には必要な事だ。
そう思っている事が素直に表情と態度に出てしまっているアルベルの勢いが怖かったのだろう、フラッドは少しおどおどとしながらも、そのお陰で何かが違うような気がして言葉を渋ってしまう。

そんなアルベルを止めるか止めないか、しかし元々この事はアルベルが最優先している目的だし…と黙ってみていたフェイト達が一旦落ち着かせた方が良いのだろうかと考えていたその時だった。
アルベルの気迫に負け、言わないよりは良いだろうと判断したフラッドから訳の分からない言葉が出てきたのは。






「わ、私の王子様だって………」




…………………………………………………。




「…………………はぁ?」







この子は何を言っているんだろう。
そんな事を思ったのはつい先程もだが、そんな先程の衝撃とほぼほぼ同じような感覚を覚えてしまったフェイト達は思わず目を点にして緊張感を崩してしまった。

そんな緊張感も何も無くなってしまったフェイト達をまた代弁するかのように「はぁ?」と声に出してしまったクリフの声が響いたかと思えば、それで我に返ったらしい面々は思わず揃ってアルベルを見る。

すると、そこには同じように目を点にしてきょとん…としている彼がいて、それはどう見ても「刀を使わせたら随一の剣士」やら「漆黒騎士団の団長」やら「歪みのアルベル」等といった異名を持っている彼とは思えない程に気の抜けてしまっている姿だった。




「綺麗な赤い瞳で、髪が黒と金のグラデーションで、物凄く優しくてカッコイイ王子様みたいな人がいるって…」


「………………」


「何してもカッコよくて、理不尽なくらい顔が整ってるって…」


「………………」


「あんなに素敵な人みた事ないし、見てるだけで高熱出て倒れちゃいそうだとか何とか…」


「……………」


「大好き過ぎて頭可笑しくなっちゃうとか」


「……っ………!」


「…えっと、それから…プリンと猫が好、」


「もういい黙れっ!!!!!」




段々、段々と。
フラッドの言葉を聞いていく内にじわじわと顔が赤くなっていくアルベルを見ながら。
その普段の彼からは全く想像もつかないフラッド越しのロアの言葉と、本人の反応を見てしまったフェイト達は各々必死に肩を揺らしたり腹を抱えたりして笑いを堪えている。

そんなフェイト達の様子が、振り返らなくても分かっているのだろうアルベルは「もう黙れ」と怒鳴ってフラッドの腕を離すと、わなわなと震えながら片手で両目を覆って、その場の誰に言うでもなく、きっと、いや…もうこれは確実になった、この世界の何処かにいるロアに向かって届かない言葉を吐いた。




「っ……あの阿呆…っ!!余計な事ばかり言いふらしやがって…!言うならもっと別の事を言っておけ…っ!」


「っ…!!だっはっはっは!!も、物好きも…っ!い、いたもんだな…っ!!こいつ、こい、っ、ふっ、こいつが、「王子様」…?!嘘だろ?!嘘だと言えよ!!!はっはっは!!!ひーっ、ひーっ!!」


「…いえ、その…っ、物好き、には…物好き…じゃないの、かしっ、ら…!!でも良かったわね、ロアさんの居場所が分かって…っ!今まで疑っていてごめんなさい…っ!」


「よ、良かったなアルベル…っ!!ど、どっちにしろ、そのスフィア社には向かった方が、いい…みたい、だし…っ!僕も気にしてた、から…っ!目的地が同じ場所だと分かっ…分かって、よ、良かっ…ふふふっ、!」


「ロアちゃん!アルベルちゃんが物凄く好きなんだねーっ!!王子様だってぇ!!ならロアちゃんはお迎えを待つお姫様だね!!」


「きゃぁ……っ!スフレちゃんそれ素敵……っ!!!!」


「黙れっ!!!!!!」





王子様とお姫様。
ただでさえもう堪えきれずに笑ってしまっていたのに、そんなスフレの例えにとうとう腹の底から大爆死してしまったクリフを筆頭とした面々に向かって怒鳴ったアルベルの声がフラッドの自室に響き渡る。

しかしそれとほぼ同時に「動くな!」と現れたセキュリティサービスという組織の存在にフラッドが驚いていれば、フェイト達は一斉に戦闘態勢に入ってフラッドにやはりと視線を向けたものの、どうやらそれは彼が呼んだわけではなく、彼を心配した母親が独断で通報してしまったようだった。

それを理解して、家の中では危険だからと外に出て敵と戦闘に入ったフェイト達は、八つ当たりかのように凄まじい勢いで敵を倒すアルベルのお陰もあってすんなりと勝利を決めたのだった。




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