The moment it connects



惑星ストリームに降り立ったフェイト達が見たものは、内心全員が想像していた通りの有り様だった。
ここに来るまでの間…それはそれは沢山の尊い命を消し去ってきたエクスキューショナーがわらわらと辺りを徘徊するその光景は、行けども行けども何も無い寂しい世界の中で嫌味な程にその存在感を放っている。




「なるべく見つからないように…一気に駆け抜けよう」


「それが賢明ね」


「なら遅れるんじゃねぇぞ。時間が惜しい」


「アルベルちゃん足速いねー!よぉーし!どんどん行こー!あっちにいるロアちゃんを迎えに行くんだもんね!」


「黙れクソガキ」


「ス!フ!レ!」




フェイトの提案に全員が頷き、無駄な戦闘を避けつつタイムゲートまでの道を駆け抜けていれば、先頭を走っているフェイトとアルベル、そしてクリフの後ろで女性達も続く。
上手く岩陰に隠れたりを繰り返して…それでもその足は素早く動かし、俊敏に且つ確実に前へ前へと進むアルベル達を見たスフレが場を盛り上げる中。
どうやらそんなスフレを軽くだが相手をしてやれるくらいにはアルベルは冷静なようだった。

そんなアルベルを見て、本当は急いで会いに行きたいのだろうなと思ったフェイトだったが、確実に会いたいのだからこそ、彼が大好きな戦闘を避けてまで冷静沈着でいるのだろう事を理解すると、隣を走っているクリフに目配せをする。
すると、クリフはそんなフェイトに黙って頷くが…彼は何かをアルベルに言いたいようで、しかしそれは今ではないと言った様子でひたすらに前を走り続ける。




「お前、アルベルに言いたいことがあるんじゃないのか?」


「…あ?あー…まぁ…あるけどよ…」


「まぁ何となく察してるけどさ。鼻で笑われるのがオチだと思うよ」


「分かってんだよそんな事は。でもどうにもこう…!言わねぇとスッキリしねぇんだよ…時期を見て言うつもりだけどよ」


「はは、なら、それがいいかもな」




クリフがアルベルに対して言いたいこと。
それがどんな事なのか察しているフェイトがそんなクリフを上手くフォローするが、「鼻で笑われるのがオチ」だと分かっていても、どうにもクリフはモヤモヤとしているようでその顔はむず痒いとでも言いたげな顔をしてしまっている。

結局、彼は時期を見てアルベルに話すことにしたようだが、そんな事など当の本人は知るわけもなく、スフレと軽い会話をしていた筈のアルベルはそんなクリフとフェイトの横を置き土産かのように捨て台詞を置いてスフレと共に走り抜けていった。




「阿呆。何かは知らんが無駄口叩いてる暇があるなら進めクソ虫」


「はぁ?!」


「…あ…あはは…ごめんごめん」


「…っやっぱあいつムカつくんだが?!!!」


「まぁまぁ」




捨て台詞を吐き、スカした顔で追い抜かれたクリフが「誰の事を考えていたか知らない癖に」とその眉間に青筋を浮かべてしまった様子を横で見ながら。
まぁまぁとそんな彼を宥めつつ反対側から飛んできたエクスキューショナーからの光線をひょい、と屈んで避けたフェイトを見た女性陣は「随分と強くなったものだ」とそんな彼に呆れつつも感心をしてしまうのだった。











「これが…タイムゲート」


「コネクションの紋章遺伝子…空間を繋ぎ、道を開くのは貴女…と、博士は言ってたわね」


「でも私…そう言われても一体どうしたらいいのか…」


「そうか…そりゃそうだよな…」


「ごめんなさい…」





それから暫く経ち…誰も怪我すること無く無事にタイムゲートへと辿り着いたフェイト達は、その巨大なゲートを見て立ち尽くしてしまうものの、マリアの言葉で我に返った面々は釣られるようにその視線の先にいるソフィアに視線を向ける。

空間を繋げるのはロキシ博士達から紋章遺伝子を組み込まれたソフィアの役目。
それは本人も分かっていることだが、正直どうすればいいのか全く分からずに俯いてしまうソフィアを見たフェイトは、そんなソフィアの前に立って優しく励ます。




「なんだよ、お前が謝ることじゃないだろ?」


「うん…だけど…」


「マリア、彼女はまだ覚醒してないんだ」


「…分かってる、ごめん」




ごめんなさい、と申し訳無さそうにするソフィアを見兼ねて、その気がなくてもついそういう雰囲気にしてしまったマリアにフェイトがソフィアのフォローをすれば、マリアは至って冷静なのか素直に謝罪をする。




「………」


「!…なぁ、あのよぉ…」


「…?何だ」




その様子を黙って見ていたアルベルは内心早く事が進んで欲しいと願うものの、状況を見て急かせば逆にロアから遠のく気がして思わずその拳を強く握って自我を保つ。
そんなアルベルの様子を見ていたクリフが「話すなら今かもしれない」と察して声を掛けようとしたが、それよりも先に何やらソフィアが頭を抑えて頭痛に耐え始めたのに気づいてその口を閉じてしまった。




「ごめんなさい…こんな時に…っ、」


「…大丈夫か?気にするなよ…って、え?ソフィア?」


「?…っ、手が…熱いの…な、何、これ…私、どうして…?!きゃぁっ?!」




急に痛くなった頭を抑えていたと思えば、その後すぐに自身の両手が熱いことに気づいたスフィアはその両手を見つめてしまう。
すると、自分の意思で動かしているつもりがないのに勝手にゲートへ向かってその手が伸びる事に恐怖を抱いて怯えていれば、熱を帯びたその両手は急に何かの光を放ち、それはゲートへと直撃する。

全員がそのことに驚き、フェイトが勢いで尻餅をついてしまったスフィアを抱き起こしている間に通常通りの動作をしていた筈のゲートが映し出していたディスプレイがノイズを走らせたのを確認したマリア達が驚きつつも黙ってそれを眺めれば、そのディスプレイは何やら建物のような物を映し出した。




「タイムゲートが…!」


「おいおいなんだこりゃ」


「面妖な事だな…」


「これが、FD空間…」


「どうして分かる?」


「理由は分からないわ…けど、感じる。確かにそうなのよ…これが、FD空間だわ」


「あぁ、僕もそう思う」


「体の中の何かが…そう言ってるんです」


「へぇ…何だか変な建物だねぇ」




タイムゲートが映し出したその映像を見たフェイトとマリア、そしてスフィアの紋章遺伝子を組み込まれた3人は、それがFD空間なんだと強く頷いて見せた。
きっと、ソフィアの言う通り組み込まれた遺伝子が彼らをその答えに導いたのだろうが、それを聞いて不思議そうに眺めているスフレやクリフの横で、その答えを聞いたアルベルは咄嗟にいつかのロアの言葉を思い出すと、1人目を見開いてしまった。




(あの、私…!アルベルを初めて見た時に、自分の世界が輝いて見えたの!)


(……。)


(その、何言ってんだって思うかもしれないし、気持ち悪いって思うかもしれないんだけど!えっと、私…毎日同じようなつまらない生活を送っててね、そんな時にアルベルの存在を知って…見る世界が変わったの。毎日が楽しくなったんだよ!)



別に、ロアからお前の世界はどんなものか、だなんて聞いたことはない。
建物の特徴も、色も、雰囲気も。
何も聞いたことはないが、その映像を見て「つまらない」と同じ感覚を覚えたアルベルはフェイト達の言葉を相まって、確実に目の前の世界がFD空間なのだと理解した。

緑のない世界、無機質な世界。

自分が暮らしている世界と明らかに違うその世界を見つめ、ロアはこんな世界にいたのかと思ったアルベルはもう何度目か分からないその拳を再度強く握る。




「…フン、否定する要因はないな」


「…お前らがそう言うんだ、きっとそうなんだろうな」


「この奥に創造主がいるのね」


「でもFD空間の中に僕達は存在出来るのかな…?」


「そうだよね、次元が違うわけだし…」


「それは正直分からないわね…だけど、博士達が何も対処していないとは考えづらいでしょ」


「でも万が一ということもありますし…」




目の前に広がる世界がフェイト達の本来の目的である創造主のいる世界、というのは分かったが、この中に飛び込んだところで自分達が何の支障もなくFD空間に存在出来るのかが分からない。
ロキシ博士達から託されたのもあり、失敗するわけにはいかないと万が一ということを考えて躊躇してしまえば、そんな様子を見兼ねたアルベルは力強い眼差しをフェイト達に向けると言葉を発した。

早く、早く。
個人的に、ロアの元へいかなければと目の前の光景を見て焦ってしまったのもあったのかもしれない。
覚悟はとうに出来ているのだ。ここまで辿り着いた以上、何があろうと自分はロアを攫うと決めているのだから。




「ここまで来て躊躇してどうする、阿呆。俺も…お前達も、もう後戻りは出来ねぇんだ」


「…ま、そういうこったな。人間、思い切りが肝心だぜ」


「…そうだね…行こう、皆。この先に倒すべき創造主がいるんだ」




アルベルのその顔が、その言葉が。
後退りしそうになってしまっていたフェイト達をまるで刺して離さないとでも言うように。
その赤く鋭い瞳に焦りを映しつつも、腹は決まっているのだと凛としたものを感じた面々はそれに釣られて頷くと、フェイトの掛け声と共にゲートが放っている光の先へと勢い良く駆け出した。










「……っ、…?」


「あら。おかえりなさいロア。私がフラッドと会っている間に1人で治癒術の練習をしていたのね。感心……って、どうかしたの?」


「……!え、あ…うん、ただいま。えっと…何か、こう…今一瞬、アルベルの夢の中に入る時のような感覚がして…」


「…え?」





一方、転送装置を使って自分の部屋へと戻ってきたロアが感じたものは、無機質な世界…無機質な自室へと戻ってきた感覚ではなく、何故か大好きなアルベルの夢の中に入った時の…あのふわっとした心地良さだった。

自分に不思議そうに首を傾げてしまったロアから。
用事が終わったらしく、彼女の部屋のベッドに座ったまま待っていたブレアはその言葉を聞くと思わず疑問符を口にしてしまいながらも徐々に目を見開いて何かを考え始める。
そんなブレアの横に同じく座りながらも、心地の良い感覚がまだ抜けきれていないロアはほんのりと頬を染めて、静かに目を閉じるとアルベルの事を密かに想うのだった。







会いたい…と、夢の中で何度も見て、何度も願った。
あの赤い瞳と、綺麗なグラデーションの髪と。
ぶっきらぼうで口が悪くて、それでも不器用ながら優しくしてくれる、低くも優しい声をしたアルベルの感覚を抱き締めるかのように。










「っ…エクスキューショナーはどこだ?」


「さぁ…兎に角ここがFD空間のようね」


「無事に着きましたね…良かった!」


「おいおい…敵の本拠地ってのはもっと緊迫感があるんじゃねぇのか、普通?」


「あぁ…少なくてもここは普通の街に見えるがな。肩透かしを食らった気分だ」




ロアがアルベルを想っているそんな中。
どうやら無事に何事もなくFD空間へと乗り込む事が出来たらしいフェイト達は街の住民から好奇の目を向けながらも状況を把握する為に各々が戦闘態勢を崩さないまま様々な物を視界に入れている所だった。


早く、早く迎えに行きたい、会いに行きたい。
やっと…やっとここまで辿り着いたんだ。
早くあの体を夢ではなく本当の意味で抱き締めて、容赦なく自分の世界に連れて帰る。
そんな思いばかりが募って、本当なら今すぐに闇雲にロアを探す為に駆け出したいアルベルだったが、何とか冷静さを保って踏み止まる。
それもこれも、全ては確実にロアを見つけ出す為だった。


そして不幸中の幸いか、はたまたエクスキューショナーがいるのは元々創造主が「消す」つもりの自分達の世界だけだったようで、そんな脅威のエクスキューショナーがこの世界に存在しない事を確認したフェイト達が戦闘態勢を一度崩せば、何やら軽快な足音が近づいて来ることに気づいて全員がその方向を向く。




「ねぇねぇ、お兄さん達、今エクスキューショナーって言ったの?」


「君は一体…?」



その視線の先にいた少年のキラキラとした、好奇心剥き出しな瞳と雰囲気を浴びて思わず拍子抜けしてしまったフェイト達だが、いくら少年と言えどもここはFD空間。
何があっても簡単に信用出来ないと全員が身構えれば、その少年は逆に警戒心などこれっぽっちもないとばかりに無邪気な笑顔を浮かべて自己紹介をした。





「僕はフラッド・ガーランド!」





確実に、確実に。
決して交わる筈のなかった空間が、世界が。
それでも想い合うアルベルとロアが。

無邪気な目の前の少年のその言葉と共にカチリと音を立てて…繋がった瞬間だった。



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