I found it




フェイト達がムーンベースにあるロキシ博士の研究者に向かっている間。
ロアはブレアから事の説明を受けているところだった。
その説明とは、ロアがアルベルの夢に入り込んでいる間にブレアがモニター越しに確認していた事で、どうやらアルベルを含むフェイト達はムーンベースという場所に向かっているらしい。
そして、ロアはこの時初めて聞くワードをブレアの口から聞くことになった。





「タイムゲート?」


「そう。タイムゲート。エターナルスフィアが私達の空間であるこの世界と唯一繋がれる場所よ。…と言っても、正確にはエターナルスフィアのデータを収集する為にこちらが設置したものなのだけれど」


「そんな場所があるんだ…でも、それがルシファーがエターナルスフィアを危険視する原因になったって、どういうこと…?」


「…それはね…私も詳しくはデータでしか把握していないのだけれど、どうやらエターナルスフィアの研究者がこちらのプロテクトを潜り抜けてしまったのが原因なのよ。そして、その研究者のラボがあるのが、フェイト君達が向かっているムーンベース。まぁ、時間的にももう辿り着いた頃かしらね…」


「…プロテクトって…それって良く分からないけど、つまりは厳重に隠してあったってことでしょ?それを潜り抜けるなんて…一体どれだけ頭の良い人なの…」


「……多分、これは私の想像に過ぎないのだけどね、その研究者は…………フェイト君のお父さんである、ロキシ博士だと思うのよ」


「………え………?!」





ルシファーのプロテクトを潜り抜けるだなんて、一体どうしたらそんな事が出来るんだ。
そう思ったロアが思わず驚いてしまったのもつかの間。
ブレアの勘によれば、その人物が何とアルベルが今共にいる、フェイトの父親だと知ったロアは言葉を失って目を見開く事しか出来なかったのだ。

とてつもなく嫌な予感がして、心の中で必死にアルベルに何もありませんように…と強く願って。














『このプロジェクトは宇宙暦752年に行った、惑星ストリーム探索の結果、開始されたものです。
惑星ストリームは周知の通り、時間を行き来出来る一種のタイムマシンのような存在、「タイムゲート」がある謎の惑星です。
752年の調査は、そのタイムゲートを含む惑星ストリーム全域の探索目的地で行われました。

タイムゲートは自分の意志を持っている。
そこまでは従来の研究所で分かっていたことですが、ゲートは一体誰が、何の目的で作ったのか、この点に関して答えることが出来る研究者はいませんでした。
しかし752年の調査によって、それが解明されたのです』





一方。
ロアがアルベルの無事を祈っている中、こちらでは代弁者を倒した後、何事もなく目的の場所であるロキシ博士の研究所に辿り着いていた所だった。
初めは特に役に立ちそうにない情報しか見つからなかったのだが、マリアの機転によって彼女の生体データを読み取ったデータベースはロキシ博士が巧妙に隠していたデータを表示し、今は全員でそのデータを見ている所。

目の前の大型モニターに映っている…今は亡き自分の父親の若い頃の姿とその言葉を受け入れるフェイトの瞳は力強く、少し離れた場所でそれを眺めているアルベルの表情はそれを聞き流しながらも何か考え事をしているようだった。




『数週間に渡る調査の結果、タイムゲートは紋章データに反応する事が判明しました。
そしてタイムゲートにある特殊な紋章データを流し込む事で、タイムゲート自身の記録データを取得する事が可能であることも新たに分かったのです。
しかしその記録したデータには我々の想像を超える恐ろしい内容が記されていました。



それは…FD人の存在です』





考え事をしているような様子のアルベルだったが、ロキシ博士が言った言葉を聞いた途端。
アルベルの態度は一変して、まるで何かに弾かれたかのように顔を上げてその言葉を口にしてしまう。





「FD…人…?」





FD人、と。
別にその言葉を知っていたわけでも、どんな存在なのかもアルベルは分からなかったが、何か。何か引っかかる気がしたのだ。
そしてその無意識の感覚は、それについて説明してくれたロキシ博士のお陰でどうして自分がその言葉に反応したのかということをアルベルは1人理解する。





『ForDimension人…、我々を遥かに凌ぐ技術力を有し、空間を行き来出来る人間です。そして研究を進めていくと、実は彼らこそ、我々の住むこの世界の創造主である可能性が出てきたのです。…我々が現在、普通に使用している紋章技術も彼らの残した技術でした。惑星ストリームのタイムゲートも、彼らの高度な紋章技術を使って、生み出されたものだったのです』


「っ…?!」




(っ……………生き、てる…世界が…違う…。空間が、違うの……だか、ら…会えない…こっちからはそっちの世界が見えるけど、そっちからは…無理なの…)


(…それは何故だ)


(……………っ、)


(早く言え)


(…………アルベルの………世界を、創った、のが………こっちの世界の…………、っ…私の………お兄ちゃんみたいな、人………だから…)





違う空間、自分達の世界を作った創造主。
モニターに映るロキシ博士からそのワードを聞いたアルベルは、無意識の内に脳内で少し前の出来事を思い出していた。
それは、自分が、あの時に決めたこと。


連れ出すと、攫ってやると。
あの時、目の前で…自分の夢の中で。
不安そうに自分を見ていたロアに、そう誓った時の事だった。
もしかしたら、もしかするのかもしれない。

やはり自分は、今自分の数歩前で真剣に亡き父の姿を見つめているこの男に、フェイトに着いてきて正解だったのかもしれない。

もしかしたら、もしかしたら。

そう思うと、神妙な様子でロキシ博士の話を聞いている仲間達に混ざり、アルベルは1人だけ笑みを零してしまっていた。







『我々はタイムゲートを時間を旅するものと認識していましたが、それは過ちだったようです。タイムゲートはFD人の世界である、FD空間への扉。時間旅行はFD空間の存在を我々に感知しないようにするプロテクトの結果、発生した事象なのです。
時間を行き来出来るFD世界…そこを経由する事でタイムゲートは時間旅行が可能だった。

その事が分かった時、我々研究者は沸き立ちました。何しろ今まで謎とされてきたタイムゲートのシステムを解明する事が出来た事に加え、新たなる人類の存在を確認する事が出来たのですから。
しかしその時、私達に想像も出来ない自体が発生しました。我々にタイムゲートが警告してきたのです。』





−…覚悟せよ
エターナルスフィアの科学は発達し過ぎてしまった。
最早見過ごす事は出来ない。…−



「…エターナル、スフィア?」



−…エターナルスフィアとは貴様等人間の世界。…−



「ゲートよ…科学が発展し過ぎたとは、一体どういうことだ…?」



−…紋章技術とは創造主の技術。
そしてその紋章技術を取り込んだ紋章遺伝学…これは禁断の科学である。
人間は愚かにも許されていない領域に踏み込んでしまった…過度に発達した人間の科学は、いずれ想像に牙を向けるかもしれない。
…近い将来、創造主は執行者を以て、人間を滅ぼすであろう。…−




目の前のモニターの画面が切り替わり、タイムゲートなのだろう大きな門の前でその容子が映し出されたのを目に焼き付けたアルベルは、まるで獲物を捉えたかのようにその赤い瞳を鋭く光らせてそれを見つめる。

もしかしたら、もしかしたら。

初めはあまり興味も無い、難しい話ならフェイト達が好きにやればいいのだと思っていたのに。

もしかしたら、もしかしたら。

流し聞きしていた中で聞こえたいくつかのワードが、ロアが言っていたワードと重なって、それは聞けば聞くほどどんどんとかさなるワードが増えていく。
そんなことに気づけば、きっと自分は今この場の誰よりも一番興味を示しているのかもしれないと思った。
それが例え…世界などどうでもいいとすら思っているような、そんな薄情な感情だとしても。





『タイムゲートの警告は恐ろしいものでした。創造主が創造物を滅ぼす。まさに幾多の予言書や宗教書に記述されている事が現実のものとなるというのですから。
…「紋章遺伝学を放棄すれば、人間は滅びを免れるのか?」
しかし、タイムゲートの答えは、我々の希望を脆くも打ち砕くものでした。』




−…無駄だ。今それを手放したとしても、近い将来またその意志を受け継ぐものが現れるだろう。人間とはそのような存在。
汚染は既に修復不可能なレベルにまで広がっている。
滅びは既に決定したこと。これは警告ではない。宣告である。…−





覚悟せよ



覚悟せよ



覚悟せよ







『ムーンベースに帰り着いた我々の茫然自失振りは物凄いものでした…人知を超えた存在に、将来の滅びを宣告されたのですから。
当初我々は銀河連邦上層部に報告する事も考えましたが、あまりにも突拍子も無い話。報告しても信じてもらえないでしょう、対応はその場に居合わせた研究者で決定するしかありませんでした。
創造主の滅びの意志を甘んじて受けるか、断固として戦うか…………

私達は…「戦いの道」を選びました。滅びの運命など受け入れる事は出来ない。同じく滅ぶのなら、戦って滅ぼう。
……そう考えたのです』





モニターに映るロキシ博士からの説明は、衝撃的な事実だった。
突然人間の滅びを宣告され、その事実を受け入れることすらかなりの時間を要したのかもしれない。
しかし、それでも戦いの道を選んだのは、もしかしたら彼らなりの意地があったのだろう。
どうせ滅びる運命だと言うのなら、足掻いたっていいじゃないかと。
戦わずして滅びるだなんてきっと、そんな…未来を諦めてしまうような事はしたくなかったのかもしれない。





『とは言え相手は創造主。いわば神のような存在。
絶対的な力を持つ相手に対して、我々はあまりにも無力でした…そこで、彼らに対抗する為に、強大な力を持つことが必要になったのです。
私達はその力として、創造主の力と同種の力特殊紋章遺伝子における創造力を人間に与えることにしました。
…それが、このプロジェクトなのです。』



「…それが……僕達なんだな……父さん……」


「…………」




自分達を、この世界を作ったという創造主に少しでも対抗する為…いや、最大限に対抗する為に。
ロキシ博士達が決断した方法…それは、彼らがモニター内で説明するよりも先にフェイトとマリアがぴくりと肩を震わせて声を出したことで反応した事で、他の仲間達はそれがどんな物なのか大体の察しがついた。




『被験者には2人の子供を選びました。
…彼らにはなんと詫びても許してもらえないでしょう。世界中から悪魔の謗りを受けるかもしれません。
しかし我々はこの研究こそが人類を救う唯一の手段だと思っています。彼らは、人類の希望なのです』




人類の希望…そうロキシ博士が言った途端。
フェイトとマリアはいつの間にか握っていた拳の力を更に込め、何も言葉を発することなく目の前のロキシ博士の言葉を受け入れる。


1人に与えた破壊の力、ディストラクション

1人に与えた改変の力、アルティネイション


この二つは、本人達も自覚しているものだった。
創造主に負けない程のフェイトの破壊の力と、物事を、科学さえも改変するマリアの力。



この2人の特殊な力は、この為のものだったのだ。
例えそれが人間の滅びを宣告させる理由になってしまった、紋章遺伝子学を用いた方法だとしても。
…いや、寧ろだからこそ彼らはこの方法を思いついたのかもしれない。
滅びの理由になってしまったこの技術で、未来を…希望を取り戻す為に。





そして、それは…その思いは、





『しかし、彼らの2人だけの力では創造主であるFD人相手にどうにか出来るものではないでしょう。
ですが、FD空間へ乗り込み、直接彼らの統治者を倒すことで、活路が見い出せると信じています。

その為に我々はタイムゲートにFD空間を繋ぐ紋章遺伝子、空間を繋ぐ力…コネクションを、次の子供、エスティード博士の子供に託しました』




「え…っ…、?」





もう1人の少女にも、託されていたのだった。

きっと、この瞬間に誰もが自分の目を疑っただろう、自分の耳を疑っただろう。

しかし、しかしその中で1人だけ。





「っ………見つけたぞ………ロア……っ!」





まるで、心底楽しそうに。
まるで、今にも何かを掴みにかかるかのように。

うずうずとする体を気持ちだけで必死に抑えるのが精一杯で、口元が素直に弧を描くのを抑えられなかったアルベルの声が、僅かに響いた。


「見つけた」と、夢の中で、現実で。
何度も何度も会いたいと思うようになった、ロアを想って。



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