The real reason




フェイト達が自分達の今後の方針を決め、それならばまずは治療していたアルベルを故郷に帰そうと誰もが思っていたその時だった。
途中から話を聞いていたのだろうアルベルが部屋に現れ、あろう事か自分達に着いて行くと言う。





「え?!今、なんて……?」


「お前達に着いて行くと言った」


「貴方…自分で何を言ってるか分かってるの?もしかしたら、二度と故郷に戻れないかもしれないのよ?!」


「ああ。分かってるさ。それがどうした?」


「それがどうしたって…お前なぁ!全然分かってねぇって!!」





自分達に着いて行くとはどういうことか分かっているのかとフェイト達がアルベルに問うが、本人はそんな事など分かっているとさも「まるで気にしていない」というようにスッキリとした表情をしている。
何故そこまで淡々としていられるのか…誰もがアルベルの態度を見てそう思ったが、それはアルベルから発せられた次の言葉で誰もが「彼らしい」と納得してしまうものだった。





「お前達のせいで戦争は終わり、ヴォックスの奴も死んだ。あの地に俺の心を燃やす奴はもういない。だったら新しい地でそれを見つけるのみだ。分かるか?阿呆」


「いや…だけど…」


「もっとも。お前達がこの俺を足手まといだと言うなら、話は別なんだがな」


「足手まといだなんてこたぁこれっぽっちもねぇがよ…」





この言葉は、これが普通の人ならば大丈夫か?と思うかもしれないが、アルベルが言うのであればそれはそうだろう…と彼をある程度理解している人間なら納得してしまうものだった。
アルベルは「強さ」で人を区別する所があり、強い者ならそれが良いか悪いか何てものは特に関係がない。
つまり…強さこそが正義だと思っている彼にとって、もう戦争もなければヴォックスもいなくなってしまった故郷では彼の本能を燃やす存在はいないのだろう。

尚且つ、「足でまとい」だなんて絶対に本人だって思っていない筈のことを言われてしまえば、その強さを共に戦って充分に理解しているフェイト達はその提案に甘えてしまう他なかった。





「…いいですよ。一緒に行きましょう」


「あん?!」


「いいの?」


「あぁ。いいんだ、もう決めた。いいだろ?」


「…分かったわ。君がそう言うんなら、私も反対はしない」


「かぁーっ、しゃぁねぇな」





父が亡くなってしまってから意気消沈していたフェイトは、どうやら腹を括った事でその決断力も力強いものとなっていたのだろう。
彼の中で決意が固まった事も相まって、素直に心強いと思えるアルベルの提案をしっかりと頷いて了承したフェイトに対して初めはクリフ達も驚きを隠せずにいたが、確かにアルベルが仲間になれば心強い…と皆それ以上何かを言うことはなかった。





「ということで…アルベル、よろしく頼むよ」


「…フン」


「…なら、聞いていたかもしれないけど、アルベルにもこれからの僕達の目的を話しておいた方が……………って、あ。そういえばアルベル…」


「…何だ」





そんなフェイト達に満足そうに腕組みをした…何処か機嫌が良さそうなアルベルを見たフェイトは、それなら今後の事をアルベルにも話した方が良いだろうと説明をしようとした時だった。
ふいにある事を思い出したらしいフェイトが「あ。」と声を出すと、周りの皆はどうした?と首を傾げる。

それは腕組みをしたままのアルベルも「何だ」と聞く体勢だったこともあり、フェイトは少し遠慮がちではあるものの、気になったことをアルベルに問い始めた。





「そういえばお前さ、あの時…えっと、「ロア」って人がどうとかって言ってなかった?」


「!」


「あーそういやぁ何かそんな事言ってたな……いや、それなら尚のこと帰れなくなったらどうすんだ?事情は良く分からねぇが、お前はそいつを探してるんだろ?」


「…っ…チッ…!」


「…いや、言いたくないなら別にいいけどさ…もう本当にここまで来たらお前を故郷に無事に帰せるか分からないんだ。…それならやっぱり…」


「っ、そうじゃねぇんだよ…!」


「…え?どういう事だよ?」




そう。
フェイトが思い出したことと言うのは、あの時、自分達を助けてくれたアルベルが攻撃を受けて気を失う時に口にしたロアの事だったのだ。
探し人がいるのなら、いくら着いてきてくれれば頼りになり、それが本人からの希望だとしても、彼を自分達に付き合わせてしまうのは…とフェイトは考えたのだろう。
そしてそれを同じく思い出したクリフもフェイトの考えに同調すれば、アルベルは気まずそうに舌打ちをする。

その様子からどうやら言いたくないような事だと判断したフェイトだったが、アルベルが少し間を置いて言葉を口にした事で、フェイト達は聞いていいものだと判断して耳を傾けた。





「俺の探している奴は、俺の世界にいねぇんだよ…!」


「はぁ?ならお前まさか、エリクール二号星の人間じゃなかったって事か?」


「そうじゃねぇ。俺は元からその星に生まれ育った。お前達に会って初めて他の世界を知った」


「なら一体どういう事だよ?何でそんなお前が他の星の人を知ってるんだ…?」


「っ…多分他の星でもねぇ」


「なら何処だよ!だーもうハッキリ言いやがれってんだ!そいつはお前の何で!何処で出会ったんだ?!気になってしょーがねぇ!」




フェイトとクリフの問いに、まるで苦虫を噛み潰したような…物凄く悔しそうな…何とも複雑そうな顔をしながら渋々答えるアルベルのそんなちぐはぐな回答に痺れを切らせたらしいクリフが結局つまりはどういう事なんだ!と少し声を張り上げれば、アルベルははぁ…と深いため息をついてしまう。
そんなに言いたくない事情があるのか、いや、それでも本人は言ってくれそうだし…と全員が黙ってアルベルの言葉を待てば、アルベルは半ばヤケになったかのように声を上げた。





「探してるのは…!俺の…っ、夢に出てくる女だ!迎えに行くと約束した…!」







……………………………………………。








「……悪い。何言ってんだお前」


「っ…もういいだろうが!兎に角俺はお前達に着いて行く!分かったらとっととそのムーンベースとやらに向かいやがれ阿呆がっ!!」


「え?あっ、いや…!ごめん僕も予想外過ぎて反応が出来なかったんだけど…つまりお前は夢の中で出会った女の子を探してるって事だよな?」


「うるせぇ!!これ以上俺に何も聞くなクソ虫っ!!」


「へぇ?夢の中の女性…ね…にわかには信じ難いけれど…」


「行けと言っている!!!」





アルベルが言葉を発してからかなりの間を置いて。
思わず素で「何言ってんだ」と口にしてしまったクリフに怒鳴ったアルベルの声でようやく我に返ったらしいフェイトがそう言えば、アルベルはもういいだろうと全員から視線を逸らしてしまう。
そんなアルベルの恥ずかしそうな悔しそうな表情が見えないようでチラリと見えたマリアが興味本位で口を開けば、アルベルは再度声を張り上げてその場にいる全員を部屋から追い出そうとする。

そんなアルベルに「はいはい」と未だに訳が分からずも目的地であるムーンベースに向かう為にアクアエリーと通信をする為にマリア達がミラージュの元へとその場を後にした中。
フェイトとソフィアは何故かそれに着いて行かなかった。





「っ、お前達も早く…!!」


「あの!!あの!アルベルさんっ!!」


「っ、?!何だっ?!!」





マリア達に着いて行かなかったフェイト達にも声を掛けようと振り向いたアルベルだったが、何故かその不機嫌極まりない、これでもかと眉間に皺を寄せた表情は一瞬で拍子抜けしたかのような表情に変わってしまう。
それが何故かと言えば、それは振り向いた瞬間にガシッ!!!と勢い良くソフィアに両手で右手を掴まれたからだった。
おまけにその瞳はキラキラと輝いており、先程大人しくしていた彼女とは到底思えない程生き生きとしたものだった。





「素敵…!!素敵過ぎますっ!!ごめんなさい、私、アルベルさんって怖い人だなって思ってたんですけど!そんな事なかったんですね!!夢の中で出会った女性を探すだなんて…っ!あーーもう…!!凄いロマンチックじゃないですかっ!!」


「…………は?」


「私っ!!一緒にそのロアさんって方を探すのを手伝います!!あっ、勿論優先は出来ませんけど…!それでも!お手伝いさせて下さいっ!!…ね?!フェイト!!」


「あはは!まぁ、ソフィアならそう言うと思ってたけどね。勿論、僕も出来る限りの協力はするよ。お前には何だかんだ助けてももらったからね」





どうやらソフィアはそういった類いの物が大好きだったらしい。
アルベルの言ったことをまるで疑いもせず、その今も尚キラキラとした輝かしい瞳はアルベルから後ろにいたフェイトへと移った。
そんな眼差しを受けたフェイトもソフィアのその反応が事前に分かっていたらしく、軽く笑いながらもソフィアと同じようなことをアルベルに言い放ってみせた。

そんな2人にすっかり拍子抜けしたアルベルが先程の怒りも忘れて言葉を失ってしまえば、フェイトは珍しい表情が見れたな…と余裕そうに笑みを零す。





「……信じる…のか?俺の話を…」


「そりゃあね。お前がそんな事を嘘で言うとも思えないし。…でもそっか…だから故郷に帰れなくてもいいだなんて言ったんだね。いる場所もどうやらエリクール二号星じゃないようだし。まぁそれくらいそのロアさんに会いたいって事か……ヴォックスのことは半分方便かな?」


「っ!てめぇ…!!」


「アルベルさん!その人ってどんな人なんですか?!そこまでするってことは勿論好きなんですよね?!いつから好きになったんですか?!馴れ初めは?!どんな出会いだったんですかっ?!」


「っ!!黙りやがれ!!ムーンベースとやらに行くんだろうがっ!!下らんことを聞く暇があるなら自分達の事を片付けろこの阿呆っ!!」





自分の目の前で、幼馴染のソフィアに質問攻めにあっているアルベルにバレないようにこっそりと笑ったフェイトは心の中でこう呟いた。

不機嫌ではあるものの、ロアという女性を「好き」ということは否定しないんだな…と。





(お前の意外な一面が見れたよ)


(黙れと言っているっ!!)




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