それぞれの強がり





綺麗な花火だった。
計算外の、熱く燃える炎の花。
大きく大きく煌めいて、世界を照らして。

あの光景を見た途端に走馬灯のようにダイゴとの出来事が蘇って、その度にどれもこれもが大切な物だと再確認したのを覚えてる。


でも…そういえば、何でだろう。

どうしてあの時…




「な……なんて…っ、美しいんでしょう…か…」




あの、ベテランのMCさんがそう言ってくれた時に自分がいる場所を思い出して、ふと隣のダイゴを見た私は花火よりもその光景に夢中になってしまった。




だから、だから…どうしてあの時のダイゴは…






私を見て、静かに涙を流していたんだろうって。











「………ん…」


「……!?シアナ?!シアナ!!おじさん!おじさんっ!!シアナが起きたっ!!!」


「…?…あれ…?」




コンテストバトルでの出来事を思い出していれば、段々と左手から伝わってくる熱に気がついたシアナが目を開ければ、そこには目を真っ赤に腫らし、涙目でその手を握っているアスナの顔が目に入る。
その途端に目を見開いたアスナは弾かれるように後ろを振り向くと、扉に向かって「おじさん!」と大声を上げた。

その瞬間にガッシャァーン!と何かが割れる音と看護婦の叫び声がして、その後すぐに「すみませんっ!!」という父親の声が聞こえたシアナはその声でやっと覚醒すると、目の前にいるアスナへと問い掛けた。




「っ、ダイゴ!!ねぇアスナ!!ダイゴは?!」


「ん。大丈夫、ダイゴさんなら無事だよ。まだ目は覚めてないけど、医者が言うには命に別状は無いって」


「!!本当…本当?!…よ…良かった…!!」




ダイゴは、ダイゴは無事なのかと慌てて聞いてきたシアナを安心させるように、その頭をぽんぽんと叩いて答えてくれたアスナの優しい顔を見たシアナはゆるゆると涙を滲ませ、頬を染めて深く深く息を吐く。
恐怖からの安堵からか、全身が震えて息を吐くのが精一杯なそんなシアナの背をアスナが摩っていれば、ドタドタと騒がしく部屋に入ってきたセイジロウはシアナの顔を見た途端に顔をぐちゃぐちゃにしてその華奢な身体を思いっきり抱き締めた。




「お、お父さん…ご、ごめんなさい…心配かけて…」


「あの場にいなかったお父さんが悪かった…悪かったから…っ!!お前までいなくならないでくれシアナ…!!」


「…うん、大丈夫、私は大丈夫だから…」


「お父さんは…っ!!私は…!お前がいなくなったら生きてる意味も、何の意味もないんだ…ないんだよシアナ…!!」


「…ふふ。ありがとうお父さん…」





年甲斐もなくわんわんと泣き出す父を宥めるようにせっせとその背中を摩るシアナを見て、本当に良かったと胸を撫で下ろしたアスナは、セイジロウを落ち着かせる為に話題を変えようと目の前で抱き合っている親子に声をかけた。





「そういえば何でおじさんはあの日会場にいなかったんですか?」


「あぁ、お父さんはね…あの日は今までの研究が実って、論文を専門の大学に提出しに行ってたんだ。マツブサさんがずっと影で働き掛けてくれてたみたいで…それが評価されれば自分の研究所が持てるのも夢じゃないって言ってたから…」


「え…凄いじゃないですかおじさん!」


「シアナがいないとそんなの何の意味もないんだぁぁあぁあ!シアナ…シアナー…!!」


「…駄目だこりゃ…」


「駄目だね………えっと…あ、あのねアスナ…この状態で聞くのも何なんだけど…」


「うん?…あーちょっと待って……………………はい、何?」




話題を変えようとしたアスナだったのだが、それはどうやら更に彼の地雷を踏んでしまったようで、余計に泣き出してしまったセイジロウの様子を見たアスナはやってしまった…と申しわけなくなりながらも思わずため息をつく。

すると、少し控えめにセイジロウの肩から顔を出したシアナが問い掛けて来たことに首を傾げたアスナは、泣いているセイジロウを何とかシアナから引き剥がすと、ぐすぐすと鼻をすすっているセイジロウにティッシュを私ながら再度シアナからの話を聞く体制を作ってくれた。




「…ダイゴとの面会って、出来る…?目を覚ましてなくてもいいから…」


「…あ、ごめん…そうだよね…顔見たいよね…!?えっとね、面会は出来る筈だよ!ムクゲさんはさっき帰った所で…今はジンとミクリさんがまだ部屋にいるけど…一緒に行く?」


「…うん、行く…!」




目を覚ましてなくてもいい。会話が出来なくてもいい。
それでもダイゴに会いたいと言うシアナの言葉を聞いたアスナはそれはそうだよな…とシアナの気持ちを考えて思わず謝りながらも今の状況を彼女に伝える。

謝ってしまったのは自分がシアナを独占してしまっているように感じてしまったからだが、長年付き合っている彼女にそれを素直に伝えれば「怒るよ」と頬を膨らませてしまうのだろう。
シアナからすれば、目が覚めた時にアスナが隣に居てくれ、目を腫らすまで泣きじゃくっていた事が申し訳なくも嬉しかったのだろうから。




「…うん!じゃぁ案内するよ。おじさんも一緒に行きましょ?」


「…そうだな…シアナ、立てるか?」


「ん。大丈夫…」


「ならおじさんはシアナを支えて上げててください。あたしは看護婦さんにシアナのこと伝えて来ますから!」


「分かった。ありがとうアスナちゃん」




起きたばかりでまだいくらかふらついてしまうシアナを気遣って、看護婦に話をしてくると早足で部屋から出ていくアスナの後ろ姿を見ながら。
そのアスナが扉を開けた時にカタカタと音を鳴らしたのに気づいたシアナは再度涙を滲ませてしまう。

何故ならきっと、アスナはかなり強がっていたという事がその音で直ぐに分かってしまったからだ。
そしてそれは、目を覚ました自分が安心出来るように泣くのを我慢してくれていたという事。

きっと今頃は扉の外で泣きじゃくっているのだろうアスナを思って、少しだけ微笑んだシアナはゆっくりと父親の腕に掴まったのだった。



















「…ジン、考えている事を当ててあげようか」


「…なんだ急に」


「まぁまぁ。付き合ってくれたまえよ。…でないと私が押し潰されそうになるんだ…」


「…まぁ何となく俺もお前が今考えてることは分かっけどな」




一方、こちらは病院の最上階にあるダイゴの病室。
未だに眠っているダイゴの部屋の椅子に座っていたミクリは、窓に寄りかかって外を眺めているジンの後ろ姿に声をかけていた。

そんなジンは少しだけ振り向いてミクリの表情を確認すると、少しだけど間を置いて自分も分かると返事をする。
その返事が「話してもいい」のだと解釈したミクリは一度目を伏せるとジンから視線を外してぽつりぽつりと話し出した。





「……お前はきっと、立場を捨てて、責務を放棄して…沢山の人を見捨ててでも一番に親友を助けるべきだったと後悔していないか?」


「……その逆で、お前は私情に走って…自分がチャンピオンであるダイゴの顔に泥を塗ったとでも思ってんだろ」


「……どちらが正解だったんだろうな。考えても考えても分からないのに、あの時最善の手がもっと他にあったのではないかと考えてしまう」


「………」


「…まぁ…今こうして考える時間が出来て少し意外だと思ったのは、周りの人間を「俺には関係ない」と放置しそうなお前が真っ先にあの行動を取ったことだな。…変わったよ、お前は」


「…そっくりそのままお前に返すよ」





ジンもミクリも。
お互いがお互い、その顔を見ることはない。
でも、それでもお互いが今どんな顔をしているかなんて手を取るように分かるのだろう。

変わったというのは…それは良い事なのだろうか。
本来の自分達なら、数年前の自分達なら。
きっとあの時の行動が真逆であったのは容易に想像出来るのに、いくら後悔しても、いくら考えても。
そんな事など時間の無駄で、今となってはどうしようもない事なのに、それでも考えてしまうのは…いつまで経っても同じ空間にいる筈なのに声を発さない…自分達を変えたのだろう親友がその場にいるからかもしれない。

そう思った2人が一度目を伏せようとしたその時。
一瞬くぐもった声がベッドから聞こえた気がした2人はハッと弾かれるようにそちらを向く。





「っ……あれ…お前達なんでここに…?というかここ、何処…?」


「!ダイゴ!!良かった…!目が覚めたのか!」


「っ…はぁ、やっと起きたかお前…ふざけんなよマジで…」


「え?何の話?……っ、え…何…凄い頭痛いんだけど…」




向いた方向にいたダイゴが目を覚まし、起き上がろうとするのに気づいて咄嗟に駆け寄ったミクリがその身体を支えれば、ダイゴは「痛い」と自身の頭に手を添えて目を細める。
そしてその頭に包帯が巻かれていることに気づくと、駆け寄りはしないものの、目の前で震えるような深い息を吐いているジンが珍しく何も言ってこない事でようやく自分が2人に相当な心配をかけていた事に気づいたのだろう。
「ごめん」と一言謝り、それについて良く思い出そうとするが、起きたばかりの事なのかまだ上手く頭が働かない。

すると、そんなダイゴに事の説明をしようと安堵の様子を見せながらミクリが口を開きかけたその時だった。
テーブルの上に置いてあったとある物を見つけたダイゴは首を傾げながらそれを指さすと、信じられない言葉を口にしたのだった。





「……?ねぇ、あの空色のネックレスって誰の?」



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