僕と君の色





「うわぁー…!凄い人の数…!」


「流石一大イベントってだけはあるな」


「ジンって今までプロモーションカップは見たことあるの?」


「いや、俺はプロモーションカップってもんが出来る前にはホウエンを離れてたから、存在は知っててもこうして見るのは初めてだな」


「そっか!じゃぁ楽しみだねっ!あ、ポップコーン食べる?」


「めっちゃ堪能してんなお前」




プロモーションカップ当日。
混雑を防ぐ為、開演される一時間前からチケットに振ってある番号順に席に通された観客達はスムーズにその席を埋め、各々が期待に胸を膨らませてざわざわと辺りは騒がしい。

そんな中で、ステージから見て真ん中にある列に座っているアスナは隣にいるジンへと楽しそうに声をかけていた。
一体いつ買っていたのか、手にはバシャーモをイメージしたボックスに入ったポップコーンが握られている。
正直甘いものがそんなに好きではないジンだったが、「味はチリペッパー」とアスナに言われて思わず手を伸ばしてしまった。
ジンにとって、禁煙のこの会場で暇になってしまっていた口の中を埋められるなら万々歳だったからだ。




「このチリペッパー味はシアナが監修したんだってさ!本人が言ってた」


「あいつそんな事もしてんのか」


「因みに「キラキラスターの実のパーフェクトグレイト味」っていう七色のポップコーンがあったけど、それはミクリさん監修らしい」


「最早何処から突っ込めば良いか分かんねぇな」




どうやらコンテストマスターの2人はとことんこのプロモーションカップに力を入れていたらしい。
それだけあの2人にとってこのイベントは大切なものなのだろう。
コンテストマスターの中でも選ばれた物しか参加出来ない特殊なこのイベントは、言ってしまえば公開面接と言ったもの。

合格すれば選手という枠を超え、運営側としても活躍出来るようになる…つまりはホウエンを背負ってコンテストを世界に広める立場になるというだけあって、そのレベルは凄まじいと聞く。
確かにそんな世界レベルの物ならこの盛り上がりも納得がいくし、何より自分達が良く知っているあの2人の熱量にも頷けるわけだ。…まぁ七色のポップコーンは正直どうかと思うが。




「……あっ!いたいた!ジンさん!アスナさんっ!」


「あ!ユウキくん!おかえりー!ハルカちゃんどうだった?」


「あはは!ガッチガチに緊張してましたよ!解して来ました!」


「そりゃご苦労さん。つかお前それ買ったんかよ」


「美味いっすよこれ!ジンさんとアスナさんも食べます?」




シアナ監修のポップコーンを口に運んでいたジンとアスナが声を掛けられて振り向くと、そこには明るく笑って帰ってきたユウキがいた。
今回シアナに推薦されてこの大会に参加するハルカの控え室にお邪魔していたらしいが、話を聞く限り相当緊張していたらしい。

しかしそこは幼馴染みの力なんだろう、見事にその緊張を解してやったらしいが、その達成感なのかは知らないがその手には先程アスナから話を聞いたミクリ監修のポップコーンのボックスが握られていた。
ミロカロスのイラストが描かれたそのボックスは中身の色も相まって物凄く派手派手しい。





「…すげぇ味だな」


「…何か一周回って全部同じ味な気がしてきた」


「色ごとに分けて食べるのが良いらしいっす!あ、因みにこのピンクはモモンで、この黄色はパイル味らしいっすよ!んぐ…どれががスターの実らしいです!なんか宝探しみたいっすよね!」


「え?!何それ気になるじゃん!」


「楽しそうでなによりだわ」





ジンの隣の席へと戻ってきたユウキも加わり、話が弾んで大会への期待が更に膨らんだらしいアスナとユウキが楽しそうにポップコーンの中の隠れスターの実味を探し始める。
座り順のせいでそれに挟まれているジンは大層窮屈そうな表情を浮かべるものの、まぁたまにはこんなのも良いかと腕組みをして目の前のステージへと目を向けた。

もうすぐあのステージに現れるのだろうダイゴを想像して「これは見物だな」と誰に言うでもなく呟けば、タイミングを見計らったかのように辺りの照明が落ちる。
その瞬間、ざわざわと騒がしかった会場内の声はぴたりと止み、かなり有名な大物MCの声が沢山のスピーカー越しに流れてくる。






「皆さん大変お待たせ致しました!記念すべき第5回…プロモーションカップ…!皆さんにお見せするお時間がやって参りましたぁっ!会場の皆さんも、テレビでご覧の皆さんもっ!心の準備は宜しいでしょうか?!」





テンション高らかにMCが声を上げた瞬間。
ぴたりと止んでいた観客達の歓声が辺りに響き渡る。
そんな中で真っ暗だった会場に突如光が差し込み、眩しいスポットライトに照らされて現れたのは各々のパートナーをイメージした衣装を纏って見事にドレスアップされたミクリとシアナだった。
その2人がステージの上でお辞儀をした瞬間に、今度は会場内が拍手喝采に溢れ、それはジンの隣にいるアスナの「きゃー!シアナーッ!!」という大声の歓声がかき消される程だ。





「レディース&ジェントルメン!!本日はこの会場に足を運んでくれたこと、本当に感謝するっ!!その期待に答えられるような素晴らしい大会にする事をここに誓い…また、素晴らしい私達の同士が誕生する事を心から願おうっ!」


「この日まで、必死に沢山の努力を積み重ねてきたのでしょう、参加者の輝かしい新たな一歩を本日皆さんと共にこの瞳に映したいと心から願っています!さぁ…それでは…」


「「プロモーションカップ!今ここに開催を宣言しますっ!」」





両手を広げ、声を揃えてそう言い放ったミクリとシアナに合わせるように、ステージの上にある大型モニターには「第5回プロモーションカップ」と表示される。
拍手喝采が鳴り止まない中、この会場にいる誰もが待ってましたとその期待を全面に出して盛り上がる中、笑顔のミクリとシアナは一瞬アイコンタクトを取るとステージの入口へと振り返った。





「この興奮を更に高めてくれる本日のスペシャルゲストをお呼び致しましょう!あまりの興奮に気絶なんてしたら大変ですからねっ!皆さん心をしっかりと保って下さいっ!…それではご紹介致しましょう!第5回!プロモーションカップの今回のスペシャルゲスト…!!」




MCの台詞を聞くまでもなく、この場にいるもの、そしてテレビで見ている観客の誰もが事前に告知されていたのもあって、その人物が誰なのかというのは知っている。
しかし、それでもこの瞬間は誰もが息を飲んでしまう程に、その人物の存在感というものは凄まじいのだろう。
あれ程盛り上がっていた会場内からは沈黙が流れ、今か今かとその時を待っている。





「聞いて驚けっ!見て轟けっ!!我らがホウエンチャンピオン!!ツワブキダイゴさんでーーーすっ!!!」





MCの声に合わせて。
ステージに立っているミクリとシアナがその手で視線を集めるかのように示した入口から現れたダイゴは、いつものスーツとは異なる格好をしていた。
ミクリとシアナがミロカロスとバシャーモを表現した衣装なのもあって、それに合わせたのだろう。
誰が見ても一目瞭然のその衣装は上手くメタグロスをイメージしたもので、それは鋼の光沢を忠実に再現しつつもしつこくない絶妙なバランスで表現している。
ミクリとは違って、派手派手しいものではないにしろ、いつもの彼の服装に合わせて作られたその完成されたデザインスーツは流石デボンコーポレーションと言ったところか。

そんな我らがホウエンを背負うチャンピオンの登場に、会場内からは再度歓声と拍手、それに混じって指笛まで吹く者も現れ、その場は一斉に歓喜の海へと変わる。





「ご紹介に預かりました。僭越ながら今回のスペシャルゲストを務めます、ツワブキダイゴです。僕もこの大会はとても楽しみにしていましたので、こうしてこの場に立っていられることは僕の誇りです。本日は皆さんと共に合格者の誕生を見届けられればと思っています!」


「ツワブキダイゴさんっ!!流石の立ち姿っ!!これはファンも大喜びだぁーっ!!しかし!しかしっ!!これからお見せするスペシャルなイベントがありますよっ!!さぁ皆さん!上をご覧下さい!大きなくす玉が二つ降りてきましたね!!今からこれのどちらかをダイゴさんに割っていただきますよ!そして…その割れたくす玉の中身が…」





ミクリとシアナ、そして登場したダイゴが注目を集めている会場の上。
そこからMCの説明と共に、クレーンでゆっくりと降りてきたのは二つの大きなくす玉だった。
誰もが何だ何だとざわざわと騒ぐ中、高いテンションのままにくす玉が完全に降りてきたタイミングを計って声を上げたMCの声が会場内に響き渡る。





「緑ならミクリさん!青ならシアナさん!…このどちらかとダイゴさんがコンテストバトルを致しますっ!!さぁダイゴさん!お好きな方を選んで下さい!」


「どっちかな?!どっちかな?!ねぇジン!どっちだと思う?!」


「…そうだな…俺の勘だと…」





目の前の展開に、思わず興奮が収まらなかったのだろう会場内の歓声に混ざり、隣に座っているジンにどっちだと思うか聞いたアスナは瞳がキラキラと輝いている。
それが照明の光を映しているのか、それとも彼女自身の光なのか。

それがどちらなのかは簡単に想像がつくのだろうジンは、その問いに対して静かに隣にいるアスナとユウキに聞こえるくらいの声量でその答えを口にした。

そして、その答えがテンションの上がっているアスナとユウキに届いた瞬間。
ダイゴのボールから飛び出したメタグロスのバレットパンチが彼の選んだくす玉を攻撃する。







メタグロスのバレットパンチによって割られたくす玉から溢れた、その紙吹雪の色は…






「…ビンゴ」






この会場の上に広がる、広い広い空も。
この会場の近くにある、広い広い海も。
同じ括りの色でこの世界を彩って、同じ括りでそのくす玉を選んだダイゴ自身を安心させる色。

そしてその紙吹雪は、その色がとても似合う人物の周りを舞い踊り、揃ってぴたりと止んでいた歓声は、MCの声によって再度大きく轟く。





「…!!青っ!!青色ですっ!!!」




そう。
分かりきっていたのだ、そんな事。
このホウエンを背負うチャンピオンのダイゴが。
それよりも遥かに背負いたいものと出会って、それを世界で何よりも大切にして、愛している彼女を表すその色を引き当てられない筈が無いのだから。



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