少女との再会




「シアナさんシアナさんシアナさんシアナさぁぁん!!うわぁあん!!!!」


「うわっ、と…!!ふふ、ごめんねハルカちゃん…!心配掛けちゃったね…?」


「心配するにっ、決まってるじゃないですか!!全然あえ、会えないし!!ダイゴさんはあんな事になってるし!まずジンさんを捕まえるのだって苦労したんですよ!!?」


「俺も背後からいきなりエネコロロでシャドーボール撃たれるとは思わなかった。二度とごめんだわ」


「それについては俺から謝りますすいませんジンさん…」


「まぁ避けたからいいけどな」


「ポケモン並の運動神経」



ユウキがジンと共にダイゴのお見舞いに行き、その帰りに待ち合わせの場所でハルカ達を連れて訪れたのはマグマ団の一室でポケモン達のブラッシングをしていたシアナの所だった。
扉を開けて見えた、そんなシアナの姿を見た途端にすぐ様駆け寄って抱き着いてきたハルカを何とか受け止めたシアナは、えぐえぐと泣きながら「良かった良かった」と繰り返しながら、ジンを捕まえる為にシャドーボールまで放ったというハルカに困ったように笑うと、謝罪をしながらその頭を優しく撫でる。

シアナ本人も流石に心配を掛けてしまっていたのは分かっていたのだが、今の状況が状況だけに中々こうした機会を作れなかったのだ。
それもこれも…用心深いジンが居てくれなければ、まだ身を隠しているシアナはこうして会うことだって難しかっただろう。




「でも、俺もシアナさんの顔が見れて安心しました!本当、無事で居てくれて良かったです…」


「ふふ。ユウキくんもありがとう。アスナやジンくん達も居てくれるし…こうしてバシャーモやエルフーン達もずっと傍にいてくれるから、私は大丈夫」


「…なら、感動の再会を果たした所で、俺はこれからちっと用があるんでもう行くが……おい、いつまでそこに居るんだ?入ってこいよ」


「え?まだ誰かいるの?」




ずっとシアナに引っ付いてその存在を噛み締めていたハルカが一旦ゆっくりと離れていったのを確認し、その後ユウキもシアナと会話出来たのを見届けたジンは、自分の後ろにいるのだろう誰かを呼ぶ。
その様子に素直に首を傾げたシアナなのだが、それはその人物が控えめにゆっくりと部屋に入って来たことで驚きの声を上げてしまった。




「え、セレナちゃん?!」


「お、お久しぶりですシアナさん…!えっと、本当に…無事で良かった…!私、ずっと心配で…!本当はプロモーションカップが終わった時に挨拶に行こうと思ってたんですけど…!あんな事があった、ので…!」


「あの後カロスからお前を追ってコンテストバトルの勉強をしにホウエンに来てたみたいでな。お前とダイゴが瓦礫に埋もれてる時に駆けつけて手を貸してくれたんだよ。会場のチケットは少し前に知り合ったらしいそこのハルカから貰ってたんだと」


「そう、だったんだ…!ありがとうセレナちゃん…!何てお礼を言ったらいいか…」


「っいえ!少しでも役に立てたなら、よか…っ、ぐす、うう…シアナさぁん…!!」


「ふふ。…ほら、おいで?」




自分の登場に驚きつつも、ジンの説明で諸々を把握したシアナがお礼を言ってきたその表情に安心したのだろう。
ゆるゆると涙腺が緩んでしまったセレナが言葉を詰まらせてその名前を呼べば、シアナはハルカの時のように再度困ったように笑ってゆっくりと両手を広げた。
すると、隣にいたままのハルカがまたその胸に飛び込み、セレナも同じように飛び込めば、シアナは嬉しそうにその二つの華奢な体を抱き締めてよしよしとその頭を撫でる。

そんな3人の様子を見たジンは心做しか安心したように息を一つ吐いてみせると、先程言っていた用事とやらでそそくさとその場を後にしてしまい、ユウキはシアナのポケモン達が座っているソファに腰を下ろして暫くその和やかな光景を見守るのだった。












「…え?セレナちゃんの面倒を見ることになった?」


「うん。面倒っていうか…なんて言ったらいいんだろう…指導とかアドバイスとかって言った方がいいのかな?他にどうお礼をしたらいいのか分からなくて…」


「ふーん…?それはまぁ…あんたが変なスイッチを入れる事がなきゃいいだろうけど…でもどこでやるの?まさか外でやる訳にはいかないでしょ?」


「あ、それは大丈夫!マグマ団の一番地下にバトルフィールドがあるらしくて、そこを借りれることになったから。時間がある時にハルカちゃんと一緒にこっそり顔を出してくれるって言うし…変なスイッチも入れないように気をつける…!」


「なるほどね!まぁあんたも今は大人しくしとかなきゃいけないし、当然コンテストにも携われなかったわけだから、そこは一石二鳥じゃん」




そしてあの後。
暫く4人で他愛ない話をしたり、ポケモンの紹介をしたりして過ごしたシアナは今、タイミング良く電話をくれたアスナと通話をしている所だった。
隣にはボールから出たままのルガくんがまだそこまで元気の無いエルフーンとじゃれてくれている姿があり、そんな様子を壁に寄りかかって見守ってくれているバシャーモとも目が合ったシアナは、そのお陰か大分心が穏やかな状態だった。
そんなシアナのいつも通りな雰囲気に安心したアスナが電話の向こうで微笑んでいれば、ふとシアナが聞き慣れた声がアスナとの通話越しに聞こえてくる。




「ちょっとアスナ、これ何だか分かる?何処に置けばいいの?」


「あ、それはシアナの予備のポロックケースですね!そこの棚に入れておけばいいと思いますよ!…あ、あとバスタオルとかは浴室にある備え付けの棚にしまってあったはずです!」


「ふーん…分かった。助かる」


「え?おばぁちゃんの声…!えっと、ねぇアスナ…?い、今どこにいるの?」




聞き慣れた声。
それがどう聞いても自分の祖母の声だと分かったものの、反対にその会話の内容がどういう事なのかは分からなかったシアナが素直にアスナに聞けば、アスナは「あぁ言い忘れてた」とばかりに淡々とその質問に答えてみせた。




「あんたの実家。マヒナさんとホークさんが暫くここに住むって言うんでね。掃除とか日用品の場所の説明とか諸々手伝ってんのよ」


「え?!そうなの?!え、だっ、だっておばぁちゃん達だって仕事があるんじゃ…?!」


「うるさいわね別に何だっていいでしょ!!大体もうこの家は「私の物」なんだから!!あんたにどうこう言われる筋合いはないわよ!」


「暫く仕事の方はリモートワークでも出来るから、シアナが心配する事じゃない。マヒナも私も少しでもお前の傍にい、」


「あんたは黙ってていいのよ!!」




途中までアスナと話していた筈なのだが…気づいた時にはマヒナとホークの声がきちんと自分宛に飛んできていて。
その内容があまりにも嬉しくて思わず目頭が熱くなってしまったシアナが黙ってしまえば、後ろの方でアスナの乾いた笑い声が聞こえてくる。

暖かい。
素直にそう思って…熱くなっていた目頭の熱がじんわりと心臓の方へと届くような感覚を覚えたシアナがその事を噛み締めて目を閉じれば、マヒナからポケフォンを返してもらったらしいアスナの声が再度聞こえてきた。




「…暖かいね。あんたの「家族」」


「…うん」


「…冷えきってたこの「家族」をさ、こうやって温めたのはあんたの勇気があったからこそだと思うけど…あの人はそれを…隣に寄り添って、一緒に温めてくれたんだよね」


「……うん」




初めは冷えきっていた。
「娘を殺した」とまで言われていた。
ずっとずっと憧れていた…「家族」というそんな自分の箱がこうして暖かいものに変わったのは、何もあの時自分が勇気を振り絞ったからというだけではない。
その勇気をくれた人物が、寄り添ってくれたのが誰なのか。

それが名前を言わなくても分かっている2人が、顔を合わせていなくても同じタイミングで微笑んで見せれば、微かに親友のその笑い声が聞こえたアスナは、背中を更に押すかのように言葉を繋ぐ。




「なら今度は、こっちの番だよね」


「…っ…うん!お父様から連絡が来たら、すぐにでも会いに行く。…忘れられても、「はじめまして」でも、それでもいいから」


「あはは!2回目の「はじめまして」かぁ…本当に強くなったね」


「ふふ。それは皆のお陰だよ」




2回目の「はじめまして」
それがどれだけ辛くても、どれだけ寂しいものでも。
どれだけ寂しくて、どれだけ冷たいものだとしても。

それでも…それならばいつかの彼のようにまたそれを温めればいいのだと、後ろから背中を押してくれる周りの人達のお陰で…強くそう思えるから。

詳しく言わなくてもそれが伝わっているアスナと暫く笑いあって、沢山他愛もない話をして。
いつの間にか遊び疲れたルガくんとエルフーンをボールに戻して通話を切ったシアナのそのポケフォンの画面に「お父様」の文字が表示されたのは、その後一緒にベッドで眠ってくれたバシャーモと共に目を覚ました次の日の朝のことだった。


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