新第一部隊
「大丈夫かな……大丈夫かな?……あぁぁあ大丈夫かなぁ?!」
「落ち着いてください主……」
あっち行ったり、こっち行ったり、右見たり左見たり……と。
玄関前で忙しない珊瑚のそんな姿を仁王立ちで眺めている長谷部は、今日でもう何度目か自分でも分かっていない数のため息にまた一つカウントを増やした。
長谷部からすると、何やらこの光景は懐かしさを感じるが、その時と同じで今回も大倶利伽羅の初任務なのだ。
初任務は初任務でも、それは「第一部隊」の初任務なのだが……つまりは珊瑚、新しい隊での初陣が上手くいくのか心配でならないのである。
「しかし主……何故そんなにも心配しておられるのです?何も大倶利伽羅自体が初陣という訳ではないでしょうに」
「いやだってほら……初めて一緒に戦うってきっとお互い気とか遣うでしょ?」
「それはそうですが、肥前は経験を積んでいますし、南海太郎朝尊だって初陣というわけではありませんし、そこは上手くやれるかと」
「違うの、考えて。今までは戦好きはくーくんだけだった。でもそこに肥前くんっていうもう一振りが追加されたわけだよ。それに今まで自由役も鶴さんだけだったのにそれも南海先生が追加なわけでしょ……むっちゃん達の心労がさ……」
「申し訳ありませんがそこに関しては前向きな否定が何一つ出来ませんこの俺も」
余程心配なのだろうか、いやでも大倶利伽羅達の強さは主が一番分かっているだろうに。
そう思っていた長谷川だったのだが、聞いていくうちに心配の「それ」が少し違うものだったことに気づき、つい真顔で否定したくても否定してあげられませんと即答してしまった。
だってそうだろう、想像してみてほしい。
敵を目にした途端に殺意増し増しで突っ込む特攻隊長が今までの倍になり、敵を目にした途端に訳の分からないことをしようとしたり……いや寧ろそっちはいない時の方がある意味危ない気さえするそんな存在が倍になるのだ。
つまりはそれをフォローする鯰尾…………?……鯰尾は果たしてフォロー出来るのだろうか。寧ろ一緒になってノリノリで何かしようとはしないだろうか。
これはもう頼みの綱の陸奥守に頑張ってもらうしかな……サツマイモをチラつかせられたらどうしよう。
「想像してみましたが破滅を感じました」
「そこはもっと救いの想像してよ……」
「……いやまぁしかし、大倶利伽羅が肥前と南海太郎朝尊を選んだのはきちんと訳があるのでしょう?俺は本人からわざわざその理由を聞いてはおりませんが」
「あ、そっか……!長谷川には急に第二部隊の編成頼んだからその暇もなかったもんね、実はね……」
救いたい気持ちはあれど、想像したらどう考えても破滅を感じてしまったと言う長谷川に対し、珊瑚は青くしていた顔をきょとん……としたような表情に変え、そういえばと玄関に立った状態のまま当時のことを長谷川に話し始めた。
(光忠と貞の空いた穴は、肥前と南海に頼もうと思う)
(えっ?!肥前と南海先生かぁ?!いやぁわしは嬉しいけんど!なんでじゃ?!)
(さっきも言っただろう。俺との連携を条件にする必要はない)
(……あ!成程ですね!つまり、あの2人なら陸奥守さんと連携が取りやすいだろうからってことか!)
(そっか!むっちゃんは私が就任してからずっと第一部隊だし、言わば副隊長みたいなものだし……そんなむっちゃんと連携を取れたら安心だし強いし……それなら南海先生の経験も安定して積ませやすい!)
(そういうことだ。……まぁ、あとは……)
「あとは……何だったのですか?」
「あはは、それがねぇ……」
当時のことを珊瑚から聞いた長谷川は、成程……とその流れを聞いて納得していたのだが、その後の「あとは」の流れが気になりすぎて少し前のめりになってしまった。
大倶利伽羅のことだからもっと更に何か考えがあってのことだったのだろうそれが、第二部隊を率いる長谷川にとっては最も気になる部分だったのかもしれない。
しかしそれに対しての珊瑚の反応はまさかの乾いた笑みだったことも気にかかる。
すると、珊瑚からのその言葉を待つよりも先に乱暴に開けられた玄関扉のガラガラ!という音が響いた。
「ふざけんなよ何で俺が先生以外のお守りしなきゃなんねぇんだよ!」
「楽しかっただろう?親交を深める為の「土佐弁縛りで戦ってみよう」作戦」
「楽しかねぇよ!!!」
「何度も標準語に戻っちょって、その度に鶴丸から仕置の膝カックン食らっちょったのお肥前!がっはっは!」
「面白くねぇんだよってかよく考えたらお前だけ何の縛りもねぇじゃねぇか!!」
「………………このように「鶴丸への俺の負担が減ると思った」と申しておりました」
「あぁ……」
長谷川が気にしていたことは、どうやら珊瑚が説明する前に本人達が自らのやり取りで説明してくれたようで。
すぐに意味を理解した長谷川は何を言うでもなく「あぁ……」とだけ口に出てしまう。
そんな長谷川と珊瑚の事など知ってか知らずか、それぞれ2人に「ただいま」と挨拶をして汚れを落としに風呂場へと向かって行く。
それを見届けていれば、残ってくれていたらしい大倶利伽羅が珊瑚へと簡易的な報告書を渡してくれ、「何の心配も要らない戦だった」と彼も彼で汗を流しにワイワイガヤガヤと騒がしい連中をゆっくり追いかけていった。
「随分と問題なくやれてはいたようですね。肥前以外は」
「そうみたいだね……肥前くん以外は。……ふふ、まぁ後でくーくんがまた詳しく説明しに来てくれるだろうから、その時に色々聞いてみるよ。取り敢えずは全員怪我もなくてよかった……」
「後は問題の燭台切と太鼓鐘達をどうにかすれば……なんでしょうが、大倶利伽羅は何を考えているのやら……大体鶴丸も何の意見もないとは……全くどういうことだ」
「んん……それは私も分からないんだよね。私は見えない所でみっちゃん達をフォローしてくれてると思ってるんだけど」
取り敢えずの新第一部隊に対しては深刻な問題が無いことがわかり、その件に関しては一安心。
しかしそれは山積みになっている問題の一つが片付いたと言ってしまった方がいいのかもしれない。
今日も変わらずずっと落ち込んでいる燭台切達のことが一番の心配だが、伊達の皆がこんなことになっているのに比較的いつも通りな鶴丸のことも気になる。
それを長谷川と話していた珊瑚は、この時全く想像もしていなかったのだ。
「……あ、鶴さんお帰り。……その、どうだった?あのメンバーでの初任務は」
「お帰り鶴さん。……まぁ正直初っ端から上手くいくとは思ってないけどな」
「おお光坊に貞坊!いやぁこれがまた爽快でなぁ!伽羅坊も肥前も思う存分敵を斬ることだけに専念してたお陰で、鯰尾は陸奥守と安全に連携して二刀開眼までするし、俺は俺で南海と残党狩りしながら罠について楽しくやれるしで一石二鳥どころかそれ以上だったぞ!いやぁ実に有意義で楽しかった!はっはっは!だからお前さん達は何の心配も要らんぞ!」
「「え……?」」
風呂上がりの鶴丸が1人、わざわざ2人の部屋に顔を出して……わざわざ楽しそうに事細かく様子を報告していた、なんてことは。
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