伊達と細川





あれから暫くして、実家から政府本部の隠れ鳥居を潜って本丸近くへと帰ってきた珊瑚達は、月が照らす夜の小道を3人並んで歩いているところだった。

夜風に当たって酔いも気持ち良く覚めていき、それがまた心地良いのか陸奥守は月に向かってぐぐー!っと腕を伸ばして深呼吸をする。




「いやぁーまっことえい時間やった!」


「あれだけ飲み食いしていればな……」


「あはは!むっちゃんが楽しかったならやっぱり連れてって正解だったなぁ!ふふ、皆へのお土産ももらっちゃったし!」




良い時間だったと笑顔を見せる陸奥守に同じく笑顔になる珊瑚と、どんちゃん騒ぎだった光景を思い出した大倶利伽羅は呆れたように返事を返す。

そしてまた3人で皆が待っている本丸への道を歩き始めれば、ふと陸奥守はそんな珊瑚の足取りが軽いことに気づいた。




「?そういやぁ珊瑚、何やえらいスッキリしちゅーな?何かあったがか?」


「そういえば足取りも軽そうだな」


「ん?えへへ、まぁね!」




ついこの間まで……いや、実家に行くまで。
色々と思い悩んでいると思っていた珊瑚が足取り軽く歩いていることに疑問を持った陸奥守と大倶利伽羅はお互いの顔を見合わせてしまうのだが、珊瑚はそんな二振りの真ん中に移動すると、それぞれの腕を取って嬉しそうにぎゅぅっと組んで鼻歌まで歌い始めた。




「?」


「おお?ははは!!どういたどういた?」


「なーいしょ!」




それぞれの腕をぎゅぅっと組んで鼻歌交じりで歩き出す珊瑚の行動が可愛いと思った陸奥守は、その答えが「ないしょ」だとしても、まぁ珊瑚が楽しそうならいいかと笑って一緒に鼻歌を歌い始め……大倶利伽羅に至っては内心可愛さと愛おしさがありつつも、そこは彼らしく呆れたようなため息をついて黙って2人の鼻歌を聴きながら同じように足を進めるのだった。


道端に咲く、月明かりに照らされる白い野花達に見守られながら。



















「ちょ、ちょっとみっちゃん……それってどういうことだよ?」


「確信は持てないよ。でも、僕はきっとそういう事だと思うんだ。貞ちゃんももしかして、思い返してみれば身に覚えがあるような事があったりしない?」


「え?えっと……待ってな。ちょっと思い出す……!」




そして次の日の早朝。
本丸の厨では、今日も今日とて燭台切と太鼓鐘が皆の朝食を作っているところだった。
しかしそんな二振りからはどうしたことか戸惑いのような雰囲気が漂っている。

事の発端は朝食を作りながら燭台切が何処か上の空だったことに気づいた太鼓鐘が理由を聞いたところから始まるのだが……そんな太鼓鐘は今、燭台切からとある事を言われたのと、そのとある事に関係するだろう事を思い出そうと野菜を切る手を止めて必死に頭の中の記憶を巡らせている。





「…………あ」


「……やっぱり。何かあった?」


「……あ……った、あった!あったあった!!え、ええ?でも、でも何でだよ?!何で何も言ってくれなかったんだよ?!」


「それはきっと、言ったら僕達だってさ……」


「……もしかして……」


「うん。だからじゃないかな?……全く、素直じゃないというか、不器用だよね」




思い出を巡らせて、とある会話の内容がフラッシュバックしたらしい太鼓鐘は「あ」と声を出してその大きな金色の瞳を更に大きくして思わず燭台切を見てしまう。
すると燭台切はそんな太鼓鐘に困ったように笑って彼のことを「不器用」だと言うと、後はゆっくりと目を伏せて黙ってしまった。

そんな燭台切を見て、太鼓鐘も色々と思うこともあったりで上手い言葉が何も出ないのだろう。
その表情は眉を八の字にしてしまっており、再度始めた野菜を切っていく音もリズムがバラバラでまるで進まない。

すると、そんな空間の中にいつの間にか来ていたらしい歌仙の呆れたような声が響き渡った。




「全く……東北の田舎刀はこんな忙しい早朝からでもごゆっくりとする暇があって結構だな?」


「……あ。歌仙くん」


「朝からお小言かよ……なんだよ〜俺達だって好きでたらたらしてるわけじゃないんだぜ?ちょっと、その……色々と……」


「?何かあったのか?……と、聞いてやってもいいんだが、生憎それどころではなさそうでな。全く……何故俺が握り飯を作らなければいけないんだ……何が「具はおかかで頼む」だ梅にしてやる」




相変わらずの歌仙からお小言をもらってしまった燭台切と太鼓鐘は苦笑いをしてしまうのだが、何処か力のないそんな二振りを気にはしてくれても、何やら忙しいらしい歌仙はぶつぶつと文句を言いながらテキパキと厨の端で握り飯を作り始めた。

その様子にどうかしたのだろうかと気になった太鼓鐘が声を掛ければ、歌仙はその手を止めず、背中を向けた状態のまま二振りに説明をしてくれる。




「本来なら昼前に第一部隊が出陣をする予定だったらしいのだが、どうやら政府から別の緊急の任務が入ったらしくてな」


「緊急の任務?どんな?」


「……場所は慶長5年、9月15日。……関ヶ原の戦いだ。何でも別の本丸が一度出陣したそうだが、まだ新人で実力不足だったのか出来る限りの情報収集をして早々に撤退の判断をしたらしい。そこで、まだ修復の余地がある内にとこの本丸に出陣命令が下ったわけだ」


「関ヶ原の戦いかぁ……それなら多分政宗様もいるだろうな」


「そうだね。彼は東軍として出陣していたし、あの場は他にも名のある武将も沢山いた筈だよ。……遡行軍もきっとそこを狙って結構な数を用意していたのかもしれないね……」





歌仙の説明からするに、どうやら場所は伊達政宗も出陣しているあの有名な関ヶ原の戦いのようだった。
それを聞いた二振りは思わず完全に朝食を作っていた手を止めてしまう。

すると、二振りが色々と考察している間に歌仙は何処の誰かも分からない褐色で金色の瞳をした刀剣男士……まぁ大倶利伽羅だが、そんな彼のリクエストを華麗に無視した梅のおにぎりを作り終えたらしく、不屈そうに手を洗いながらそんな二振りを横目に、まるで呟くように言葉を口にした。






「……敵の狙いは、まさにその伊達政宗公だそうだよ」






……瞬間。
弾かれるように珊瑚の自室へと走っていった太鼓鐘と、歌仙に一言だけお礼を言って作った握り飯を人数分受け取った燭台切もその後を追って走り出す。

そんな二振りの遠くなっていく足音を聞きながら、「全く雅さの欠片も無い連中だ」と文句を言った歌仙は……その言葉に似つかわしくない表情でテキパキと作り掛けの朝食作りに取り掛かってくれるのだった。




「話は聞いたぞ!選りすぐりの奴らで行くんだろ?!だったら行く!!俺達も行くからな!!」


「……誰から聞いたのかは知らんが、別に心配しなくてもいつもの部隊で……」


「……いや。今回は政府に許可取ってるからね。選りすぐりの二部編成で出陣してもらうことにする。これは主命令です」


「「主……!!」」


「……はぁ……珊瑚……」




どうか早く、いつもの騒がしい東北の田舎刀達に戻ってくれやしないとこっちの調子が狂うんだと。
途中からそそそと手伝いに参加してくれた小夜左文字と共に、きっと今頃主が上手く執り成してくれているだろうと想像しながら。




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