揺れる鶴と尻尾





燭台切達がどういう判断をしていくか、それに任せようという話で纏まっていた珊瑚は、それから数日が経っても……何度も第一部隊で出陣していても。
一向にその件について気にしてこないというよりかは意見を言ってこない鶴丸に痺れをきらせ、自分からもう直接聞いてみようとしているのだが……




「ここにもいない……」




朝早く鶴丸の自室に顔を出しても見当たらず。




「ん?鶴丸かあ?そういやぁ見ちょらんのぉ」


「ここもいない……」




畑に顔を出しても見当たらず……




「鶴丸か?そういえば今日は見ていないな」


「俺も!!見て!!いないぞ!!」


「え、ここもいないの?!」




縁側で鶯丸達と茶を飲んでいるのかと思っても残念ながら見当たらず。
あれだけ全身真っ白で目立って……今回の件がある前だなんてわざわざ探さなくても見つかるような彼なのに、こういう時に限って何でこんなにも見当たらないの?!もうこの本丸半周はしたけど?!と膨れてしまった珊瑚はとうとう音を上げてしまった。




「……あぁぁあもう!何処にいるの鶴さん!!」


「呼んだかー?」


「きゃぁぁぁあー?!!!」




音を上げて大きな声を出した次の瞬間。
なんと自分の真上からぬうん!と逆さまの状態で現れた鶴丸国永と目が合った珊瑚は驚きのあまりもの凄い声を出してしまう。
それに大層満足だと言わんばかりの鶴丸は「はっはっは!!」と珊瑚を驚かせた後の今でも尚器用に足を天井の柱に引っ掛けてぶらぶらと振れながらのままでへらへらと笑顔を見せているのだが……

珊瑚はその無駄な器用さとへらへらとした笑顔を見て段々と冷静になったのだろう。先程まで丸く見開いていた瞳はいつの間にか静かにジトー……と細められ、重力に従っている前髪のお陰で丸出しになっている逆さまの鶴丸の額を無言でべちん!と軽く叩いて仕返しをした。




「あだっ?!」


「もうっ!ずっと探してたんだから!何処に居たっていうか、最近は一体何処にいるの!」


「はっはっは!こりゃ一本取られた!……っと、よっこらせ。……いやぁすまんな!最近は屋根裏に用事が……あぁっといやいやなんでもない。で?どうした主?」


「屋根裏……?まぁいいけど。兎に角!聞かなくても分かると思うんだけど、あのね……鶴さんはどう思ってるのかずっと意見を聞いてみたかったの」


「意見?何の?」


「しらばっくれない!」


「はっはっは!すまんすまん!……さて……意見……俺の意見か。……と言われてもなぁ……」




珊瑚にべちん!と軽く叩かれた額を擦りながら。
華麗に天井に引っ掛けていた両足を離して床へと着地した鶴丸は珊瑚をおちょくった後にわざとらしいような仕草で考える様子を見せる。

珊瑚はそんな鶴丸を不安そうな目で見つめており、暫しの沈黙が流れた後にやっと鶴丸はポン!と手を叩いて眩しい笑顔でこう言ったのだった。




「驚く程に何も無いな!」


「そこはあってよ?!!」




何も無いと。それはもう驚く程に。
いやいやそこは何かあって欲しいし何か無いのか。
良く考えて鶴さん。ねぇ良く考えて?今まさにギスギスしてしまっているのは貴方が特に信頼していて可愛がっている同じ伊達の三振りですよ?何も無いってどういうことですかちょっと。

そんな気持ちを抑えることも無く、思わず秒で突っ込んでしまった珊瑚は、それを受けてまたもや笑っている鶴丸にため息をついてしまう。
鶴丸がこんな調子では何かアドバイスをもらえる事はないだろう。
それなら本当に今度こそ、あの二振りが意見を言ってくれるまで黙って見守るしか出来ないのだろうか……
珊瑚はそう考え、諦めたように項垂れてしまったのだが、そんな珊瑚を見て何かを思ったらしい鶴丸は眉を八の字にして少しだけ笑うと、その下がってしまった頭に軽く手を置いてくれる。




「まぁそう焦りなさんな」


「……え?」


「お前さんのその気持ちは分かるし、主に心配してもらえるのは刀剣男士の俺達として有り難いことだ。だが、周りがどうこうした所で本人達の心の内の何かや在り方が変わるわけじゃないだろう?それは本人の問題で、本人達にしか出来んことだ」


「それは……そう、だよね……。……でも鶴さんはさ、伊達の皆と仲良しでしょ?だから心配とかそういうのって……今までも何かあったら頼もしい助言してくれたりとかしてくれてたのに、今回は何も無いからどうしてなのかなって、私……」


「んー?俺は必要なもんはするが、必要ないことはわざわざしないぜ?現に今だってこの本丸の近侍の伽羅坊が選出した肥前達と上手くやれているし、光坊達だっていつもと変わらんことをして過ごしている。そして今までと変わらずにこの本丸も平和に成り立っている。……さて。この状態で何か不満でもあるか?俺は無いな」


「うーん……それはそう、なんだけど……!そうじゃなくて……!」


「なーに。あいつらならそのうち自分達でどうにかするだろうさ。つまり、俺が今どうこう慰める必要はないわけだ。……さて!そんなわけで俺は鶯丸達といつもの縁側で美味い茶でも飲んでくるとしよう。またな主!」


「え、あぁ鶴さん!って、行っちゃった……」




鶴丸は、ぽんぽんと数回珊瑚の頭を優しく叩きながら伊達に対する自分の意見……というよりも、如何にも「心配してません俺は必要ありません」というような意見を珊瑚に返し、軽く手を振って颯爽と廊下を歩いていってしまった。

つまりあれは信頼故の放置ということなのか、鶴さんのことだからそれとも別に何かあるのか……と珊瑚は考えるのだが、ルンルンでスキップをしながら遠く離れていった鶴丸の背中を見えなくなるまで見つめていても、さっぱり彼の考えが分からなかった。
いや、考え自体は言ってくれたのだが……今までこの本丸で起きた事件のどんな時も彼は彼なりにサポートしてくれた記憶が沢山ある故に、どうしても珊瑚は今回の鶴丸の言うことが腑に落ちない。




「うーん……もう全部が全部分からなくなってきた……あーもう……!」


「……あ!主さま!こちらにいらしたのですね!先程お電話がございましたよ!」


「あ、こんのすけ!探させちゃってごめんね!誰からの電話?」


「主さまのお母様からでした!新鮮な魚介が親戚から沢山送られて来たから食べに来なさいとのことです!本日は特に出陣の予定もない筈ですし……数振りを連れて気分転換に行かれてはどうでしょう?」


「うわーんお母さんナイスタイミング……!こんのすけも知らせに来てくれてありがとう……!折角だしちょっと行ってくる……!」


「はい!それがよろしいかと!」




伊達の皆についてどうするべきかと本日何度目かのため息をついて考え込んでしまいそうな珊瑚だったのだが、それは鶴丸がスキップで消えていった方角とは逆の方からてくてくと可愛らしい足取りで尻尾をふりふりと振りながら歩いてきたこんのすけからの伝言の内容によって一旦治まり、珊瑚はお礼を言って思わずその可愛らしいもふもふに癒しを求めてぎゅぅ……と優しく抱き締めてその顔を埋めてしまうのだった。



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