違う存在

 



暑くも寒くもない絶好の日和にも関わらず。
気持ちよく風で揺れる木々から落ちた一つの葉がゆらゆらと地面に着くよりも先に響いた声はそんな葉を明後日の方向に飛ばしてしまいそうな勢いと声量を纏っていた。

ちなみにそんな大声を出したのは第一部隊で一番の甘えん坊である……




「全く何考えてるんですか大倶利伽羅さん!」


「そうじゃそうじゃ!まっことおまんはいつもそうじゃ!」


「考えは今言っただろう」


「そうだけどそうじゃないですよ!あーもう!素直にあの二振りに言えば…………責任感じちゃうのか……」


「だからそう言っただろう」


「はぁーーーーー珊瑚が頭を抱えよったのはこういうことか……わしもおまんがやりそうやと妙に納得しちゅう……」




……鯰尾であり、その隣で同じく額に手を当ててため息をついているのは陸奥守である。
こうなった原因はお察しの通り大倶利伽羅が何故燭台切達を第一部隊から外すよう言ったのかの理由を聞いたからなのだが、この二振りもやはり珊瑚と同じ反応をしていたようだった。

そんな二振りを見た珊瑚は「ほらね!」とばかりに腰に両手をやって隣にいる大倶利伽羅を見ているし、大倶利伽羅に至っては「知らん」とばかりに腕を組んでバツが悪そうにそっぽを向いてしまっているのだから正直ため息をついてしまうのも仕方ないだろう。




「全くもう本当に大倶利伽羅さんはそういうとこある……まぁこうやって素直に言うようになっただけマシなんですけど」


「マシにはなったが考え方が悪い意味でも真っ直ぐ過ぎるんじゃおまんは……まぁあいつらの性格を知っちゅうからこそなんやろうが……下手やのぉ」


「でも私、この話聞いて凄く納得しちゃったんだよね。あーやりそう考えそうって」


「「同意見」」


「さっきから何なんだあんたら」




鯰尾も陸奥守も昨日の珊瑚と同じような反応をするのは何となく大倶利伽羅も分かっていたようだが、まさかこうも……何と言えばいいのか、貶されるとはまた違うのだが、「そういう人だよね」というようなことを言われると何処か照れくさいのもそうだが、やり方が下手なのは自分自身でも分かってはいるらしく、上手く反論が出来ない様子だった。
すると、そんな大倶利伽羅を見兼ねた珊瑚が口を開いた。



「……まぁそんなわけだから、取り敢えず私が一晩考えたのは「みっちゃん達の判断待ち」ってところなんだよね」


「まぁそれがえいやろうにゃぁ……大倶利伽羅の言う通り、理由を話しよっても余計に悩ませるだけやろうし」


「それこそ大倶利伽羅さんの言う通り、好きなことを縛ってでも鍛錬したりしそうだもんなぁあの人達……もう。本当に伊達組は仲が良いんだから。まぁ俺はそんな所が好きなんですけどっていうか現在喧嘩中みたいなもんだけど。愛されてますね大倶利伽羅さん」


「……少し散歩してくる」


「あ、照れた」


「照れていない」




結局、話を聞いた陸奥守も鯰尾も珊瑚と同じ意見のようで、この件は大倶利伽羅の考えに沿って二振りの判断に任せようという事に決まった。
珊瑚からしてみれば本来ならここで鶴丸にも意見を聞きたいところなのだが、生憎彼は朝から何処にも見当たらないので聞くことが出来ず……かといって誰かに頼んで呼び出してもらうのも、正直誰かに勘繰られたりする可能性があって気が引けてしまうのだ。

すると、場を和ませようとしてくれたのだろう鯰尾に茶化された大倶利伽羅がコソッと咳払いをして散歩に行こうとしたので、珊瑚は二振りに「内密に」とだけ言うと、スタスタと歩いていく大倶利伽羅の後を追って行ったのだった。
















一方……そんな珊瑚が頼りにしようとしていた鶴丸はというと……




「見ろよ光坊!手足の生えた大根だ!伽羅坊に見せたらどんな反応するだろうな?!はっはっは!」




呑気に大根を引っこ抜いていたようだった。
その顔は朝から色々とやっていたようで土が付いており、自慢の白い内番服にもこびり付いている始末。
しかし彼は全く気にしていない無邪気な笑顔を見せており、それをダブル……いやトリプルで見せられた燭台切は困ったような笑みを浮かべ、太鼓鐘に対しては眉間に皺を寄せてムスッとした表情をしてしまっている。

恐らく……燭台切が困ったような笑みを浮かべてしまったのも、太鼓鐘がムスッとしてしまったのも彼がわざとらしく「伽羅坊」の部分だけ声を大きくしたことが原因なのだろう。




「えっと……随分変わった大根くんだね」


「そうだろう?!これを引っこ抜いた時に驚いてなぁ!はっはっは!……そうだ光坊!これを使って何か作ってくれ!大根の姿煮なんてどうだ?!」


「そんな物はないなぁ」


「ないかぁー!いやしかし明日も出陣の予定があるんでな、美味いもんは食いたいのさ!今日の飯はこれも追加で何か頼む!」


「……うん。分かったよ。何にするか考えておくね」


「おぉすまんな!いやぁ楽しみが増えたなぁ!じゃぁ俺は一風呂浴びに……」




はっはっは!と笑って大根の姿煮等という聞いたこともない料理を頼んだ鶴丸だったが、残念なことにそんな物はある筈はなく……それならとその大根を使って何か作ってくれと燭台切に笑顔で頼む。
そして燭台切が力なくではあってもそれを了承すると、満足気にその場を去ろうとする鶴丸を太鼓鐘が声をかけて止めたのだった。




「なぁ鶴さん」


「……ん?何だ貞坊?」


「……鶴さんはさ、何とも思ってないのか?」


「俺か?何にだ?……お?もしかして第一部隊から外されたことか?何だまだ拗ねてるのか?」


「っ……!」


「ちょ、鶴さん……!」




今回のことに対して何か思ってないのか。
そう聞かれた鶴丸は直ぐにそれが何のことか分かったのだろう。
風呂場に行こうとしていた足を止め、太鼓鐘の前にずいっと顔を近づけると、太鼓鐘のその頭を悪戯な顔でぐりぐりとしながらわざと挑発するような物言いをする。

それに対して燭台切が慌てて鶴丸の両肩に手を置いて太鼓鐘から距離を離すが、鶴丸はそれに従いはしてもその口を止めることはなかった。




「うちの近侍が決めたことだ。俺は何も言わんし思わんさ。現に伽羅坊が選んだあいつらとも上手くやれているしなぁ」


「……何だよ、伽羅も鶴さんも……」


「お前さんがその件にどう解釈しているかは知らんさ。俺はお前達でもなければ伽羅坊でもない。俺は鶴丸国永だ。誰と戦いたいだのなんだの甘えたこと言ってないで、さっさと機嫌を直すことだな」


「だから鶴さん……!」


「おっと怖い怖い。っははは!まぁそんなわけで、何度も言うが俺は今は何も思っちゃいないし言うこともないさ。またな!」




太鼓鐘や燭台切を慰めることも、何か助言をすることもなく……言うことだけ言って燭台切に再度止められたことで今度こそ風呂場へと向かっていってしまった鶴丸の後ろ姿を見えなくなるまで見ていた太鼓鐘は小さな声で「なんだよぉ」と呟いて、複雑そうに鶴丸が置いていった大根と睨めっこを始めてしまう。




「なんだよ鶴さん……顔見せてくれたと思ったらこんな変な大根だしさぁ」


「……「今」は……?」


「俺は鶴丸国永だーって。まるで俺達が皆違うみたいな言い方じゃんか……」


「!……皆、違う……?」


「なぁみっちゃん?……って、みっちゃん?」


「……え?あ、あぁごめんね!大根くんをどう料理しようか考えてたんだ!」


「?ならいいけど……?」




すぐ横で……燭台切が鶴丸の最後の言葉のとある部分に対してと、自分が先程呟くように言った言葉に対して何か思うところがあるような表情をしていたことに上手く気づかないまま。





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