彼らしい答え





珊瑚と大倶利伽羅の2人きりになった部屋は、先程の事件が嘘かのように静かなものだった。
そんな空間に広がるのは珊瑚は用意した緑茶の香り。

それがコトンと音を立てて目の前のテーブルに置かれれば、更に鼻を通ってくる香りに釣られ、大倶利伽羅は思わず深呼吸をするように呼吸を整えた。




「取り敢えず……はい、くーくん。これ飲んで一息つこう」


「……あぁ。すまん」




用意したお茶を揃ってゆっくり口にして……各々湯呑みをテーブルに置き戻した後。
大倶利伽羅が瞳を開いたことを確認した珊瑚は緊張を少しでも解すために隣にあったクッションを咄嗟に抱き締め、大倶利伽羅が言葉を発するのを待つ。

すると大倶利伽羅はそんな珊瑚に対して申し訳なさそうな雰囲気を醸し出しながらもゆっくりと口を開いていくのだった。




「……ここ数日前からあいつらに思うことが多くてな」


「思うこと……?」


「……どう言えばいいか……まぁ知ってはいる筈だろうが、俺と光忠は同じ政宗公の刀だろう」


「うん。それはよく知ってる。元の主が同じだけど、くーくんは戦でみっちゃんは料理諸々で……ってそれぞれ違いがあるよね。審神者としては元の主が同じでも、刀それぞれそういう個性があるんだなって勉強になることも多いけど」


「それがそもそもの問題なんだ」


「へ?」




同じ政宗公に使われ、大切にされ。
そしてこの世に刀剣男士としてその身を受けた大倶利伽羅と燭台切光忠。
各々好きなことも違えば生き方も違うそんな二振りに対して今まで珊瑚はそれについて悪い面など一つも感じていなかったのだが、どうやら大倶利伽羅は今回の原因がそれが発端だと言いたいようなものだった。

それがどういうことか分からない珊瑚は素直に呆気に取られたように首を傾げてしまう。
すると大倶利伽羅は再度お茶を飲むと、不思議そうにしている珊瑚に更に詳細を話し出す。




「初めは……光忠達がずんだの……パンナコッタだったか。あれを作っている時に話していた言葉を聞いた時にな。少し思うところがあった」


「ずんだのパンナコッタ……うん。作ってくれてたね。その時に何か……あ。確かにあの時から私とむっちゃんも、くーくんがちょっと変だったのに気づいたんだけど……」


「……そうか。……何を言っていたかは思い出せるか?」


「えっと……?これといってマイナスなイメージを持つようなことは言ってなかったよね?でも、さっきくーくんが言ってたことを踏まえて思い出す、と…………あ。」




大倶利伽羅が今回の事に関して初めに思うところがあった場面。
それが先日の燭台切達のずんだのパンナコッタでの事だったと聞いた珊瑚は、初めに大倶利伽羅が言っていた「同じ政宗公の刀」というワードを踏まえて思い出していく。

すると、とある燭台切の言葉が彼の嬉しそうな表情と共に脳内にフラッシュバックしたのだった。





(それにしても本当にみっちゃんは料理が好きだね!)


(あはは!僕にとってこの身を受けた最高の喜びは料理を作れることだからね!そこら辺は元の主である政宗くんの影響が強いのかもしれないね)


(俺は最終的に伊達家に落ち着いた身だからそこら辺はあまり知らんが……そういや、人を持て成したりするのが好きな御仁だったっけか?)


(そうだよ。文を書いたり料理をしたり……人を喜ばせるのが好きな人だったからね。あの戦国の時代で長く生きれたのも、もしかしたら拘った食生活も関係していたのかも。だから僕も、皆にはいつでも元気でいて欲しいからね。畑仕事も楽しいし。あはは!やっぱり僕にはこれが性にあってるのかな!)





「……思い出した。この身を受けた最高の喜びは料理だ……って言ってたよね?」


「……そうだな」


「……ねぇくーくん、もしかしてだけど……そういうこと?」


「……ちなみにあの後貞にも話を聞いたが、あいつは光忠のそんな姿を好んでいるらしい。……だから俺は……まぁ、珊瑚が今考えているだろうことで今回そうしたわけだ」


「それっ、そ!それは言葉足らずにも程があるでしょ全く!!もう!本当に優しい癖になんかちょっと動き方が下手なんだから!!」


「……あいつらにとってはこれが一番かと思ってな」


「あぁあもう……!分かった瞬間凄いくーくんらしいと思っちゃった……っ!!一旦私の頭の整理も兼ねて、口に出して説明してみるからね?!」




燭台切が言っていたことを思い出し、先程大倶利伽羅が言っていたことを思いだし、そして太鼓鐘に確認したということを聞いた珊瑚は、その途端にまるでパズルの無くしていたピースが見つかって、カチリと綺麗に嵌ったような感覚を覚えて脱力してしまう。

どうして脱力したかと言えば、大倶利伽羅がこんな事をしたのかという答えがあまりにも珊瑚の中で「彼らしい」ものだったからだ。
そして珊瑚は自分の頭の整理も兼ねて、目の前で複雑そうな表情をしている大倶利伽羅に自分の考えを言葉にしていく。




「くーくんとみっちゃんは、同じ政宗公の刀でも刀剣男士としてそれぞれ人の身を受けた一番の使い所が違う。くーくんは戦で私に使われることが好き。えっと、私を守ることを一番に考えてくれる。そしてみっちゃんは料理をしたり人を持て成したりすることが人の身を受けて出来ることの中で一番好き」


「……あぁ」


「そして貞ちゃんもそんなみっちゃんが楽しそうにしているのが好きだと言ってた。きっと前の任務でも同じような状況があったと思うから……その時にくーくんは更に思うことがあって、みっちゃん達を第一部隊から外したんだね?」


「……そうだ」


「二振りには二振りの好きなことをして欲しい。自分と同じ生き方を強要したくない。する必要もない。責めるつもりもないし、そういう生き方だってある。何も戦をすることだけが刀剣男士として生まれた理由にしなくてもいいんじゃないか……って、くーくんは考えたってことでしょ?」


「……あいつらの好きを縛ってまであいつらの強さと優しさに甘える必要はないと思った。素直に言ったらあいつらは俺のために好きなことをそこそこにしてまで鍛錬に時間を割くような気がしてな」


「あぁあもう馬鹿!!すんなり納得しちゃった考えそうくーくんそういうの!凄い考えそう凄いやりそう!あぁあもうなんで私も直ぐに気づかなかったんだろう!」




自分が言葉にしていったものが尽く正解し、大倶利伽羅から挟まれた言葉も自分が思っていた通りの言葉だった珊瑚は今度こそ頭を抱えて自分の不甲斐なさを責めてしまった。
翌々考えてみれば確かに大倶利伽羅の様子が変だったのは燭台切のあの言葉の後だったし、次に変だったのもきっと任務先で同じようなことを感じるような会話があったのだろう。
それにあの二振りの強さは折り紙付きだったのにも関わらずに外して欲しいだなんて頼んできたってことは、あの二振りを思うが故の大倶利伽羅の判断なのだろうことも考えれば考えるほど自分の大好きな大倶利伽羅……くーくんらしい事なわけで。

珊瑚はそう考えていく内に、どうしようもなく目の前で何とも言えないような複雑な表情で腕を組んでしまっている大倶利伽羅に抱き着きたい衝動に駆られ……案の定その衝動は抑えることが出来ずにすっぽりと彼の腕の中に落ち着いてしまった。




「何で私に相談してくれなかったの……!」


「相談した所であんたに余計な心配をかけるだけだろうが。それに、最善の方法は思いついたのか?」


「……どう足掻いても主の私が介入したら余計にみっちゃん達が自分を責めちゃう未来しか思い浮かばない……」


「だからこうなった」


「もう馬鹿ぁぁ……!これからどうするつもりなの?」




腕の中に飛び込んで、受け止めてもらって。
視線を合わすことなく会話をした2人は、まるでお互いを落ち着かせるようにぽんぽんと優しくお互いの背中を叩き合う。
そしてその会話の中で珊瑚が本日最後になる質問を投げたと同時に顔を上げれば、そこには少しだけ寂しそうな表情の大倶利伽羅がいた。




「……あいつらの思った通りの行動に任せるだけだ。俺は何も言わん。……俺は、あいつらがあいつららしくあれるならそれでいい」




そして返ってきたその答えを聞いてしまえば、今度こそ珊瑚は上手い言葉が何も言えず……彼を叱ることも出来ず。
「もういいよ」と言いたいかのように、また再度彼の胸板に顔を埋めてしまうのだった。




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