Next time for sure




ハリネズミのお陰でドラゴンの巣から抜け出せたはよかったものの…
その後逃げるように入った滝の裏側にある洞窟へと入ったロアは、針を畳んでくれているハリネズミを抱き上げた状態でとぼとぼと歩いていた。




「うーん…これ、何処をどうやって行けば外に出られるかな…」


「きゅう…」


「え?違う違う!君が助けてくれなかったらそもそも今頃食べられてたかもしれないし!ただ私がここを知らないからどうやって進めばいいのか…うーん…」




困ったように足を止めてしまったロアを見上げ、申し訳なさそうにしてしまうハリネズミがしゅん…と耳を垂らせてしまえば、ロアは慌てて「君のせいじゃない」と否定をする。
確かにその通りで、そもそもこのハリネズミが助けてくれなかったら今頃はあの大きなドラゴンのお腹の中か、或いは子供ドラゴンの餌になっていたのだろう。

だからそれについては寧ろ感謝しているのだが、残念ながらロアがこの場所を知っているわけがなく…何処を進めばいいのか検討もつかなければ、進んだ先に何があるのかさえ分からない状況。




「見えるのはなんか気持ち明るいような気がする泉の光と…聞こえるのはそんな水の音と…」


「………」


「………何かヤバそうな見た目のあの魔物だしな…」




上手く迂回出来れば、その先の出口に出て、本当に上手く行けばそのまま山を下りられるかもしれないのではないか。
そう考えてはいるものの…頼りの明かりは周りにある泉から神秘的に光っている水の明かりと、そんな雫がポタポタと上から落ちてくる音。

そして何よりいけないのは、ここに生息しているのだろうとんでもなく見た目がヤバそうな魔物の姿。
それはそうだろう、だって…両手に鎌を持っている牛の骸骨のような顔をした魔物に対して「あ、あの魔物優しそう!道教えてくれないかな?」等と思うわけがない。
寧ろ気づかれようものなら「こっちだよ」と手招きならぬ鎌招きどころかそれを振り下ろされるのがどう考えてもオチだ。




「……でもここから一歩も動けないのは流石にもっとまずい…よね…?…見たところ一体しかいないから倒せるかも…あー、いやでも…私まだ紋章術のコントロールが…そもそも私の術で倒せるかどうかってのも問題だし…」


「………きゅ…!」


「えっ、ちょっとまっ!!!?」




岩陰に隠れてよく観察してみれば、幸いな事にあの魔物は一体だけしかいないようで、上手くいけば倒せて先に進める事が出来るかもしれない。
しかしやはり自分のコントロール不足の不安と、何より戦闘経験なんてほぼ無いに等しいロアが無事に相手を倒せるのかと言われれば、やはりそれも肯定できない。
息を殺し、ゆっくりと来た道を戻ってドラゴン達が一匹残らず出掛けているという奇跡にかけるか、それとも他に何か案があるか…

そんな事をロアが考えていれば、何故かそれまで腕の中で大人しくしていたハリネズミがそこから抜け出し、あろう事か鎌を両手に持つ魔物の前に立ちはだかってしまった。
その瞬間にハリネズミは物凄い勢いで背中の針を尖らせて自身を回転させると、ロアを守りたい一心で魔物に向かって突撃する。





「!!やめ…!!ハリネズミくん!危ないっ!!」







−…ドッ、…−






しかし…その強い勇気があっても小さな可愛らしい身体は、無情にも簡単に斬り上げられ…暗い洞窟の中で宙を舞い、弱々しい音と共に地に全身を打ち付けしまった。

目の前でドクドクと広がっていく赤い液体。
まるでゾンビの雄叫びに聞こえる魔物の声。
目の前は冷えきった光景なのに、咄嗟に感じた怒りからか、ロアの身体全体を燃やし尽くすかのよう感じた熱。

その全てを感じたその時…ロアの中でずっとこびり付いて離れなかったとある光景が脳内にフラッシュバックする。






(すまなかった!どうか…どうか俺のこの命で許してはくれないだろうか?)


(…グラオ…キサマ…?!)


(な…?!)


(「強く」生きろ!アルベルッ!誰よりも「強く」!それが…それだけが…)






「………わた、し……!知って、る…!!…こ、こっ……って……この場所、って……!っ、」


「……きゅ、ぅ……」


「駄目…駄目だよ、駄目…!死んじゃ駄目…!!!」




何も言えなかった、何も出来なかった。
彼の記憶を見た時に、大したことも何も出来ず、ただただ見ることしか出来なかった…その時に見たあの光景。



そう。
轟音と共に眩しく燃え盛る炎の中から…それよりも眩しいと思えるものがあった、あの時の…あの人の言葉…







(俺の望みだからな!)







アルベルの…お父さんの眩しくて強い言葉。





「っ…!!ハリネズミくん!死んじゃ駄目!!意識をしっかり持って!!私がどうにかするから…!!絶対助けるからっ!!だから一緒に生きてここを出よう!!」





今度は絶対に助けるからと。
死なせないからと。
心に強く誓って、目の前に立って鎌を構えている魔物を…今度はきちんとその場で存在できている、その涙で潤んだ瞳で強く睨みつけて。








一方その頃。
ハリネズミがロアを守る為に小さくも大きな勇気を出してくれていた間に…カルサアへと走って戻ってきていたジェットとロータスは、アルベルを探してそこらじゅうをがむしゃらに走り回っていた所だった。
大きな声で「アルベル様」と何度も呼びながら走っていれば、それは注目だってされるのだろう。
すると暫くして、屋敷から不思議そうに出てきたウォルターがそんな2人を呼び止めた。




「…なんじゃ、お前達か…どうしたんじゃ、そんなに慌てて…」


「!!ウォルター様!!あ、あのっ!!その!ええーとあの!!ロアがさっきあっちで!!」


「?おお丁度良い。ワシもロアを探していたところでのぉ…どうやらアルベルに放っておかれて拗ねてしまったようで、どうも昼から顔が見えぬでな…カルサアを散歩でもしているのかとこうして外に出る支度をしていた所だったのじゃが……で、あっちと言うのは何処かの?」


「「空です!!!!!」」


「……はぁ?」




わたわたあわあわと。
かなり慌てている上に急に上司に呼び止められた事で止まることが出来なかった2人は足踏み状態のままで必死にウォルターにロアの事を伝える。
しかし出てきたのは「あっちってどっち?」「空」という訳の分からないやり取りで、どうせ止まらないなら足ではなく口にしてくれと2人が自分を責めるのだが、そんな責める余裕があるのならもっと詳しくロアのことを説明しなければ!と先にロータスが深呼吸をすることに成功し、それに釣られてジェットも冷静を取り戻すと…2人はウォルターに向かって出来る限りの説明をする。




「ロアが!割と大きなドラゴンに連れて行かれてたんです!バール山脈付近で!!」


「…な…っ、?」


「すみません俺達!今日に限って飛龍連れて来てなくて!!追い掛ける事が出来なくて!!そ、それでアルベル様を探していたんです!!ええっと、それにほら!あのー、ほら!なんだっけつまりあぁぁあロータス!悪い説明!!」


「つまりあのデカさからして多分親ドラゴンです!!それを考えると、きっとバール山脈の何処かに巣があるはず!もしそれが当たっていたら…!!ロアが危な…っ、」




ドラゴンと共に戦う疾風だからこそ予想が着くのだろう。
ジェットが言いたかったその考察諸々をロータスが代わりに伝えれば、みるみるうちにいつも温厚な表情のウォルターの顔が凍りつき、出掛けるように持っていた杖をカラン…と落としてしまったその瞬間。

物凄い速さで誰かの足音がこちらに近づいて来たかと思えば、その人物は乱暴に一番手前にいたジェットの胸ぐらを掴んで大声を上げた。




「ぐっ、?!」


「早く案内しろ!!!今すぐだ!!!!」


「?!アルベル…?!」


「俺の事なんざどうでもいい!!それよりも早く飛龍を連れて来ねぇか!!!」


「「!は、はいっ!!!」」




何処にいたのか、そもそもロアの話だとお前こそバール山脈にいたのではないか?それなのに何故ここに居る?
ジェットの胸ぐらを掴んで叫ぶ…アルベルの姿を丸くなった目で捉えたウォルターのその疑問の答えは彼に届くことはなく、余程全力で走ったのだろう、焦っているのだろう。
肩で息をしているアルベルの凄まじい気迫に一気に背筋が伸びた2人は急いで自分達の飛龍を呼びに行ったのだった。



BACK
- ナノ -