marry me!!!




「ねぇおじいちゃん」


「なんじゃ?」


「私、いつになったらカルサア修練場に泊まりに行けるようになるのかな…」


「ほっほっほ。まぁあそこは魔物が野放しになっておるからのお…そう簡単には彼奴も許してくれんじゃろうて。お前が紋章術を完璧にコントロール出来るようになってからか、それとも彼奴が丸一日非番になる日を待つかのどちらかじゃな」


「……アルベルって非番の時いつもいないじゃん…どっか行くじゃん…しかも行き場所教えてくれないし……あーあ、紋章術も前よりはコントロール出来るようになったけど、魔物相手ってなるとやっぱり怖くて駄目なんだよね…」


「何もお前まで無理に戦いに身を置こうとする必要はあるまいて」




あーあ。と。
屋敷にある応接室の豪華なソファでだらーんとしてしまいながらそんな会話をしていたのは、家主であるウォルターとその孫のロアだった。
フェイト達と共に無事にアルベルとこの場所に帰ってきたロアは、以前彼が約束してくれた…




(…これからも、沢山私を連れ出して)


(……何処でも好きに連れ出してやるよ)




という…ロアの特殊フィルターを通すと彼の背後に花が咲き誇り、舞い踊る花弁やら羽根やらがキラキラと輝いて見えていたらしいあの時の約束を心待ちにしているのだが、どういう訳かその約束は帰ってきてから数ヶ月は経っていながら、何故か未だに果たされていないのだ。
オマケに「泊まりに行きたい」と言えば「魔物が野放しになっているから却下」と断られてしまう始末で、こうしてロアは今日も不貞腐れてしまっているという事実。




「私が一緒に魔物退治とかに行ければさ、アルベルと少しでも長くいられるのに…」


「そんな危ない事をまずワシが許すわけがないだろう」


「えへへ…それは…ありがとうおじいちゃん!でもプロポーズの答えだってアルベルはまだなんだよ?!」




自分がきちんと紋章術をコントロール出来、アルベルの役に立てるのなら一緒に魔物退治に行けるかもと言ったロアに対して、それはアルベルがどうのよりもまず自分が許さないと言った孫馬鹿のウォルターも大概なのだろうが、それよりもいつでも何処でも頭がアルベルで埋まっているロアは、ソファでだらーんとしていた身体を起こすと頬を膨らませてとある出来事についての愚痴をウォルターに吐いたのだった。

それはロアがこうして無事にアルベルと帰ってきて、国王やメイドに事情説明を済ませた後に衣食住やら住民登録のし直しなど、諸々落ち着いてすぐの出来事。





「ロア、これからまたワシと共にここで暮らせることになったが…何かやりたい事や必要な物があるなら直ぐに言いなさい」


「それはおじいちゃんとまたこうして一緒に暮らせるようになったことが感謝だし、胸がいっぱいだから…うーん…やりたい事や必要な物は今はまだ思いつかないかな…?」


「フン、まぁその内何かあればジジイに言えばいいだけの話だ。無理に強請る必要はないだろう」


「うん!何か困った時はお願いしますおじいちゃん!」


「ほっほっほ、あぁ、それでよい」




そう…あれは。
ウォルターの孫として正式に再度手続きを終え、以前の服装ではあまりにも目立つからと、ロアの好みを意識しつつカルサアの気候にあった物をメイド達に作ってもらい、それを着てご機嫌なロアがウォルターとアルベルの3人で話をしていた時のこと。

何か必要な物等はあるかと問われた事に、幸せいっぱいで今はまだ思いつかないと言ったロアがアルベルの言う通り思いついたらお願いしますと笑顔でウォルターにお願いした後…話が済んだと思ったアルベルが当然のように屋敷から出ようとしたのをロアはきょとんとした表情でその腕を掴むと、不思議そうに言葉を吐いたのだ。




「え、アルベルどこ行くの?」


「は?俺は俺の家に帰るだけだが」


「…………え、帰る…?何処に…?!」


「?カルサア修練場に決まっているだろうが、阿呆かお前」


「え?!アルベルもここで暮らさないの?!」


「?…………阿呆かお前?!」


「同じ台詞を二度言うたのお」




そう。
てっきりロアは自分がここに住むのだからアルベルもここに住むものだと何故か脳内で決めつけていたらしい。
それについていやいや可笑しいだろうと同じ台詞を二度連続で言ってしまったくらいにはアルベルも拍子抜けだったのだろう。

それについて自分はどちらでも構わないがと内心思っていたウォルターだけが冷静にそのやり取りを見守っていれば、何故かその言い合いは最終的に…




「大体俺とお前は家族とはまた違うだろうが!」


「それはそうだよ運命的な彼氏彼女の関係だもん!」


「言葉が色々余計なのはもうこの際どうでもいいが、それを理解しているなら尚のこと諦めろ。俺の家はあそこだ、ここじゃねぇ!」


「じゃぁ私とアルベルが結婚すればアルベルは私とおじいちゃんの家族!はい!はい解決!はい!それでいこう!」


「それの何処が解決だこの阿呆!!!」


「私アルベルのお嫁さんになりたいし!それはアルベルが攫いに来てくれた時からずっと思ってるし!本当はアルベルがプロポーズしてくれるのを待ってたんだけど、なんかこの調子だと絶対言ってくれるまで何年もかかるって今確信した!!そうだよよく考えたらアルベルって絶対そこら辺奥手な気がするもん!言いたいけど言えない性格だって知ってるもん!!だって未だに「好きな女」と「俺のもん」しかそれらしい言葉を私言われてないし?!「好きだ」とか「愛してる」とか、いや寧ろ「俺と付き合ってくれ」っていう言葉を直球で言われたことないよね私?!いやいや寧ろあの時の「…あぁ。だからそれまで、お前への答えはお預けだ。分かったらとっとと泣きやめ阿呆」からずっと今お預けくらっちゃってるって言っても過言じゃなくない?!え、それならやっぱり私から行かないとじゃん!それに大好きな人が1人だけ別の場所で暮らすとか嫌だもん私!だから私がプロポーズする!私と結婚してください!私の旦那様になってください!……?!やだアルベルが旦那様になってくれるなら私なんでも出来そう…どうしよう銀河一幸せな女の子じゃん私?!」


「ロア、現実に戻ってきなさい」


「はぁぁぁぁ…!!んの…っ、!!一々一語一句覚えてやがって…!!!っ、あぁぁあその話はお前が一般常識諸々出来るようになったら考えてやる!分かったな?!俺は帰る!!……っ、帰る!!!!」


「えええええアルベルの馬鹿ぁぁー!!!恥ずかしがり屋ー!!!!」


「誰がだこの阿呆!!!!!!」




……………というほぼ夫婦漫才のようなやり取りがあったわけで。
あの時の顔を真っ赤に染め上げてドスドスと足音を乱暴に立てて帰っていったアルベルと、ヤケになって必死にその一般常識諸々を覚えようとあれやこれや努力して空回りして暖炉やかまどをファイヤボルトで破壊したりダークマターを作ったりなロアの2人を落ち着かせる為にどれだけ自分が労力を使ったか…と思い出したウォルターは軽く…いや、かなり重く頭を抱える。




「それはお前が……いや、何でもないわい。取り敢えずじゃ、彼奴ならその内来るだろうし、今日も大人しく待っておるんじゃな」


「おじいちゃん今何を言いかけたのか気になるけど…うーん、まぁそうだね。うん、大人しく待ってる……あ!それなら私アルベルの為に夕飯作ってこよ!!ってことでまたねおじいちゃん!!」


「?!!ロア?!そ、それは…!!はぁ、せっかちで仕方ないのぉ…」




確かに自分も幼少の頃から見ているアルベルが自分の孫と結婚するのは嬉しいし、実際それはその内成されることであるとも思っているが…あの時の自分がどれだけ苦労したか、このアルベル大好きな自分の可愛い孫は理解しているのだろうか。
それをつい言いかけそうになってしまったそんなウォルターが、後にキッチンで爆発を起こしてしまうロアのフォローに入るのはそれから数十分後の話なのであった。

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