small whisper





「えっ!本当に?!街の至る所に緑があるの?!」


「そうだよ。それに花屋とか雑貨屋とかお洒落なお店もあって……それに喫茶店だってあるし、スイーツだってあるし。今ロアちゃんが食べてるそのドーナツもペター二で買ってきたんだから」


「このドーナツも?!」


「ふふ。そうだよ〜」


「すっかりハマったようね?そこまで喜んでくれるなら買ってきて良かったわ」




クリフにあれやこれや荷物を持たせて帰ってきたロア達は現在。
ウォルターの屋敷にあるロアの私室でメイドさんが用意してくれた紅茶と共にソフィアとマリアが持ってきたお土産であるドーナツを食している所だった。

そこでソフィアからペター二の様子を聞き、更にはマリアにも言われた通りすっかり大好きになったドーナツもそこで買ったとあれば、元々興味を示していたことも相まって更に更にロアがペター二に興味をそそられるのも加速するというもの。

その瞳は銀河もビックリなくらいにキラキラと煌めいており、その膝の上ではハリベルも分けてもらったドーナツを美味しそうにカジカジと食べている。
ちなみに魔物であるハリベルが食べても大丈夫なのかというのはマリアが調べてくれたので問題ない。




「それにしても、ハリベルだったわよね?久しぶりに会いに来たら魔物を引っさげているから驚いたわ」


「でも可愛いですよねハリベルちゃん!魔物だなんて思えないくらい」


「そうでしょ?この子とは私がバール山脈で……まぁかくかくしかじかなんだけどさぁ」




すっかり気に入ったドーナツを食べ終わり、紅茶で口直しをしていたロアに向けられたのはソフィアとマリアからのハリベルに対する驚きと好奇心。
それはそうだ。久しぶりに会ったと思ったらその足元にいくら可愛いと言えども魔物が居て、尚且つその魔物は街の人達からも慕われていて、更に尚且つハリベルという名前まであるのだから、そんなハリベルが気になるのは当たり前の事で……その出会いをかくかくしかじかと話したロアの言葉を聞いた2人は更に驚きの表情を見せる。




「えっ!ロアちゃんそんな目にあってたの!?」


「食べられるかと思った〜」


「何を呑気な……!はぁ、もう貴女って人は……まぁ出会う前から変な人だとは思ってたけど」


「えどういう意味それ?!」


「ふふ。こっちの話よ。こっちのはな……ふっ、!」


「思い出し笑いする程なの?!」


「あの時のアルベルさん、絶対照れてましたよね!」


「そうねっ、照れ……ふふふ……!」


「ええ何?!気になる!物凄く気になる!!」


「アルベルさんに怒られるので教えませーん」


「ええーっ!!?」




ロアからバール山脈からのあの出来事を聞かされた2人は驚いたり呆れたりと各々の表情を見せるが、それは今こうして目の前で明るく話す当の本人がいるのだから安心して聞けるというもので。
その会話の流れで例のあの事件……まぁロアは知らないだろうフラッドとのあの時のことなのだが、そんな事件を思い出したマリアが似合わないくらい涙を見せるほどに笑っていることがあまりにも気になるロア。

しかしそれがアルベルが絡んでいるという事実を知っても尚2人は教えてくれないので、とうとうロアは頬を膨らませて思わず窓の外を見てしまう。

するとそこには……




「あれはクリフさんが悪いので放っておきましょう」


「生きているのかしらあれは」


「ミラージュさんとフェイトがいるから大丈夫ですよきっと」


「アルベルが楽しそうで惚れ直したから多分大丈夫だよ」


「言葉が可笑しいわよロア」




3人が見つめる先。
そこにはアルベルとクリフの一騎打ち……というよりも明らかに恨み辛みをぶち当てら、……手合わせをしている姿が見え、近くで他人のフリをするフェイトと「あんよが上手」とばかりに笑顔で手拍子をしているミラージュが見えるのだが。
決して大丈夫には見えないのだが。
クリフの謝る声が山びこのように木霊しているのだが。




……まぁ大丈夫なのだろうきっと。多分。




「……ところで、貴女達はスフレのサーカスは見に来れるの?」


「あ、うん!そこはアルベルに絶対お願いするし、大丈夫!ただ……」


「「ただ?」」




話は変わり、今はまだここに居ない……きっと今頃練習やら衣装合わせやらをやっているのだろうスフレのいるロセッティ一座のサーカスの話題になったのだが、ロアの口ぶりからするに大丈夫とは言いつつも大丈夫には見えない表情と言葉にソフィアとマリアの2人は思わず首を傾げてしまう。

すると、ロアはそんな2人の視線と目を合わすと、複雑そうな様子で訳を話すのだった。





















「なぁアルベル、折角だし……どうせならペター二の公演も見に行ったらどうなんだよ?」


「阿呆。二度見る必要があるか?このカルサアでもやるならそれを見ればいいだけの話だろうが」


「そうは言ってもよ、ロア的にはそっちも行きてぇんじゃねぇの?言い方は悪くなっちまうが、やっぱ土地的にも色々豊かなのは向こうだしよ」


「……」


「何か理由があるのですか?」




ロアがソフィア達に話している時……窓の向こうにいたアルベル達は近くの木箱や樽の上に座って雑談をしている様子。
そしてその会話ではロア達と同じようにスフレのサーカスの話題になったようだが、どうやらアルベル。
カルサアとペター二の2公演ある内の一つ……つまりはここカルサアでの公演のみロアを連れて見に行くつもりのようだ。

それに対してフェイト達が両方連れて行ってあげればと言っているようだが、それに対して何やら事情がありそうな雰囲気を察したミラージュが助け舟を出す。しかし……




「別に理由なんざねぇ。面倒なだけだ」


「かーっ!面倒面倒ってお前なぁ、ちったぁ乙女心っつーもんを考えてやらねぇと捨てられるぞ?」


「生憎その心配をする必要性が欠片もないんでな」


「否定出来ねぇのが更に腹立つなお前」


「喚いてろクソ虫」


「んだとう?!」


「やめなさい2人共」




アルベルはミラージュが助け舟を出してもそれに乗らず……寧ろ要らんとばかりに理由をただの「面倒」だとしか言わなかったのだが、そんなアルベルに茶化しを入れたクリフは返り討ちにあって思わず軽い口喧嘩が始まろうとしてしまった。

まぁしかしそれは今度はミラージュの助け舟ならぬ助け拳が2人の脳天に炸裂したお陰で収まるのだが、それを見たフェイトは思わず自分の頭を両手で抑えて「ブラックベリー要る?」と声に出してしまうくらいには盛大な音がした様子。

すると、2人はもがき苦しむ一歩手前な表情をしながらフェイトから差し出されたブラックベリーをもぐもぐと揃って食べ始めた。それくらい痛かったのだろう。想像したくもない。




「チッ……!!お前達が来るとろくな事にならん!」


「素直じゃないお前が悪いんだろう?こっちは相談に乗ろうとしてるのにさ」


「要らん世話だくたばれ阿呆!!」


「おいミラージュ。こいつにもう1発噛ましてやれや」


「お望みとあらば。……と、言いたい所ですが、あちらからロア達が来ているので止めておきますね」




折角話を聞こうとしているのにこれだ……と呆れた様子で言うフェイトに対して突き放す言葉を投げたアルベルはその後またミラージュに鉄拳を喰らいそうになるのだが、タイミングが良いのか悪いのかお茶会が終わったらしいロア達が歩いてくるのを切っ掛けにそれは中止となる。

その後はアルベルの頭に出来た大きなたんこぶを見て慌てて治療するロアと、「いや俺もやってくれよ」とツッコミを入れるクリフによる漫才のような物が見れたのだが……そこで笑いが起きている中でミラージュだけ密かに目を細めるのだった。




「あの時のご婦人の言葉……もしかして……」




この、誰にも聞こえない程小さく呟かれた言葉と共に。



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