cactus





「えっとー、まずは羽根ペン類を買いに行こ!」


「それは構いやしねぇがこの腕はなんだ」


「えへへ、だってアルベルとお出掛けだもん!そりゃ腕くらい組んだっていいでしょ?いっつも構ってくれないし!」


「視線が痛ぇんだよ」


「アルベルが銀河一カッコイイ故の嫉妬だよそれは!」


「お前の目が節穴な事だけはよくわかった」




意気揚々とウォルターの屋敷を出てからすぐに。
沢山買うのだからまずは軽いものからと考えたのだろうそのロアの作戦は正解だとアルベルも思ったのだが…どうにも街の連中の視線が痛い。痛いというか何とも言えない。
例えるならばまるで珍獣でも見ているかのような視線だ。
それはそうだ、「歪みのアルベル」だなんて呼ばれている一匹狼で有名な自分達の国の…しかも三軍の長である男がはしゃいでいる女性と共に歩いているのだから。

それもこれもロアがアルベルの腕に自分の腕を絡めて、それはもうすりすりと頬擦りをするくらいにベッタリとくっついているから余計である。


全く歩きづらいこの上ない。


…が、どうせロアにそれを辞めろと言っても聞きやしないだろうし、案の定周りの視線の理由が訳の分からない物だと思っているのだからもうなんか一周まわってどうでもよくなってくる。




しかし…




「あ!アルベル見て!猫の親子!可愛いねぇー!!」


「猫なんざそこら辺に居るだろうが」


「…あ!見て見てアルベル!あっちの店なんだか安売りしてるみたいだよ!」


「買い出し内容にないもんだろうが」


「……あー!!見て珍しいっ!!カルサアで植物が売ってる?!あれなに?!へぇー!サボテンか!初めて見た!サボテン!棘がある!!これ本当に花咲くの?!」


「サボテンくらいなら珍しくも何ともねぇよ阿呆」




何ともまぁ、未だにアルベルの腕にベッタリとくっついているロアは何をするにも楽しいらしい。
見るもの全てに目を輝かせては指をさしてはしゃぎ、その度にアルベルを見て、その度ににこにこと笑って。
アルベルがどんな適当な返事を返そうが、興味をそそられなかろうが関係なく、純粋に今この現状を心から幸せに想っているのが見て取れる。

相変わらず街中の視線は何とも言えないままだが、それでもこんなロアを見てしまえばアルベルも「いい加減離れろ」という言葉すら出せないのだろう。
現に今も彼はロアが興味津々な様子でサボテンを見にアルベルの腕を引っ張りながら店に向かっても、それを振りほどこうとはしない。




「おじさん!この小さい可愛いサボテンって花咲く?!」


「おおーロアちゃん今日も元気だねぇ!え、えっと…!」


「…俺に構わず話を続けろ」


「!は、はい!それでは…!えっとねロアちゃん、難しいかもしれないが…気持ちを込めて毎日水やりをして、話しかけてやったりすれば咲くかもしれないよ!」


「!!本当?!このサボテンいくら?!って…あぁ買い物分しか持ってきてないんだった…!!」


「ありゃりゃ…そいつは残念だね…!」




初めはアルベルを前にしてオドオドとしてしまった店主だったが、アルベルの「俺を気にするな」という言葉で何とかロアへいつものような対応をしてくれたが、肝心なサボテン代が無いのならば、申し訳ないが売ってやることは叶わない。

しかしあまりにもロアがしゅんとしてしまっているのを見てしまっては、日頃ウォルターにも目の前のアルベルにも世話になっているような身分からしてみれば、「ここは差し上げるべきだな」と店主は考えてくれたのだろう。
悔しがっているロアにバレぬようにテーブルの下でガサガサと紙袋を用意し始めたのだが…それは意外な人物の言葉によってその手を止められる。




「…400フォルでいいんだな?」


「え、え?!あ、は、はい…!」


「…チッ、丁度ねぇな…ついでにバジルも5つ包め」


「!かしこまりました!ありがとうございますアルベル様!」




団長をしているだけあって貯蓄はある…というよりも。普段自分の刀の手入れ代や戦闘品くらいにしか金を使わないアルベルにとって、別にサボテンの値段くらいどうって事なかったのだろう。
無造作に金を取り出して、金貨ではなく紙の方を店主に差し出して。
無駄に金貨が返ってこないようについでのハーブまで頼んでいた。

そんなアルベルから注文を受けた店主がお礼を言いながらも待たせないようにテキパキと紙袋に丁寧に詰めているのを唖然と眺めていたロアは隣にいるアルベルの方をやっと向いておずおずと声を掛ける。




「…え、ア、アルベル…?い、いいの…?!」


「いいから買ってんだろうがこの阿呆……精々枯らすなよ」


「!!う、うんっ!!ありがとうアルベル!!大切に育てるっ!!」




戸惑いがちに聞いてみたロアだったが、そんなロアの戸惑いなど気にしないアルベルのその言葉は、ぶっきらぼうだけれども、ちゃんとロアには彼なりの優しさが伝わっていた。
頬が少しだけ赤いのがその証拠なのだが、そんな事を彼に言ったら機嫌を損ねてしまうかもしれないので黙っておく。

そうこうしているうちに品を紙袋に入れ終わって会計を済ませた店主がロアへとそれを渡してくれた。
するとロアはパァァ…!と目を輝かせて頬を染め、大切そうにそれを両手で抱え込んで再度アルベルにお礼を伝えると、店主がまだ目の前にいるのにも関わらず大きな声で「大好き」と満面の笑みで言ってしまう。




「ッー!!時と場所を考えろこの阿呆!!」


「えっ!あ!そうだった!!ここ外だった!!」


「そうだったじゃねぇ!!チッ!!とっとと済ませて帰るぞこの阿呆!!」


「あー!!阿呆って2回も言ったー!!」


「2回でも足りねぇくらいだ!!」


「酷いっ!!未来の奥さんに向かって!!」


「黙れこの阿呆!!!!」


「あー?!…って!!待ってよ先行かないでよー!!アルベルーッ!!…あ!おじさんありがとうっ!!また来るねー!!」




ビックリしている店主を置いて。
ズカズカと歩いて行ってしまったアルベルを追って走っていったロアの後ろ姿を唖然と見つめながらヒラヒラと手を振ることしか出来なかった店主は、それはもう本当にビックリしてしまっていたのだった。

だってそうだろう、あの歪みのアルベルが…アルベル様が。
ウォルター様のお孫様とそういう関係なのだと風の噂で知っていたとしても、本当にあぁも若干ではあるが女性にペースを乱されている姿を見せるだなんて。




「こりゃ…俺はアルベル様の事を少し誤解していたのかもしれないなぁ……っ、ははは…!」




申し訳ございませんアルベル様…と思いつつも笑ってしまったハーブ屋の店主はその後、常連のお客さんとの世間話でその話題を数日の間振りまいてしまうのだった。

そしてそんな事など予想もしていないだろうアルベルはというと…




「初めましてこんにちは!私はロアと言います!よろしくお願いします!」


「…マジでサボテンに話しかけんのか…」


「えっとー、窓際に置いてー……うん!早速水やりしなきゃね!はいお水ですよ〜!ゆっくり飲んでね〜!」


「きゅうー?」


「おおロア、サボテンを買ってきたのか…言えばわしが買ってやったと言うに…」


「ん!大丈夫!アルベルが買ってくれたんだー!えへへ、だから大切に大切に育てるの!ね!アルテン!」


「おいちょっと待て」


「アルテンというのか!ほっほっほ!よろしくのぉアルテン!…の!サボテンの、「アル」テン!」


「待てと言ってるのが分からねぇのか前にもあったぞこんな事!!おい!聞け!!……聞けと言っている!!」




更に予想もしていなかった状況になっており、またしても自分の名を「ハリ」のある物に付けられる羽目になっていた…というのは、これも後にロアからハーブ屋の店主に伝わることになった…というのは、そう遠くない話である。




(………)


(その哀れんだ目を今すぐ止めろちんちくりん!!)


(きゅきゅきゅ)


(僕はハリ「ベル」だよって言ってるよアル「ベル」!)


(黙れこの阿呆!!!)


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