new family
「つまりだ。ロアはその魔物を助けようとした結果、自分も一緒に連れ去られたわけだな」
「まぁ連れ去られたというか、あの親ドラゴンからしたらお呼びでないのにしがみかれたって感じだろうけどな」
「黙らっしゃい!でもその結果こうやってハリベルは助かったんだからいいでしょ!」
無事にロアを助けることに成功した一行は、そんな本人と共にウォルター邸の応接間にて話をしているところだった。
そして、ソファにてハリベルを抱きしめた状態のロア本人からどうして今回のようなことになったのかの説明を聞いた全員は、腕組みをしたりため息をついたりと様々なポーズを取っているが、誰もが一度は揃って深いため息をついている。
それから暫く間を開けた後に、ロアの向かいに態度悪く座っていたアルベルは怠そうな様子で彼女の腕の中にいるハリベルをジト目で指さして声を上げる。
「というかお前……あの時は聞きそびれたが、そのちんちくりんの珍妙な名前はどういう意味だ」
「ちんちくりんじゃない!ハリベル!!」
「うるせぇ阿呆。その名前が何故かって俺は聞いてるんだよ」
「それは、この子が私を守ってくれた時にね!カッコイイカッコイイそれはもうカッコイイ私の王子様なアルベルみたいだなって思ったから!背中の針とアルベルのベルを合わせてハリベル!!ね!ハリベル〜」
「きゅー!!」
「聞いた俺が阿呆だった」
「何で?!」
ちんちくりん…つまり、その「ハリベル」という名前にどうも違和感を感じていたらしいアルベルがその理由を聞けば、やはりそれはアルベルが予想していた通りの理由だったようで。
アルベルからしてみれば、「何故こんなちんちくりんな魔物の名前に自分の名前の一部が使われなきゃならん」「そもそも俺みたいとは何だ」といった心境なのだろう。
ジト……としてハリベルを見ていたその目を更に細くさせつつも、いやしかしロアは一度決めたら中々折れないということも理解しているのか、半ば諦めたように片手で目を覆ってため息を再度ついてしまった。
すると…今度はそんなアルベルの様子を伺っていたらしいウォルターがいつの間にか応接間に置かれた本棚にしまってある分厚い何かの本をパラパラと捲り始めた。
「「ハリベル」のぉ……ふむ…まぁ見るからに危険な雰囲気は感じぬが…しかしこいつは…おお、あった。これじゃ」
「「「……ポルキュパイン?」」」
「……という魔物のようじゃな」
パラパラと捲り始め、お目当てのページに辿り着いたらしいウォルターは全員に見えるようにその本を見開いてくれた。
するとそこには「ポルキュパイン」と書かれたページがあり、軽い生態のような物と共に描かれていたのは紛れもなくハリベルにそっくりなスケッチ。
そのスケッチを見るに、やはりハリベルはこの「ポルキュパイン」という名前の魔物で間違いないようだった。
「えっとーなになに……ポルキュパインは群れで行動することが多いが、稀に馴染めずに単独行動をする個体がいる……って書かれてんな」
「まんまハリベルの事じゃね?」
「ハリベルの事だね!」
「きゅう!」
「そこで得意気な顔をする意味が分からん」
どうやらこのドヤァ……とした表情を見せて軽くふんぞり返っているハリベルはこの本に書かれている通り、群れに属さないタイプのポルキュパインということなのだろう。
その件について何故こんなにも得意気なのかは分からないが。
そして初めはウォルターが見開いて見せたそのページの触りの部分を読み上げていたジェットとロータスだったのだが。
その後はウォルターから本を受け取って代わりに続きを更に読み上げていく。
「ポルキュパインは一個体の強さがそうでも無い為、生き残る為にも群れで行動して獲物を狩る事が通常……故に孤立したタイプのポルキュパインにそこまでの脅威はない…」
「つまりは弱者って言われ、っ!テメェ!?俺の頭に乗るな!退け!」
「ハリベルずるい!!」
「そこじゃねぇだろこの阿呆!!あー、なんだ、あー……!!ジャック!!早くこいつを引き剥がせ!!」
「ジェットです!!はいただいま!!」
「また、ポルキュパインはこちらが襲わない限りは攻撃してくる様子は見られず…魔物にしては知能もそれなりな個体も存在するよう……だそうですね。これはつまり割と安全なのでは?」
「ふむ……ロータスはそう思うか」
「はい。まぁ俺の主観ですけど」
詳細を読む限り、どうやらポルキュパイン……というよりもハリベルは魔物だからと言ってそこまで警戒するべき種族でもなさそうな気がしたロータスが顎に手を添えているウォルターの問いに答える。
その後ろでぎゃーぎゃーと騒いでいるアルベル達に対して全く気にする様子がないことからそんな2人は至ってそこそこ真剣なようだ。
ウォルターからしてみれば、今ここにいるジェットとロータスという友人が大切な孫であるロアに出来たとしても、アルベルや自分が傍にいるとしても。
それでもやはり今まで違う世界にいた事からくる寂しさや不安といったものは拭い切れるものでは無いだろうし、それを少しでも拭ってくれる存在は多い方が良いと考えているのだろう。
そう、それが例え犬でも猫でもなく…脅威はないにしろ、魔物だとしても、だ。
「ふむ……ロア、一つ聞くがの」
「はいはいハリベル〜戻っておいでー…って、ん?何おじいちゃん?」
「お前も良い歳じゃ。そんな子供じみた事を言わんでも良いとは思うが……今後もそのハリベルとやらと一緒に暮らしたいのなら、その子に対してきちんと責任を持てるな?」
「!えっ、いいの?!ハリベルとこのまま一緒にいても!!」
「ほっほっほ。先程の約束と、ハリベルがそれを望むならばの話じゃが…さて、ハリベル。お主はどうしたい?必要ならばこの街の者にはわしからお主に対しての安全を保証しておくが」
「うん!うん!私は守れる!!けど……ハリベル、ど、どう?!私とこのまま一緒に居てくれる?」
魔物だとしても。
上手く周りと馴染めずに独りでいたところを……遥かに強い存在に食べられて終わる筈だったところを。
助けて、助けられて、名前をもらって。
まだ少ししか一緒にいないけど、知らないことが沢山あるけど。
こうやって抱き上げて視線を合わせ、緊張した様子で願った様子で見つめてくるロアが大好きな男というのが「嘘だろお前ふざけるな」というちょっと腹立つ視線を寄越してくるけど。
「きゅうー!!」
ハリベルに「迷い」なんてものは1ミリもなく。
その返事は可愛い笑顔で両手をぱたぱたと上げてみせた「よろしく」という行動であっさりと決まり。
そんなハリベルをキラキラとした眩しい瞳で見つめ、嬉しそうに頬擦りをしながら「これからよろしく!」と満面の笑みでそう言ったロアと、それを微笑ましく見守るウォルターやジェットとロータスの姿と。
そこまでではないが、それでもどうにも良い気はせん……といった複雑そうに渋い表情をしたアルベルのとても分かりにくい軽い嫉妬によってごった返した応接間は……
「カルサアの人達が何か他の子と区別出来るようにリボンとか付けた方がいいかな?!」
「おお。それは良い考えじゃの」
「どうせなら名前の由来通り、アルベル様っぽく首輪みたいな何かを付けるとか!」
「やめろ。大体こいつの寸胴な体型にそんな物無理だろうが」
「なら腰巻きはどうですかアルベル様!!」
「だからこの寸胴でどうやっ」
「分かった!背中の針にアルベルとお揃い風で包帯を2つ付けてツインテー、」
「そもそもやめろと言っているんだこの阿呆!!!!」
こうして……暫くの時間、ロアとウォルターの新しい家族誕生のお祝いでわいわいと盛り上がるのだった。
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