don't wash hands





「あ!ジェットにロータスー!!ごめん心配かけたー!!探してくれてありがとう私生きてるー!!」


「「ロア!!?良かったマジで生き、ままま侯爵級ドラゴンンンンンン?!?」」


「騒がしい奴らだな…」


「いや普通驚くでしょそりゃ」




クロセルの背に乗せてもらったアルベル達は、空に舞い上がって直ぐに、同じく空の上にいてキョロキョロとしていたジェットとロータスを見つけると、ロアがその方向に向かって大きな声をあげて手を振って自分の無事を知らせてみせた。

そんなロアの姿を見たジェットとロータスは心底安心したのだろう、少しだけ目に涙をチラつかせて感動したかのようにその目を輝かせたのだが…目の前で手を振ってくるロアを乗せてくれている正体が侯爵級ドラゴンであるクロセルだと気づいて目をポーーーン!!!とまるでどこぞの黒い髭男の危機一髪かのような勢いで飛び出させてしまった。




「ナンダ、アノ騒ガシイ弱者達ハ」


「アルベルの部下のようなものです!」


「いつあいつらが俺の部下になった」


「あはは!でも、あいつらじゃなくて、はい!名前は?」


「……ジャ…?ジャンと、ル…ロー……ルーク」


「「ジェットとロータスですっ!!」」




ロアの抜き打ちテストを今回も見事に外したアルベルの答えを聞いたジェットとロータスは揃ってまたもや騒がしく声を張り上げて訂正する。
そんな光景に「また駄目かー」と苦笑いするロアだったのだが、こうしていつもの通りなやり取りが出来ることへの感謝を密かに感じていたのだった。

それもこれもジェットとロータスが偶然ドラゴンに攫われる現場を目撃してくれていたのと、今自分の腕の中にいるハリベルが何度も助けてくれたこと…そして何よりアルベルが駆け付けてくれたお陰なのだ。
それがどれだけ有難いことか、どれだけ幸せなことか、どれだけ考えてもキリがないくらい自分は恵まれているんだとしみじみ思う。

そう冷静に色々と考えられているのは、初めて会った時と比べて今自分達を乗せてくれているクロセル侯爵の雰囲気が少し和らいでいるからかもしれない。




「娘、オ前カラハ少々変ワッタ雰囲気…多少ノ違和感ヲ感ジル…何故カハ分カラヌガ、コレ以上アルベル二面倒ヲカケタクナイノナラバ、自分ヲ知ルコトダ」


「おい。それはどういう意味だ。こいつは俺と同じこの星の生まれの筈だが」


「う、うん…その筈…だよね?」


「フム…我トテ、ソノ違和感ガ何ナノカハ分カラヌガナ。一応頭ニハ入レテオクト良イ」


「…えっと、はい!わ、分かりました…!」




少し和らいでくれたお陰か、ロアに対して彼なりの助言をしてくれたクロセル侯爵は、分からないながらも自分の言ったことに頷いたロアを確認すると、その後は街のすぐ近くだと色々面倒事になるからとカルサアから少し離れた場所でアルベル達を下ろし、「世話になった」と言ったアルベルに振り向きざまに首を一度だけ縦に振って直ぐにその大きな羽を羽ばたかせてバール山脈へと戻っていった。

ロアもアルベルも、クロセルの言ったその「違和感」というものが何なのか考え込んでしまうのだが、その隣ではその大きすぎる背中を未だに唖然としながら見ていたジェットとロータスが、地へ降りたその時から握られていた拳が段々と震え始め…最終的にそれは体全身へと広がったかと思えば、アルベルとロアに向かって急にバッ!!と顔を向け、ジェットはロアの両手、ロータスはアルベルの右手を掴んでブンブンと忙しなく縦に振りはじめる。




「うわぁ!?ジェットどうしたの?!」


「ッ、!!何だ騒々しいっ!!」


「俺俺俺俺!だってだってだって!あの!あの侯爵級のドラゴンと並んで空を飛んだんだぜ?!あの!侯爵級のドラゴンと!!疾風騎士団としてこんな幸せで名誉なことあるか?!いやない!!ないね!!」


「ジェット達は疾風騎士団だもんね!あはは!そっかそっか!それは確かに嬉しいんだろうね!もうびっくりしたなぁ〜!でも本当に助けてくれてありがとう!」


「それにロアも無事だったしな!!何よりあの侯爵級ドラゴンを従えるアルベル様!やっぱり凄いですよ貴方は!!凄すぎです!!」


「別に俺が従えてるって訳じゃねぇ!前に一度勝負する機会が…っ!!マジで鬱陶しいんだよ離せクソ虫!!」




ブンブン、ブンブン…と。
それはもう余程感激したのだろう、興奮冷めやらぬといった感じのジェットとロータスはこれでもかと目を輝かせ、頬を高揚させ、キラキラとしたオーラを放ちながら未だにロア達の両手を振り続ける。

そのお陰で考え込んでしまっていた2人の思考が一気に明後日の方向へと飛んでいってしまったのだが、ロアはそんなジェットを見て自分まで嬉しくなったのか笑いながらお礼を返せたのに対し、アルベルに関してはそういったキラキラとした眼差しを向けられることに慣れていないどころか眩しすぎたのだろう、「やめろ」とばかりに無理矢理ロータスから右手を解放させたのだが、ロアはそんなアルベルの髪の隙間からチラリと見えた耳が気持ち赤くなっているのを見逃さずに心の中でふふ、っと笑ってしまう。




「全く〜アルベルったら素直じゃないなぁ?」


「…フン、鬱陶しいと言ったら鬱陶しいんだよこの阿呆」


「ロータスずるいぞお前!どさくさに紛れて!!」


「いや、つい興奮して!すみませんアルベル様!しかしこの手は一生洗いません!」


「洗え。汚ぇな」


「ぶふっ!!あははは!」




そして…そんな事をしながら歩いていれば、いつの間にかカルサアへの入口へと着いたらしい。
その大きな門を潜り、「帰って来れたんだ」と実感したロアはその事実を噛み締めるように目を伏せようとしたのだが、目の前で何やらカラン…という何かが転げ落ちた音がしたかと思って前を向く。

するとそこにはきょとんとした表情をしたウォルターがおり、次第にゆるゆると眉を八の字にしておたおたと両手を前に出しながら彼なりに走ってきたそんな様子を見たロアは、そんな彼のあまりの姿に愛しさが涙と共にぶわっと込み上げ、全速力で駆け寄って大好きなその体に抱きつく。




「おじ、おじいちゃん…おじいちゃんっ!!」


「ロア!ロア…!!あぁあロア…!!よか、よか…っ、!お主まで…!お主までわしの前から居なくなったかと…っ!あぁ…!」


「ごめ、ごめんなさい…!!心配かけてごめんなさい…っ!うわぁあんごめんなさい会いたかったぁぁ…っ!!」


「この馬鹿者ッ!!心配…かけおって…!!本当に…本当に…!無事で良かったわい…!!」


「ごめんなさいごめんなさい…!!おじいちゃんごめんなさい!!もう勝手なことしないって、ちゃんと約束します…!!」




目の前で抱き合いながら涙を流して再会を喜ぶ孫と祖父を見て…思わずもらい泣きするものも居れば満足そうに見ているもの、きゅうと一鳴きしてにこりと笑うもの…フンと鼻で笑いつつも満更でもなさそうにしているものなど様々だが…そんなメンバーとウォルターがアルベルの足元にいるハリベルの存在に気づいて大慌てするのは、なんと全員がロアとアルベルから事の顛末を聞く為に一旦ウォルターの屋敷に入った後なのだった。


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