流れ星に願うのは
星が瞬く綺麗な夜空の下、とあるポケモンがホテルしおさいにある従業員専用の裏口からこっそり中へ入ろうとしていた。
が、警備が厳重なために結局直ぐに見つかってしまい、首根っこを掴まれて空中でぷらぷらと揺れているポケモンは悔しそうな表情をしている。
「こらこら、ここはポケモンが入っていい場所じゃないんだよ?」
「ガウ…」
そのポケモンをとても珍しいと思った従業員はゲットしようかと自分のボールを構えたが、よく見ると首元にバンダナのような物を巻いていることに気づくと潔く諦めて外へと連れ出す。
「お前誰かのポケモンだろ?迷子なら交番に連れ…って、もう居ない…」
逃げ足が早いのか、それともまた忍び込もうとしているのか、定かではないがいつの間にか消えてしまったポケモンに溜息をついた従業員は仕事へと戻っていった。
「ふんふんふーん」
その頃、シアナは豪華なルームサービスをご機嫌で堪能すると仲の良い友人達に思い出の写真を送っていた。
実は帰ってきたらアルバムを作ってダイゴにプレゼントしようと沢山撮っていたのだ。
それを眺めながら幸せに浸っていると、ふと窓の外が騒がしい事に気づいた。
「?ねぇダイゴ、あれ何だろ…」
「ん?どれ…」
シアナが小走りで窓の外を見ながらダイゴへと声を掛けると、大きなソファで読書をしていたダイゴはパタンと本を閉じるとシアナの隣へと移動する。
「本当だ…パトカーが何台か来てるね、何かあったのかな…」
「何だろうね?…というかジュンサーさんに連行されてる人達、とても個性的な格好だなぁ…」
「…見たことあるよ、あれはきっとスカル団っていう集団だね。ホウエンで言う所のマグマ団やアクア団みたいなものみたいだけど…」
さっきの雑誌に載ってた、とダイゴは眉間に皺を寄せるとそっとシアナを抱き締めた。
彼女とはなるべく関わらせないようにしなくては。
自分が居ればいくらでも守ることは出来るが、万が一何かあってからでは遅い。
特にシアナはバトルに関しては無知に近いので自分の身を守ることが難しいのだ。
大抵はバシャーモが独断で行動するのだが、もし手持ちにバシャーモがいない場合、それは彼女の身の危険を意味する。
「ちょ、ダイゴ恥ずかし……どうしたの?なんか怖い顔をしてるけど…?」
「…あ、ごめん。シアナがあの連中と何かあったらどうしようか考えてた。」
「ふふ、なんだ。心配してくれてたの?」
「当たり前でしょう?僕の大切な人なんだから。」
そうスムーズな流れで額にキスを落とせば、照れて両手で顔を隠す恋人を見て癒されたダイゴはくすりと笑うと軽々とシアナを横抱きにするとベッドへと移動し、横に寝転がると少し乱れてしまったシアナの前髪を整え、そのまま額にキスをする。
「ん。ふふ、くすぐったい…!」
「っ……シアナ…あのさ、」
自分の行為で身を縮めて悶えるような行動をする恋人を前にして、理性の糸が解れそうになったダイゴは無意識で口を動かす。
「…っ、」
何も言わず、視線はシアナの顔を見たまま
ダイゴの手がそっと太腿に触れると2人はお互い見つめ合い、時が止まったかのように動かなくなった。
1分のような、10分のような。
何かを堪えているような、苦しそうな表情で見つめてくるダイゴにシアナは胸の奥が疼くような感覚を覚えた。
苦しくて息が出来ない。
目を逸らそうにも体が金縛りにあったかのように全く言う事を聞かないのでそんな事は出来なかった。
「……」
「…っ、ダイゴ…?」
目の前にある恋人を見つめることしか出来なかったシアナは、ふと自分の太ももに感じていた感触が段々と上に上がって来ていることに気づき、思わずぎゅっと目を閉じる。
「…っ、…やっぱり何でもない。」
「…へ?あ…そ、そう…?」
覚悟を決めようとした瞬間のダイゴの言葉に拍子抜けしてしまったシアナが首を傾げるものの、それでも何でもないと優しく頭を撫でてくれるダイゴの姿は彼女の空色の瞳にどう映っているのだろうか。
「…あのね、ダイゴ…」
「…うん?どうしたの?」
自惚れていると言われればそれまでだ、しかし今の雰囲気はもしかしなくてもそういったものでは無いのだろうか。
先日親友とした会話の内容を思い出したシアナは自分から動いてみようかと考える。
しかしいくら考えてみてもそんな勇気が出ることはなく、それでも控えめに大好きなダイゴの胸板へと顔を埋めれば、彼はいつものように優しく抱き締めてくれた。
「ふふ、どうしたの?甘えたくなった?」
「…うん、駄目?」
まさか、と更に強く抱き締めてくれる恋人にシアナはもう今日はこの幸せを噛み締めながら寝てしまおうと目を閉じた。
きっと、焦る必要はない。
彼との幸せな時間はこれからも長いのだろうから。
どうか、どうかそうでありますように。
そう願いながら夢の中へと旅立ったシアナを見守るように、アローラの夜空からは一筋の光が空の彼方へ流れていった。
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