またいつか
ショッピングモールで最後の買い物をした2人は空港に着き、飛行機の時間までまだ余裕があるということでソファに座ってゆっくりとしていた。
「はい、ロズレイティーがあったから買ってきたよ」
「え?わぁ…ありがとうダイゴ!」
観光地なだけあって人混みが多いここは賑やかだなーと思っていると、ふと隣からロズレイティーを渡されたシアナは笑顔で受け取る。
自分が考え事をしている間に、いつの間にか買ってきてくれたらしい。
「んー…美味しい。」
「それは良かった。」
渡されたロズレイティーを幸せそうに飲むシアナに微笑むダイゴもまた隣に座り直すと自分用に買ったグランブルマウンテンを一口啜る。
うん。深い味わいが癖になりそうだ。
そういえば先程の買い物でシアナがロズレイティーのティーパックとこのコーヒーのインスタント用を沢山買ってたなーと思い出したダイゴはついクスリと笑う。
あの量を考えれば、帰ってきても暫くはこの味を楽しめるだろう。
「……あ。おばあちゃんからメールだ」
「マヒナさんから?…何だって?」
「えっとね…」
−飛行機にはちゃんと間に合ったの?あんたはトロくさいんだから忘れ物に気をつけなさいよ、それで迷惑するのは私なんだから。
あの石オタクのムカつく彼氏と喧嘩でもしたらいいわ。
そしたらあんたの泣き顔を笑って眺めてお茶くらい入れてあげるわよ。
おじいちゃんがいつでも遊びにおいでと言ってるわ、私はどちらでもいいのよ、あんたのおじいちゃんがそう言ってるだけだから。
気をつけて帰りなさいよ。−
「…ふふ、これはまた来てもいいって事かな?」
「そうだろうね。本当に素直じゃないんだから…全く。…石オタクのムカつく彼氏って…」
酷い言い様だな、とダイゴが冷めた目で画面を眺めていれば、シアナの楽しそうに笑う声が隣から聞こえてきた。
相当この内容が嬉しかったのだろう、少し寂しいと言う彼女の頭をダイゴは優しく撫でる。
「またいつでも来れるよ、それに此処はシアナとルガルガンの故郷でもあるんだし」
「うん!その時はルガくんも喜んでくれそう!」
「…ルガくん?」
ルガルガンのこと?と聞けば、少し顔を赤らめて頷くシアナにダイゴは珍しいと疑問を抱く。
彼女がポケモンにニックネームをつけるのは初めてではないだろうか?かく言う自分もそういった名前をつけるタイプではない。
「なんでルガくん?」
「その…実はルガルガ、ンってスムーズに言えなくて…だからルガくん!」
「…ルガルガン」
「ルガルガル…ルガン…っ!」
「ぷっ!」
シアナの可愛らしい噛み具合に思わず噴き出してしまったダイゴはプルプルと肩を震わせてそっと出てきた涙を拭き取る。
なんだこの子は。可愛すぎではないだろうか。
「もー!だから言わなかったのに!」
「はははっ!ごめんごめん、なんだか可愛くてつい…っ!ふふふ…っ!おもしろ…っ!」
「ダイゴ笑いすぎ!…っ、あはは!」
あまりに面白そうに笑っているダイゴに初めは少し拗ねていたシアナも、ついそれに釣られて笑ってしまえば、ふとホウエン行きの飛行機のアナウンスが流れる。
「はー…笑った。さて、時間みたいだね。」
「ふふ、そうだね。帰ろっか!」
どうやらそろそろ時間らしい。
いろいろあったこの場所とも暫くお別れなんだなと少し寂しくなってしまう背中をダイゴがぽん、と優しく押してくれる。
そうだ、またいつでも来ればいい。
此処は新しく出来た、自分のもう一つの故郷でもあるのだから。
目の前に差し出された手を握り、立ち上がったシアナは一度だけ後ろを振り返って微笑むと大好きな彼と共に前を向いて空港の奥へと消えていった。
−おばあちゃん、おじいちゃん、今からダイゴとホウエンに帰ります。
貰ったお母さんの写真、大切にするね。ありがとう!
またそっちに行く時は絶対に連絡するね!
今度会うときは笑顔で会いたいな!
2人共、体には気をつけてね!ー
「…ふふ。しょうがない子ね、体なんて壊さないわよ、馬鹿にして…」
「ん?シアナからのメールかい?」
「っ、なんで私の後ろにいるのよ、見ないでくれる?!」
「はははっ!素直じゃないね、君は…」
そう苦笑いをするホークに、そんなんじゃないとそっぽを向くマヒナの頬はほのかに赤い。
なんだかんだ文句を言いつつも嬉しかったのだろう、怒っているように見えて口元は緩んでしまっている。
「あ!ペリッパー!きのみを勝手に食べたらダメでしょう!後であげるから、早く水を撒こう?!」
「ペリー!」
そんな2人がいる豪華な庭の隅で、使用人がいつかのペリッパーと仲良く芝に水をやっているのを写真に撮ったマヒナはあんたが気にしてたペリッパーはうちで元気にやっている、と送信する。
すると、上空で聞こえた飛行機の飛び立つ音に、ふと上を見上げた2人はそっと微笑む。
きっと孫達はあの飛行機に乗っているのだろう。
「…また、来なさいよ…」
私の、可愛い孫達。
「可愛い寝顔しちゃって…」
ホウエンへと向かう飛行機の中、いつの間にか隣で静かに寝息を立てているシアナは幸せそうな顔をしていた。
思えば、エルフーンが当てたアローラ旅行で、まさかあんなにも色々なことがあるだなんて、想像もしていなかった。
今まで知らなかった彼女のことも、いつの間にかあんなにも強くなっていた彼女のことも。
全部が全部、まるで宝物のように感じる。
「本当に…大好きだよ…シアナ…」
一緒に過ごす度に、止まることを知らずにどんどん膨れ上がる愛しい感情に、全く適わないなと微笑んだダイゴは、そっと隣で気持ち良さそうに静かに眠るシアナの唇にキスをする。
「…良かったね、シアナ…」
また、いつか。
今度はあの2人に宣言した通りの状況で。
そんなことを密かに考えたダイゴもまた目を閉じると、ゆっくりと夢の中へと落ちていった。
愛しい彼女の白く華奢な手を優しくその手で包み込んで。
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