君に沢山の愛束を(2021.12/20)




「…え?ミクリさんと一緒にいたい?」


「エル!」


「ガルガルラァ!」




それは…ダイゴとシアナの結婚式の数日前の出来事だった。
結婚式の予定等も一通り終わらせたシアナがミクリと共にコンテストの仕事をしている時、エルフーンとルガルガンが勝手にボールから出てきたかと思いきや、何故か2体は揃ってミクリへと指をさし、あろう事かピッタリとくっつき、そして笑顔でシアナに手を振ってきたのだ。

そんな2体の様子に正直意外を通り越して訳が分からないと首を捻り、「いやでも…」と、当然困った顔できょとん…としているミクリを見たシアナだったのだが、ミクリは少し考えた後に快く了承し、心配いらないとシアナに伝えると、2体のボールをシアナから預かって外へと出て行ってしまった。




「……ミクリさんなら安心だけど…でもあの子達、特別ミクリさんと仲良し…だったっけ…?うーん…?」




何か特別な接点とかあったのだろうか?ミクリさんに迷惑をかけなければいいけれど。
そんな事を思いながら、暫く首を捻った状態のまま結局答えが見い出せなかったシアナをコンテスト会場の控え室に置き去りにしたまま。















「マーーーベラス!!ファンタスティック!!ふむふむなるほど…そういうことだったのか!それなら丁度この前ジンにプレゼントした特注品のものがあってね、それを使おう!」


「!!エル!エルエルー!」


「ははは!お易い御用さ!それにしても話に聞いていた通り、君はジェスチャーが上手だねルガルガン…いや、ルガくん!お陰で何が言いたいのか直ぐに分かったよ!」


「ガルガル!わふん!」




そして、コンテスト会場の外でルガくんからのジェスチャーで説明を受けたミクリは瞬時に自分にどうして欲しいのか理解してくれた。
それ程までにダイゴから聞かされていた通り、ルガくんのジェスチャーはとても上手で、それなら最適なものがあるのだと2体を連れてキンセツシティへと足を運ぶ。

そんなルガくんのジェスチャーがどんなものだったのかと言うと…






「…はぁ?ビデオレターだあ?」


「そうだ!素晴らしいと思わないか?!大好きな主人の為に、まだ小さいエルフーンが面倒見の良い大好きなルガくんに着いてきてもらい、この私を頼って…!なんて…なんて感動なんだ!これが人間とポケモンの愛!!ラブ!!」


「お前が幸せそうで何よりだわ。俺は昼寝から叩き起こされて不幸だけどな。…ったく、あー、ビデオレターってことは…あれか、この間のやつな。ちっと待ってろ……ほらよ」




ピンポンピンポンピンポンピンポンと連打されて起こされたジンが軽く青筋を浮かべながらも部屋着のまま持ってきてくれた見覚えのあるカメラの通り、ビデオレターのことだった。
どうやらエルフーンはたまたま映っていたテレビでビデオレターというものを知り、それをシアナとダイゴにプレゼントしたかったらしい。

それに着いてきてくれたルガくんのジェスチャーによって知ったミクリはとんでもなく感動して快く協力しているという事なのだが、そのカメラは完全に他人事だと言う風にコーヒーを飲んでいるジンにも当然向けられるわけで。




「…は?」


「さぁ、トップバッターだよ。喜びたまえ!」


「寝起きでやらせんじゃねぇよ、つか何も思い浮かば……はぁーーー…ったく……あー、なんだ…おめでとう」


「……それから?」


「……エルエル?」


「……ガルル?」




………………………




「……ッチィ…!だぁぁぁぁ!!わかったっつの!!んな目で見んな!!…はぁっ!この俺が祝ってやってんだ!幸せになれよ!!これでいいか?!とっととそれ持って他のところにいけや!!」




暫くの沈黙の後。
何とかジンからそれらしい言葉を貰えたミクリ達は「おお怖い怖い」と笑いながらそそくさとジンの家を後にする。
これがただの言葉ならそうでもないが、ビデオレターということもあって、珍しく頬を少し染めたジンが撮れたのだからこれはかなりのレアものだろう!と幸先の良さに3人でハイタッチをした面々はそれから続々と沢山の人達の所に向かうのだった。







「だ、だだ、ダイゴさん!シアナさん!ご、ご結婚おめお、おめでとうございます!!俺もいつか、2人みたいに、その、あ、あの!」


「もー!ユウキったら緊張し過ぎどもり過ぎ!私が言う!!…えへへ、シアナさん!ダイゴさん!ご結婚おめでとうございます!いつも仲良しな美男美女の2人の結婚式!私とっても楽しみにしてるので!憧れのシアナさんのドレス姿…ぜっったいに写真撮らなきゃ!!ってことで!はい次セレナちゃん!」


「え待って俺のメッセージまだ終わっ」


「はーい!シアナさんダイゴさん!ご結婚おめでとうございます!カロスで出会った2人の幸せな日にお呼ばれされるだなんて今でも夢のようだけど!ふふ、ものすごく楽しみにしてますからね!これからも仲良くお幸せに!」




104番道路にある、「フラワーショップ・サン・トウカ」で何やら花を沢山抱えた3人にそれぞれカメラを構えてメッセージを貰ったあと…




「ダイゴ、シアナ。結婚…本当におめでとう!沢山のことがお前達の前に立ちはだかってきたが、それでも変わらず共にいれたこと、本当に尊敬するよ。そしてこれからも変わらず、君達の父としてよろしく頼む。……ぐす、こんな感じで大丈夫かねミクリくんエルフーンルガくん…ひっく、父の威厳というものをダイゴに示さなければだからな!頑張って涙を堪え、」


「…おっと、まだ録画中でした」


「なんだと?!ちょ、待ちたまえそれなら撮り直し…!ってもういない?!?」




ダイゴが不在なのを確認してから、カナズミシティにあるデボンコーポレーションの社長室にて、椅子に座ったムクゲのメッセージを本当に最後の最後までしっかりと撮ったり…




「え、えっとえっと…!シアナ!ダイゴさん!ごけ、ご結婚!おめでとうございます!!えっと…あー、あたしこういう真面目なの苦手なんだよね、どど、どうし…ぐううう無理!!もういつも通りでいく!!シアナ!あんたは確かに成長したけど、まだまだ危なっかしいところが沢山なんだから、これからも気をつけるように!ダイゴさんも、あたしの親友をお嫁にしたんだから、また泣かせたら今度こそほんっっとうに許しませんからね?!…本当に、うん…沢山のことがあったけど、無事にこうして2人一緒になってくれたの、あたし凄い嬉しいからさ…!へへ、涙は当日まで頑張って取っておくよ!本当におめでとう!」


「ちなみにジンのメッセージはもう撮ってあるが、見るかい?」


「えマジで?!え、見たい見たいどれどれ?!」




フエンタウンのジムの前で掃き掃除をしていたアスナから、胸が熱くなるメッセージと、彼女らしい一面もしっかりとカメラに記録し…




「シアナ!お父さ、お父さんは!!お前がこうしてダイゴと無事に結婚式を迎えられると思うと…!2人の今までのことを思うとお父さんは!!ぐす、お前がまだ小さい頃になぁ、お父さんはなぁ、馬鹿なお父さんはお前を全然愛してやれなくてなぁ、本当に沢山寂しい思いをさせてお父さんは、お父さんは最低なんだがなぁ!!そんなお父さんをシアナとダイゴは助けてくれて愛してくれて…!!お父さんはそんな2人が幸せになってくれることを何よりも望むからなぁ!!おめでとう2人共!おめで」


「マーーーー、ジョッ!!!」


「あああぁあああぁぁああぁぁあぁぁあ!!」




数日後の舞台にもなる…色とりどりの花が潮風に舞う、海に浮かぶ秘密の花畑で顔をぐしゃぐしゃにしたセイジロウからのメッセージと、背中をぐしゃぐしゃにさせられそうになったセイジロウの姿をしっかり記録に残し…




「その…なんだ、お前達に迷惑をかけたこんな私からこんなことを言うのは、その…気が引けるのだが、それでも…本当におめでとう…これからも変わらず幸せになってくれることを、心から祈っている。セイジロウのフォローは任せて欲しい」


「リーダーマツブサ……手が、バイブ……オモチロ」


「言うんじゃないカガリ」




マグマ団のアジトにて。
キリッとした表情でメッセージを伝えたマツブサが珍しくメガネを手で直す癖をしなかったその理由に気づいたカガリとのやり取りも記録し…




「はぁ?ビデオレター?全くそんな小っ恥ずかしいことをなんで私が!」


「シアナ、ダイゴくん。結婚おめでとう。私達はアローラからお前達の幸せを祈っているし、こうして何かあれば仕事に都合をつけてこのホウエンの家に滞在もするから、いつでも頼ってきなさい。マヒナもなぁ…お前達に何かあればいつも鬼の早さで仕事を片付け、」


「?!変なこと勝手にペラペラ言ってんじゃないわよぉ!!!あー!もう!!別に私はあんたらがどうなろうと知らないけどね!!孫が離婚したなんてなったらうちの会社に変な傷がつくんだからね?!離婚なんかすんじゃないわよ!!幸せに暮らしてないと困るんだから!わた、私がじゃないわよ!仕事に支障が出るからよ?!…ちょ、何笑ってんのよ!!」




結婚式が近いからと、元はセイジロウの家だった小島の家に滞在しているマヒナとホークから彼女達らしい暖か?なメッセージもちゃんと記録して。




「……さて。一通りメッセージは貰ってきた!後は私達だけだね!さぁ、最高のスマイルをカメラに向け、2人に伝えようじゃないか!」




そして。
エルフーンの希望にあわせ…マヒナ達が滞在している家から少し歩いた場所にある、ホウエンの空と海を背にして。

大好きな大好きな、シアナとダイゴが出会ったこの場所で…皆から預かった、大きな大きな愛の束に、自分達の愛も足そう。




「楽しんでくれたかい?改めて、本当におめでとう2人共!!」


「エルエル!エルゥー!!」


「ガル!ガルガルラァ!」




と、これでもかと笑顔を向けて、頬を染めて。
今までの精一杯のありがとうと、これからの精一杯のよろしくを込めて、大好きを沢山込めて。

きっと、いや絶対に…沢山泣いて沢山喜んでくれる2人を想像したら、当たり前かのように笑顔が沢山溢れるから。








そして、これは余談だが…




「ぐすっ、ねぇ待って意味分からないんだけど!!ぐす、ひっく…!こん、こんな…こんな…!!」


「ダイゴ…おち、落ち着い、て…!ふ、ひっく…!こんな、嬉しいプレゼント…私、予想してなかっ、ふふ、ひっく、…!」


「わか、分かるよシアナ…僕もエルフーン達の気持ちが嬉し、けど…ひっく、それっ、それはそれなんだよ…!だ、だっ、」


「おめでとさん。約束してただろ。なぁ?ミクリ。こんな時はなんつーんだっけか?」


「あぁ!!最高にグロリアスさっ!!!」


「グロテスクの間違いだー!!!!!!」




ミクリとエルフーン、そしてルガくんが大切に記録したビデオレターに使ったカメラに、既に収録されていた、「あの時」の光景を。
ジンとミクリが編集してその後に本当に流していたというお話は…デボンコーポレーション主催の二次会でその場にいた沢山の人達が知っている。


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