光り輝く



今日は毎年お馴染み、珊瑚が楽しみにしている「蜜柑の日」
毎年この日になると、珊瑚だけでなく本丸の皆が蜜柑が大好きな珊瑚の為に…主に第一部隊の刀剣達が何かしらを計画してくれるようになったのだが、今年はどうやら厨で一緒に蜜柑の何かを作っている様子。

そんな中、仕切りにテーブルの上に置かれた籠の中にある大量の蜜柑を大倶利伽羅と珊瑚と共に剥いていた陸奥守は手を動かしながらふと言葉を口にした。




「なんや、ここまでずぅーっと剥いちょるとぉ、刀やのうて職人か何かと錯覚しそうになるのぉ」


「……まぁな。……ところで珊瑚」


「ふぁい」


「ついでに食べるなとは言わないが、その分出来上がりの量が減ることを忘れるなよ」


「えへへ……そうでした…つい」


「がっはっは!まぁ珊瑚のことやき、案の定そうやって食べる思っちょったきな!実は多めにもぎっちょいたぜよ!わしに感謝せぇ!」


「むっちゃん大好きーっ!!」


「わしもやーっ!!」


「はぁ……日が暮れるぞ」




数え切れない程の量の蜜柑の皮を剥き、ある程度の白い筋も取り除きながらニコニコと笑いあう陸奥守と珊瑚。
相変わらず相思相愛で仲がよろしいようで、それを見た大倶利伽羅はため息をつきながらも特に気にせず淡々と蜜柑を剥き続けている。

ところでこれは一体何を作っているのか、と言われれば……それは既に燭台切光忠が事前に用意してくれていたらしい上質な砂糖と大きめの鍋を見れば分かる通り、どうやら今回は3人で蜜柑ジャムを作っているところのよう。
ちなみにジャム作りの用意をしてくれた燭台切は現在裏庭にて自家製の石窯を使ってジャムに合うパン作りに奮闘中らしい。




「あ。ねぇくーくん、ところであの凄い石窯はいつの間に作ってたの?」


「光忠が今日の為に石窯を作る為の物を長谷部に頼んでいたのは知っているが、詳しくは知らん」


「今日の為に?!重労働だし、きっと同田貫くん達も協力してくれたんだろうけど……よく長谷部も許可してくれたね……?」


「まぁ〜そこは長谷部のことやし、「主の為」言えば財布の紐なんてもんゆるゆるになるやろうにゃぁ!がっはっは!」


「なんか照れるな……えへへ」


「良かったじゃないか。……蜜柑の量もそろそろ充分だ。火にかけるぞ」


「「はーい!」」




全員が全員、珊瑚の為を思ってこの日の為に色々と準備をしてくれたことを実感しながら照れくさそうに頬を染めてニコニコと笑う珊瑚の表情に内心癒されながら。
話をしながらだとしても、いつの間にかかなりの量になったらしい剥かれた蜜柑が山のようになっていることを確認した大倶利伽羅は、陸奥守に指示を出して上質な砂糖の袋を開ける。
そして2人で蜜柑、砂糖、蜜柑、砂糖……と交互に鍋に入れていくと、焦げ付かないような加減で火をつけた。

あとは何時ぞやにこれまた燭台切が長谷部に頼み込んで買ってもらっていたハンドブレンダーというものを使って潰し混ぜながらじっくりと煮込めば出来上がりだ。





「……うわぁ……!凄い良い匂い……っ!!」


「ほにほに!こりゃ皆で食べるのが楽しみじゃのぉ!!」


「……後は粗熱を取ればいいだけだな」




そして火をかけてから暫くして。
ゆっくりと焦げ付かないように気をつけながら3人が交代で見ていたのが伝わったのか、蜜柑ジャムは見事に柑橘の良い香りを保ちながらも甘く甘く熟して艶感のあるとても美味しそうなジャムへと変身してくれた。
これは今頃裏庭でパン作りをしていたり、テーブルや飾り付け等をしている皆も大喜びしてくれるだろう。

それを確信した陸奥守は珊瑚に「後は休んで待っちょれ」と言おうとしたのだが、それより前に鍋を見ている2人の後ろから「キュポン!」という何やら気持ちの良い音が聞こえ、2人はふと後ろにいた珊瑚の方へと振り向いた。




「なら珊瑚、おまんは暫く休……ん?なんや?そのペンと変わった紙の束は?」


「何をする気だ?」


「じゃじゃーん!これはラベルシールって言ってね、1個1個皆の名前を書いて瓶に貼ろうかと思って!」


「……あんたはまた日の暮れるような事を…」


「だって、皆が私の為に準備してくれるのが嬉しくて…私も皆の為に何かしたいなーって…あ!でも大丈夫!後残ってるのは第一第二部隊の子達だけだし!むっちゃんは仲良しの肥前くんと南海先生に書いてあげたら?」


「お!そうかあ!書く書く!わしが書きたい!2人共喜ぶやろうにゃぁ!がっはっは!!」




どうやら珊瑚は、皆が自分の為に今日の日を楽しみに、そして色々と準備してくれていた事が本当に嬉しかったのだろう。
予め用意していた全員に配る分の瓶に名前を貼ろうとこっそり計画し、数日前から少しずつ手書きで準備をしていたようだ。

そして珊瑚からペンを受け取った陸奥守もノリノリで嬉しそうに豪快な字を書き出し、それを見て「枠からはみ出しそう」と笑う珊瑚が本当に楽しそうに見えた大倶利伽羅が思わず2人が見ていない時に目を伏せて微かに笑ってしまうのだが、陸奥守が「これなら肥前も大喜びじゃ!」と声でかでかと言うのでふと目を伏せた状態のまま思わずその想像をしてしまう。




「……南海が喜ぶのは分かるが、肥前の喜ぶ顔というのが想像出来ないんだが」


「チッチッチ。大倶利伽羅は知らん思うけんどな、肥前はあぁ見えて根は純粋で素直な可愛い奴やき、「うぜぇ」言いよっても本心では喜んじょるに決まっとるんじゃ!誰かに自分の名前を心を込めて書いてもらうんは、案外嬉しいもんぜよ〜」


「そういうものなのか……」


「ふふ。くーくんも伊達の皆に書いてあげたら?」


「…いや、陸奥守は兎も角、俺は馴れ合うつもりはな」


「ほいほい分かった分かった!ほれ!おまんの分のペンじゃ!」


「あんたは「分かった」の意味を辞書で調べろ」




全く話を聞かない陸奥守にほいほいとペンを渡され、思わず条件反射でそれを受け取ってしまった大倶利伽羅は、皮肉を言われても慣れっこのように目の前で豪快に笑っている陸奥守と、こちらを楽しそうに見つめている珊瑚をその金色の瞳に映すと、諦めたように息を吐いて仕方なく椅子に座った。

そして珊瑚から伊達組の分のラベルシールを受け取って、まずは太鼓鐘の名前を書き始めたのだが、どうにも目の前の2人が本当に楽しそうに名前を書いていくものだから、ついついそちらに目がいってしまう。




「あははは!むっちゃん、凄い字が豪快!」


「わしらしいやろう?がっはっは!!……いかん。肥前の「広」の字が入らん!!……こーなったら、ここを、こうして…………おん。これやと「広」やのうて「狭」やの。肥前忠狭じゃ」


「あっははははは!!!」


「くっ、」


「あ。くーくんも笑った」


「笑っていない」


「流石の兄やろ?ふふん!」


「誰が弟だ。誇るな」




ただ名前を書くだけなのに、本当に楽しそうに書いていく2人。
それを見て、いつの間にか染み付いてしまった陸奥守へのツッコミをきちんとしつつ……そんなに誰かの名前を書くことが嬉しいことなのだろうか、書いてもらうことが嬉しいことなのだろうかと大倶利伽羅が考えながら珊瑚が最後の一振りの名前を書き終わるのを見届けた大倶利伽羅は、自分だけまだ伊達の誰1人として書けていないことに気づいて、先に2人にもうすっかり粗熱が取れたジャムを瓶に詰めてもらうことにした。




そして自分が担当することになった、伊達に縁のある刀達の名前を書き始めて直ぐに……ふと近くにあった自分と珊瑚の分の瓶に書かれた、可愛らしくも丁寧なその名前を視界に入れ、一瞬きょとんとしつつもその後何やら目を細め……そして僅かに口に弧を描きながら2人がはしゃいでいる後ろで静かに手を動かしたのだった。
















「誰が肥前忠狭だこの鉄砲野郎!!」


「なんやと?!時代は拳銃ぜよ?!」


「そこじゃねぇよ!!!」


「でも肥前くん、何だかんだ嬉しそうだよ?」


「ちがっ、違ぇよ先生!ただあれだ、ジャムが美味いだけだわ!!」





そして時は過ぎてすっかりおやつ時になった頃。
裏庭では珊瑚が如何にも喜びそうな蜜柑色で統一された会場が出来上がっており、皆がそれはもう楽しそうに燭台切や歌仙達が焼いた石窯パンを蜜柑ジャムで頬張っている光景が広がっている。

その中でも一際幸せそうに蜜柑ジャムをたっぷりと付けたパンを頬張っている珊瑚は、隣で静かにジャムを控えめに付けて食べている大倶利伽羅にもう何度目か分からない「美味しい」を繰り返しているのだった。




「んーー美味しい……美味し過ぎる……!何個でも食べれちゃう!!今日だけはカロリー気にしなくていいやぁ…えへへ、あまりにも美味しい……!」


「それは良かったな」


「……あ、でもこんなに沢山食べちゃったらジャム無くなっちゃうかな?!1日で全部食べちゃうのは勿体ないよね?!えー、どうしよう……!!」




先程までもぐもぐとまるでリスのように幸せそうに食べていたというのに、急にジャムの残量の心配をし始めた珊瑚はまだ食べたい気持ちと数日は堪能したいという気持ちに挟まれてパンを口に運んでいた手を止めて大倶利伽羅に意見を求めるように視線を向ける。

そんな珊瑚の喜怒哀楽があまりにもコロコロと変わるのが少し面白かったのか、大倶利伽羅は微かに笑いながら「心配要らない」というように自分の分のジャムが入った瓶を珊瑚に手渡した。




「え!でもこれはくーくんの分の蜜柑ジャム…………って、あれ?これ……」


「……陸奥守の言っていたことだが、俺も書いたら何となく分かった。元々俺はそんなに使わないからな、あんたは気にせず俺の分も食うといい」


「!!くーくん……!!やだ、もう!!大好きっ!!大切に食べるね!!ありがとうっ!!」




大倶利伽羅が珊瑚に手渡したもの。
それは珊瑚が大倶利伽羅の瓶に書いた名前の下に、「珊瑚」と書かれたラベルシールも貼ってあった蜜柑ジャムの瓶だった。

それをきょとんとしながらも受け取り、名前とその理由を確認した珊瑚は目をキラキラとさせてお礼を言うと、何度も何度も嬉しそうにその「珊瑚」と書かれたラベルシールが貼ってある瓶を眺める。




「えへへ……くーくんが書いてくれたの嬉しいな……!綺麗な字だね!そういえば確か政宗公って手紙を書くのが好きだったんだっけ?」


「……そういえばそうだった気もするな」


「ふふ。だからくーくんも字が上手なのかもしれないね!」


「……まぁ、そういうことにしておく」




艶々とした蜜柑ジャムが、まるで彼ら……伊達組の皆がお揃いの金色の瞳のように見えて、何倍にもキラキラとして見えて。
これは綺麗過ぎて、それはもう大切に大切に使えるだろうと考えた珊瑚は再度大倶利伽羅にお礼を言って控えめに彼の肩に寄りかかる。

そんな珊瑚の幸せそうに目を伏せた表情を少し上から見つめ、バレないように柔らかく微笑んだ大倶利伽羅が思ったことは……さて、どんな事だろうか。





(ほーん?想いを込めちょれば、自然と字は綺麗に書けるもんやなぁ?……なっ!大倶利伽羅?)


(あんたは肥前の瓶を見てから言え)

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