意外な一面




ここはカイナシティ。
周りは海に囲まれ、博物館やビーチ、市場に船場、コンテスト会場…等と言ったホウエン地方の中でもかなり賑わっている街だ。

そんな街に降り立ったダイゴはエアームドの背中から先に降り、シアナへと手を差し伸べる。




「着いたね。さ、シアナちゃん、足元に気をつけて。」


「ありがとうございます。」



自分へと差し出された手をは笑顔で取ったシアナはエアームドの背中からゆっくり降りるとお礼を込めてその頭を優しく撫でた。



「ありがとうエアームド。重くなかった?」


「エア!」


平気!と言うようにエアームドは幸せそうにシアナに頬擦りをする。
ダイゴが海に落ちた一件もあってか、エアームドは随分とシアナに懐いたようだ。

しかしその後主人の視線を感じたのかすぐ慌てて離れて自らモンスターボールに戻る。



「全く、誰に似たんだか…………僕か。」


「?ダイゴさん?今、何か言いました?」


「え!?あ、あぁ!大丈夫!何でもないよ!えっとー…うん!それよりカフェに行こうか!」


「!行きますっ!!」



ぼそ、と呟くように言葉を発したダイゴの声は観光客や波の音で掻き消される。
思わず呟いてしまったが、どうやら彼女の耳には入らなかったようでダイゴ的には一安心だ。

その後の言葉にすぐ反応したシアナは一瞬で目を輝かせた。
それも頭の上にハートが何個も飛んでいるかのような満面の笑みで。

あぁ、本当に可愛い。




ダイゴはその笑みに癒されながらシアナをカフェまで案内する。
場所はビーチのすぐ側で一面にある大きな窓ガラスからはホウエン地方の海が一望できる。
また、防音になっている為、海水浴中の人達の声は聞こえないという気の利いた店だった。

どうやらテラス席もあるようで、何人かはテラス席に座って優雅に時を過ごしているよう。
店内はジャズ調の曲が流れ、アンティークな小物が至る所に置いてあった。




「うわぁ…!カイナシティにこんな素敵なカフェがあったんですね!」


「気に入ってもらえたかな?」


「はいっ!ダイゴさん、ありがとうございます!」




キラキラと瞳を輝かせて、これまた可愛らしい笑顔を見せてくれるシアナに、どうやら掴みはOKのようだとダイゴはホッと胸を撫で下ろす。

すぐに店員が案内をしてくれたので。シアナの希望で窓際のソファ席に座ることになった。
理由を聞くと、ソファの隅に座っているテディベアが可愛かったとのこと。
君の方が何倍も可愛いよ、と言いたいところだが生憎そんな勇気はダイゴにはまだない。




「今日は気にしないで好きなものを頼んでいいからね。」


「…え?私、自分で払いますよ?」


「え?」



何言ってるんですかとでも言いたいようなシアナのきょとん顏に、ダイゴはいやいや待って。それお詫びの意味がないからと焦ってシアナを説得しに掛かる。



「いや…!あのねシアナちゃん、今日はこの間のお礼で僕が奢る気でいたんだけど…!」


「え!?そんな!あれは当然のことをしたまでですし、可愛い花束も頂きましたもん!」


「あの花束はシアナちゃんを元気づけようと思ってプレゼントしたんだよ?」



それでも悪いです!とシアナは断り、たくさん食べたいから多めにお金は持ってきたんです!と財布の中身を見せる勢いだ。どうやら見た目に反して以外と頑固なところがあるらしい。

しかし、このままだとダイゴの気が治らない。
その前にまずこれでは今日彼女をここに連れてきた意味がない。



「それじゃぁ…僕からお願いがあるんだ」


「お願いですか?」


「うん。今日は、取り敢えず僕に奢らせて?それで今度、シアナちゃんのオススメの所に連れて行ってほしいな。…それでは駄目かい?」


「うーん…ダイゴさんがそこまで仰るなら…」



少し渋るものの。思考を巡らせて何とか彼女を説得出来たダイゴは我ながら良くやったと自分で自分を褒めたくなる、というかこれは褒めるべきだと心の中で自画自賛する。




「ふぅ。…ありがとう!」


「それは私の台詞ですよ!そしたら今度、とっておきの場所を教えますね!」


「それは楽しみだな。…じゃぁ、早速何を頼むか決めようか?」


「はい!」




その後、何でもないような他愛も無い話をしていれば、2人が頼んだメニューが丁寧に運ばれてきた。

シアナが頼んだものは可愛らしいピンク色のモンブランとアイスティー。
モンブランはローズエキスと桃が入ったものらしく、その上にバラの形のチョコレートが飾られているとてもお洒落なもの。

一方ダイゴが頼んだのは甘さが控えめのシンプルながらもこちらもお洒落なショートケーキとアイスコーヒーだ。




「かっ…!」


「シアナちゃん?」


「かわいい!かわいいです!」


自分の目の前に運ばれた桃のモンブランに、食べるのもったいない!でも美味しそう!と喜ぶシアナの姿に自然とダイゴも笑顔になる。

やっぱり君の方が可愛いよ、と。







「まぁまぁ、食べてみなよ。」


「うー…いただきますっ!」



ダイゴに言われたままにシアナは端の方をフォークで掬うとパクリ、と口の中に可愛らしい色のクリームを運ぶ。

その瞬間、余程好みの味だったのだろうか、ほんのりと桃色に染まった頬に片手を添えて幸せそうにもぐもぐと口を動かす。

何だろうかこの可愛い生き物は。
まるで天使だ。とダイゴはなんとか心の中だけでそんな言葉を盛大に叫ぶ。



「んー…っ!」


「っ…!!!こほん。シアナちゃん、どう?口に合ったかな?」


「ん。…はい!ダイゴさん、ありがとうございます!凄く美味しいです!」



その後も美味しそうに食べるシアナの姿を見ながら悶絶しそうになるものの、ダイゴも自分の頼んだケーキを食べる。
その甘さ控えめのクリームのお陰でどうにか平常心を保つことが出来たダイゴに、ふとシアナはこんな質問をした。





「あ。そういえば…ダイゴさんって普段どんな事をしてるんですか?」





聞かれてしまった。
言うつもりではいたが、やはり言い辛い。
もし引かれてしまったら?他の女性のように呆れられてしまったら?媚を売るようなことをされたら?

考えたくない。そんな事は考えたくもないが彼女ならもしかしたらと淡い期待を持っているダイゴにとって、その期待が崩れるのが何よりも怖かったりする。





「ダイゴさん?」


「えっと…」


「…ん?」






空のような澄んだ青い瞳をこちらに向けて首を傾げるシアナと目が合ってしまったダイゴは、もう言うしかない!とついに覚悟を決める。





「っ…あのね、シアナちゃん…僕は…!」





























「そうなんですよ!それでアスナに呆れられちゃって…」


「そ、それはまた…」


「どうしてもバトルしてるのにコンテストみたいになっちゃうんです…コータスのオーバーヒートにグレイシアのシャドーボール当てて紫の炎にしちゃったりとか…」




どうしたらバトルって出来るんですか?と悩みをダイゴに打ち明けるシアナは溜め息をつきながらアイスティーに手を伸ばす。



何故こんな話をしているのかと言えば、それはあの後ダイゴが自分がホウエンリーグのチャンピオンだと言うこと、そして石集めが趣味で居ようと思えばいつまでも洞窟に入り浸れるのだということを戸惑いながらも話したのだ。


するとなんとシアナは進化したがっていたモンメン(今はエルフーンだが)の為に自分で洞窟に行き、バシャーモとハッサムに手伝ってもらいながらも太陽の石を自力で探し当てたのだとか。
そしてバトルも一般並みには出来るようになりたいが無意識のうちにコンテスト紛いなことをしてしまうとか。

ミクリの言う通り、どうやらダイゴが悩む必要は皆無に等しかったようだ。




「ダイゴさん、少しで良いので…何かアドバイスとか頂けませんか…?」


「え?あ、あぁ!勿論!うーん…そうだな…」




どうやらシアナは令嬢達とは比べられない程、活発で裏表のない素直な心を持っているようだ。

そして甘いもの、可愛いものが好きで、それでいて頑固な面も持ち合わせている。
それを理解したダイゴは安堵と幸せを噛み締めながらひたすらシアナの悩みを聞き、お互いの洞窟での思い出話に花を咲かせるのだった。



ねぇシアナちゃん、この時の僕はね、本当に嬉しかったんだよ。
君が、裏表のない素直な気持ちで僕と向き合ってくれたこと。

偏見も媚もせずに、ツワブキ・ダイゴというただの1人の人間として接してくれたこと。








(君のこと、僕はもっと好きになってしまったみたいだ。)

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