大切な友人
僕は今ルネシティを訪れている。
何故かと言えば、それはここに滞在している昔馴染みのミクリにシアナちゃんのことを相談する為。
自分が女性に一目惚れした、なんて言ったら彼はどんな反応をするだろう。
「き、君が、女性に一目惚れ?!」
なんてことだ!と、やはり盛大に驚かれた。
いつも苛つく程優雅にしている彼も今回ばかりは相当驚いたのだろう、手に持っているティーカップがカタカタと音を鳴らしている。
「僕だって驚いてるんだ。今までも整った顔立ちの女性には数える程だけど会ったことはあるし。でも正直それ以上なんだよ、彼女は」
まぁその女性達も結局は僕の地位が好きみたいだったけどね。
そんな嫌味を返してしまえば、目の前にいる自分の友人は困ったように笑ってしまう。
「…なら、その女性は相当素敵な女性なんだろうね。でもその彼女も君がこの地方のチャンピオンでデボンの御曹司なことは知っているのだろう?」
「いや…名前しか伝えてない。反応が怖くてさ…」
「…それにしても、名前と君のエアームドを見てるなら、気づいても可笑しくはないだろう?」
…確かに僕は鋼タイプのポケモンが好きだし、
挑戦しにくる人達もやはり炎タイプのポケモンを連れてくることが多い。
自惚れる訳ではないが、やはり気づいても可笑しくはないのだろうか?
「んー…その子、ミナモから少し離れた孤島に住んでたんだよね。」
「孤島…?待てダイゴ。その女性の名前は?」
シアナちゃん。
そう言うとミクリはそういうことか!と1人で納得していた。
この様子からして、彼はシアナちゃんと知り合いなのだろうか?
「ミクリ、シアナちゃんを知ってるの?」
「いや君、知ってるも何も有名なコンテストマスターだよ!彼女はコンテスト以外は興味を示さないからね。君に気づかなくても可笑しくない。それに私の大切な友人であり、ライバルでもあるのさ!あぁ…何て偶然なのだろう!まさにディスティニー!!」
素晴らしいね!といつの間にか両手を広げて高らかに自分に酔っているミクリはさておき。
コンテストマスター…そうか。通りであのグレイシアも綺麗な毛並みをしていたわけだと1人で納得をする。
「君は洞窟かリーグにいるかのどちらかだしね。コンテストは見たことないだろう?」
「興味がないわけではないけど、折角時間があるなら…」
「洞窟に行きたいと。…君って人は本当に…」
僕の返答に、はぁ…と呆れたように溜め息をつくミクリ。なんて失礼なのか。折角この間シンオウで掘ってきたばかりの新鮮な水の石をあげたというのに。
「それで、お茶に誘ったわけだね?」
「あぁ。快く了承してくれたんだけど、良く考えたらまず何を話したらいいかも分からなくてさ…」
「君の趣味の話でもしたらどうだい?」
趣味とは石集めのことだろうか、それはダメだ。
親父の無理矢理な提案で形だけとはいえ仕方なくお見合いした相手にその話をしたら呆れた顔をして帰って行ったことがある。
「シアナちゃんなら大丈夫な筈だよ。あの子は本当に優しい子だからね」
「………まぁ、そこまで言うなら考えてみるよ。」
「はは、そう睨んでくれるな。」
無意識にミクリを睨んでいたようだ。
いけない、男の嫉妬は醜い。
ミクリに嫉妬しても仕方ないじゃないか
これから仲良くなっていけばいいのだから。
「ただね…1つ、忠告したいことがある。…いや、2つかな」
「なんだい?」
「まず、シアナちゃんは相当な鈍感だ。少し前だが…」
ある日、シアナがコンテストに出場して案の定優勝した時のこと。
ミクリとシアナが恋人だと噂が流れていたことがあり、当時のマスコミが興味深々に取材をしたことがあった。
「ミクリさんですか?はい!好きですよ!」
マスコミに対したシアナのその一言で静まり帰る会場。
その時はミクリも会場にいたため、本人も驚きを隠せないでいたのだが、その後詳細を求めたマスコミ達にシアナは眩しい笑顔でこう答えのだ。
「この前ミロカロスについて語ったんですけど、その時に素敵な青いポロックを頂いたんです!本当に大好きな友人です!」
「…え?」
「…と、いうくらい鈍感だからね。」
「……」
空いた口が塞がらないとはこの事か。
遠い目をしながら話すミクリに少し同情をしていまいそうになるほどには哀れだ。
話を聞く限り、これは普通にアピールしても効果はない…のかもしれない。
「それともう1つ。これも厄介だ」
「……今度はなんだい?」
彼女のバシャーモには気をつけなさい。
ヘタをすると強烈なブレイズキックが飛んでくる。
その言葉に、僕は顔が真っ青になった。
BACK