空の上で
「ご、ごめん!本当に申し訳ない!」
「だ、だからダイゴさんもエアームドも悪くないんですってば!」
「だって!跡が残ったらっ!」
「そんなの気にしなくていいですよ!」
「気にするよ!」
気にしないで欲しいと言っても、それでも何度も謝罪をし続けるダイゴにシアナは困った顔をする。
終わりの見えないこんなやり取りをするようになったのはほんの少し前のこと。
作ってもらったスープを飲み終わり、洗濯してくれたらしい自分の服に着替えてリビングに戻ったダイゴはそろそろ帰らないと迷惑になるだろうと口を開きかけたが、グレイシアがシアナの手の甲をぺろぺろと舐めていた為に一度その思考を止める。
「?シアナちゃん、その手はどうしたの?」
近づいて良く見ると、その白く華奢な手の甲に刺したような傷があることに気づいたダイゴが心配そうに訪ねると、シアナの肩が何故がビクッと跳ねる。
「ほ、包丁で切っちゃいまして!」
「…手の甲を?」
「そ、そうですよ…?」
「……これ、切ったんじゃなくて、刺し傷のように見えるけど…?」
シアナの答えにダイゴがそう返すと、あはは…と乾いた笑みを浮かべながらシアナの目が泳ぎ始める。
何か隠しているな、とダイゴが考えていると、そろり…と近づいて来たエアームドが気まずそうにダイゴを見た。
「…エアームド…?」
「………。」
「……………まさか……?!」
「エアッ!!」
ダイゴがまさか…!と顔を青く染め始めた瞬間、エアームドはごめんなさいっ!!と素早くシアナに向かって頭を下げた。
それはつまり、もしかして彼女のこの刺したような傷は、エアームドのクチバシで出来たものだと言っているのだろう。
それを理解したダイゴはバッ!とシアナの方を慌てて振り向き、勢い良く頭を下げる。
「シアナちゃん!!!ご、ごめん!!本当に申し訳ないっ!!」
…と、言うことがあり、どうやらシアナが言うにはエアームドは主人であるダイゴを必死に守ろうとして思わず近づいてきたシアナを敵だと勘違いをして攻撃をしてしまったらしい。
大丈夫です、気にしなくていいですから、と何度言ってもそれでもと未だに謝罪を繰り返すダイゴにシアナはそれなら…とある提案をする。
「うーん…そこまで仰るなら、お願いが1つ…」
「お願い?いいよ!何でも言ってごらん?!」
「ふふ。エアームドのこと、怒らないであげてください。」
…なんて優しいんだこの子は。
でもそれでは自分の気が治らない。
勿論、シアナの言う通りダイゴも心配をしてくれたエアームドのことは怒らないつもりでいたが、それにしたって優しすぎるだろう。
ましてや自分は今から家に帰るのだ。
下手をすると彼女ともう会うことは無いのかもしれない。落ち着け…兎に角考えるんだ。こういう時、あのミクリならどうする。
こういう事に慣れていそうな友人のミクリを思い出し、必死に考えたダイゴの脳に、1つ浮かんだ物がキラリと光った時、これだ!とダイゴは口を開く。
「あの…シアナちゃん!!」
「はい?」
「今日のお詫びに、今度お茶を一緒に…どうかな?僕の昔からの友人が絶賛していたカフェがあって、彼が言うにはケーキがとても美味しいらしいんだけど…!」
これならポケナビの番号も聞けるし、また会えるしお礼も出来る。
因みに昔からの友人というのは紛れでもないミクリの事だ。カフェの話、だなんて実は聞いていないのだが、聞けば良い場所を教えてくれるだろう。
うん、だからそれは問題ない。
我ながら良く頑張ったと心の中で自画自賛するダイゴに、シアナはパァ…!とキラキラに輝かせた瞳を向ける。あぁなんて可愛いのだろう。
「い、いいんですか…!?」
「勿論!君さえ良ければ!」
「はい!是非!ふふ。楽しみにしてますね!…あ、そしたら私の連絡先は…」
楽しみにしてますと暖かい笑顔を向けられたダイゴは思わず嬉しさと彼女の可愛らしさに頬を染める。
どうやら彼女は甘いものが好きだったようだ、自分はなんて良い案を閃いたのだろう。
今日の自分は冴えている。
「本当に何もかもありがとう!」
「いえいえ!無事で良かったです!」
その後、ダイゴはシアナと連絡先を交換すると改めてお礼を伝えて軽い身のこなしでエアームドの背に飛び乗るとエアームドと共に外まで見送りに来てくれたシアナに軽く手を挙げた。
「そしたら、近いうちに連絡するね。」
「はい!気をつけて下さいね。」
そう言って、こちらが見えなくなるまでグレイシアと共に手を振っていてくれたシアナの行動に嬉しくなったダイゴは誰も見ていないのをいい事に、1人空の上で頬を染めて盛大に表情を緩める。
取り敢えず、明日はミクリの所に行こう。
この間発掘したばかりの水の石を持って。
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