我慢弱さ
「なるほどね…」
「私は1人で大丈夫って話はしたんだけど、お父さんが駄目だって。」
あの後とりあえず家に帰ろうとシアナの家に行き、隣同士でソファに座って話を聞いたダイゴ。
家を売る理由としては、まず場所。
ミナモまでそこまで遠くはないが、この広い海にぽつんとある家に娘が住んでいることが心配でならないらしい。
まず何故こんな所に建てたんですかお父さん、と聞きたくなってシアナに聞いてみると、どうやら彼女の母親が海が好きだったらしく…
それなら360度海が見えたら最高じゃないか!?
まぁ!素敵ね!そうしましょう!
との理由でそこまで深く考えずに建ててしまったらしい。
「す…凄い両親だね…」
「私もそう思う…」
理由が理由だけにそれをダイゴに話したのが恥ずかしかったシアナは誤魔化すようにアイスティーを飲んだ。
冷たい物が火照った顔に丁度いい。
「その他にも理由はあるの?」
「後は私にあまり1人暮らしをして欲しくないからアスナの所かマグマ団のアジトに住むか…って言われて。」
「は?」
待て待て待て。アスナは分かるが何故そこでマグマ団が出てくるんだ。改心したからと言ってマツブサと同じ屋根の下で暮らすなんて父親が許しても僕が許さない。
今からメタグロスを連れてアジトに乗り込んでやろうかと少し本気でダイゴが考えていると、そう言えばとシアナが口を開いた。
「この話はきちんとダイゴくんに話しておくように」
「え?」
「…って、お父さんが言ってたんだけど、」
何でだろ?と斜め上を見上げて首を傾げるシアナは父親の本当の狙いを本気で分かっていないのだろう。
というか、まず家を売る売らないに関わらずシアナさえ良ければ今まで通り一緒に住む気でいたのだが。
「…あのねシアナ、僕は初めからそのつもりだったんだけど、これからもシアナには僕と一緒に暮らして欲しいと思ってる」
「…え?本当に…?」
「うん。どうかな?」
「…思ってたこと言ってもいい?」
そう言って俯いていた体制からダイゴに視線を向けるため、上を見上げたシアナは当然上目遣いになっている。
あまりの可愛いさに一瞬理性が無くなりそうになるダイゴは、いや今はダメだとグッと堪えた。
「いいよ?シアナが思ってたこと言ってみて?」
「その、私ね?ずっとダイゴは私のこと妹みたいに思ってるから恋人にはなれないって振られそうだなーって勝手に勘違いしちゃってて」
「そんな勘違いしてたのか…ごめん、不安にさせてたね…」
申し訳なくなったダイゴがシアナの頭をよしよしと撫でると少しくすぐったそうに体を縮こませる可愛らしい姿にまたダイゴは自分に言い聞かせるようにグッと堪えた。
「ふふ、それはもう大丈夫だよ?ただ、その時はそう思ってて自信が無かったから…今回の事が解決したのは嬉しかったし皆に感謝もしたんだけど、ね、」
「うん…」
「その、そしたらダイゴとはサヨナラしてまた1人暮らしするってことかなーって…」
「…」
「思ってたから、その…1人で勝手に寂しくなってました…」
「……」
「あ、あれ?ダイゴ…聞いてる?」
話をしている。いやどちらかと言えば勝手に話だしたのは自分なのだけど、何か気に触ることをしてしまったかと不安になったシアナは恐る恐るダイゴの顔を覗いてみたが、その顔は驚く程に無表情だった。
「え?だ、ダイ…」
「ごめんもう無理」
「へ?…きゃあ!?」
何が無理なんだと思った瞬間ガバッと勢いよく抱き締められたシアナは受け止めきれずに後ろに倒れてしまった。
「あ、あの、ダイゴ?」
「あーもう本当に無理。可愛すぎて。」
「え、ちょ、いきなり何を言っ…んむ!?」
突然降ってきたキスの雨に為す術もないシアナはバクバクとうるさく暴れる心臓を抑えることが出来なかった。
あまりの心臓のうるささと恥ずかしさとで頭が真っ白になるが、自分の上には勿論ダイゴ、下はソファなので逃げ場など何処にもない。
「ダイ…ちょ、んん…!」
「んー…まだ…ん、だめ」
「え…ちょっ、まっ…んむ」
(だ、誰か助けてーーーーー!!)
「はい、僕が居るので何も心配ありませんから。」
「…」
「え?…あぁ、だと思いましたよ。言われなくてもそのつもりでしたけどね、僕は」
あの後なんと30分もあの状態だったシアナは恥ずかしさで上手く呼吸が出来ず、ソファでクッションを枕代わりにうつ伏せに寝転んでいた。
好きなだけキスをしたダイゴは満足したのかケロッとした顔でシアナの父と通話をしている。
その前にいつの間に番号を交換していたのか。
「はい、ではそういう事なので。」
ピ、と通話を終了した電子音が鳴ったのでダイゴをチラッと見てみると、とっても満足そうなダイゴがすぐ目の前にいた。
「お父さんがシアナをよろしくって。」
「…あ、はい…!」
「…ごめん、ちょっと歯止めが効かなくて。」
やり過ぎちゃったね、と顔を赤く染めて謝るダイゴにシアナはハッと起き上がる。
「あ、いや!謝る必要はなくて!わ、私!頑張るから大丈夫!」
「…嫌では、ない?」
「だって、恋人…なんだし!」
「恋人だからって無理に合わせなくてもいい事はあると思うよ?」
我慢出来なかった自分がどの口で言うんだと我ながら思うダイゴだが、シアナがもし嫌がるならばと問いかけた。
「ううん、頑張って慣れるようにする…」
「もー、シアナは頑固だから…」
「違う!だ、だって…ね?」
「だって?」
「だって、確かに恥ずかしいけど、私も…」
「…」
「き、キスしてくれてる時、凄く幸せだから、頑張って慣れたら、もっとしてくれる…でしょ?」
「うん。さて練習しようか」
「え!?ちょっと待っ…んーー!」
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