不安の先にあるものは
次の日の朝、皆はそれぞれ帰るべき場所に帰っていった。
シアナは家にある荷物を幾つか持って行きたいとの父の頼みを聞き、親子仲良くチルタリスに乗って自宅へと飛んでいった。
それを見送ったダイゴは今、頼んでいた物を取りにデボンコーポレーションの社長室に居る。
「何故私に何も言ってくれなかったんだ、ダイゴ」
「いや、忙しくて…それより頼んだ物…」
「知っていればお前への見合いの話なんか断ってシアナさんに挨拶に!」
「だから付き合っている訳じゃ…!」
これでこの話は何度目だろうか。
昨日約束した通り、シアナの予定が終わり次第、会う約束をしているダイゴはこの日のために頼んでいた物を会社へと取りに来たのだが、いくら話を遮っても父が興奮して手が付けられない状態だった。
「大体あれを渡す相手がシアナさんとは何事だっ!いつ知り合ったんだ!」
「いや、まさか親父がコンテストに詳しくてシアナのファンだなんて知らなかったしさ…!」
何とか落ち着かせようと宥めてみるが全く効果がない。
どうしたものかと考えていると、ポケットから振動が伝わってきた。ポケットからポケナビを出すと、そこには大切な人の名前が表示されていた。
「あ、シアナからだ。」
「何っ!?」
早く出なさい!と鼻息を荒くする父に呆れながらも通話ボタンを押す。
「あ、ダイゴ?今お父さんが帰っていったところなんだけど…」
「そっか、お疲れ様。えっと…どうする?もう会いに行っても大丈夫?」
「うん、もう私は1人で家に居るから、いつ来てくれても大丈夫」
ダイゴの好きな時に来てと言う彼女に今すぐにでも行きたい衝動に駆られる。
なるべくすぐに行くと伝えて通話を切って、会いに行けない原因の父親を見れば、感動しているのか目をキラキラと輝かせている。ものすごく嬉しそうだ。
「本当にシアナさんだったな!あの声は!」
「だからそう言って…」
「これを告白する時に渡すんだろう!何をグズグズしているんだ!早く行かないか!」
グイッ!と差し出された小箱を受け取り、誰のせいだと言い返したかったが一刻も早く会いに行きたい気持ちの方が強かったダイゴは行儀が悪いのを承知で社長室の窓からエアームドに乗り、颯爽と空を飛んでいった。
「何処もおかしくないよね?大丈夫だよね?」
何度見ても変わらないものは変わらないのだが、何かしていないと落ち着かないシアナはダイゴと通話した後、ずっと鏡の中の自分と睨めっこをしていた。
「ちょっとー!何で皆出てきてくれないの?!」
そしてダイゴとの通話が終わってから気を利かせているのか何なのかボールから出てこないポケモン達にもう何度目か分からない助けを求める。
「あーもうダメ…エルフーンまで出てこないし…」
これは1人でダイゴとちゃんと話をしろと言うことかと自分を奮い立たせて立ち上がった瞬間、エアームドの声がすぐ家の目の前で聞こえてしまった。
そして直ぐになる玄関のチャイムに、もう成るように成れ!とシアナはドアを開ける。
「やぁ。シアナ。」
「い、いらっしゃいダイゴ…」
「うん?どうかした?」
会えて嬉しいが、これからどんな話をするのかと緊張してまともにダイゴの顔を見れずにいるシアナに違和感を持ったのか、軽くしゃがんで顔を覗いてくるダイゴにシアナは驚いて小さく悲鳴をあげてしまった。
「ど、どうしたの?」
「あ!えーと!ごめんなさい何でもないで…じゃない、何でもないの!」
「…そう?それなら良いけど…えっと、シアナ良かったらこのまま浜辺に散歩しに行かない?」
駄目かな?と手を差し伸べて言うダイゴに断る理由もないシアナはその手を取った。
暫く歩いている間にシアナは1人、
アスナも応援してくれたし!
ダイゴもいつも通りだし!
自分の伝えたい気持ちを伝えよう!
頑張るって決めたんだから!!
と自分に言い聞かせていた。
…言い聞かせていたのだが、どうしたものか今度はダイゴが全く話しかけてくる気配がない。
「…あの、ダイゴ?」
「うぇ!?あ、ごめん!何?」
「えっと、さっきから黙ってるからどうしたのかなって…」
もしかして体調が良くないんじゃないかと心配になったが、どうやら違うらしい。
ダイゴは慌てて咳払いをして少し座ろうか!と2人で座るのに丁度良さそうな日陰を見つけて先に座り、シアナも自分の隣に座るようにと地面をポンポンと叩いた。
「おいで?シアナ。」
「うん…。」
シアナが隣に座ると同時にダイゴは空へ向かって大きく深呼吸を1つすると、不安そうな顔をしているシアナの正面を向いた。
「シアナ、もし僕のことで不安な気持ちにさせてたらごめん…でもどうしても、シアナが背負っている物を片付けてから伝えたかった。」
「…それって、昨日聞いたことと関係あること?」
「そうだね、今から言う言葉がその答えになると思う。」
聞いてくれる?と優しく、でもとても真剣に聞いてくるダイゴの表情が今までで見たどの表情よりもカッコよく見えたシアナは、不安になりつつも静かにしっかり頷きダイゴの目を見つめた。
「…好きだよ、シアナ」
(やっと、伝えられた。)
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