親友の願い
「もーいつまで笑ってるのアスナ!」
シアナは今夜自分が寝る部屋のベッドに座り、枕を抱き締めながら目の前でお腹を抱えて大爆笑している親友に少し呆れていた。
「いや、だって!あのダイゴさんが…くくくっ」
あの後、崩れ落ちたダイゴを目の前にして訳が分からずオロオロしていたシアナは父から事情を聞き、心配を掛けたであろうダイゴに何度も謝ったのだ。
「いやーでも流石娘だね!考えてる事はお見通し?」
「うーん…お父さんならきっとそうするだろうなと思ってたからね。」
実は本当ならあのテラスでマツブサからその話をシアナに説明して、了承をもらってからにしようと話し合っていたらしいが、シアナからその話が出たために急遽予定を変更してあのタイミングで演技をしたらしい。
「でもダイゴ、嫌な思いしなかったかな…私のことで巻き込んじゃった上に勘違いしたお父さんとマツブサさんに騙されて。」
「別に嫌とかではないんじゃないの?どっちかと言うと何事も無くて安心して脱力した感じじゃない?あれは。」
と言うか焦らされてるこっちの身にもなれよと心の中で思うアスナだが、それは言わずに我慢する。
本当は今すぐ言ってやりたいところなのだけど。
「てか!あんたいつの間にダイゴさんのことを呼び捨てで呼ぶようになったの?敬語も外してるし。」
そういえばダイゴさんも呼び捨てで呼んでなかった?と聞くと目の前のベッドに座っている親友は枕をぎゅっと抱き締め恥ずかしそうに顔を隠した。
「だ、だって、私が呼び捨てで呼んで下さいって言ったら、なら自分にもそうしてくれって…」
「ふーーーん?へぇーー?そうなんだぁーー?」
「や、やめてよ恥ずかしいから!…でも、最初は嬉しかったんだけど、その…」
どう考えても進展しているだろう話なのに何か不安そうなシアナの顔を見てアスナは不安があるなら吐き出せと促す。
「ん…多分だけど、きっとダイゴは私のこと妹みたいに思ってるんじゃないかなって」
「は?待って、何でそんな考えになるの?」
意味が分からない!とアスナが身を乗り出すと何でそんなに驚くのか分からないシアナはたじろいだ。
何故そんなに自分のことを気にしてくれるのかと勇気を振り絞り聞いたら、彼はとても困った顔をしていたらしく、それを気にしているらしい。
「あーーつまり、「妹みたいな存在だから、君の気持ちには答えられないよ」的な想像したわけね?」
「うん…そういう考えなら呼び捨ても敬語を外してくれって言うことも納得がいくし。」
あーこれは勝手に良くない方向に向かっているぞと考えたアスナは焦る。
しかしダイゴさんはあんたの事が好きなんだよとも言えないので、どうしたものかと頭を抱えた。
「えーーっと、あ!で、でもさ?妹だと思ってる人を抱き締めたり額にキスしたりなんてするか?」
「え?しないの?この間観たドラマでそんな感じのシーンあったよ?」
なんてタイミングで流れるんだよ!この子天然で流されやすいんだから止めてよ!と何も悪くないドラマに殺意を抱いたアスナはとうとう抱えていた頭を思いっきり掻き毟った。
「あーもう!兎に角!明日ゆっくり話そうって言われたんでしょ!?」
その時に言いたいこと言えばいいでしょうが!!と言いながらビシッ!とものすごい勢いで指を指されたシアナはその迫力に呆気に取られてしまった。
と言うか何故アスナがこんなにムシャクシャしているのか…全く訳が分からない様子。
「い、言われたけど…!というかなんでアスナがそんなに荒れてるの?」
「そりゃするわ!!大体ね!あんたはもっと自信を持つべきだわ!こーんな可愛いのにさ!」
「じ、自信なんて無理だよ!しかもあんなにカッコイイ人が相手じゃ…」
ていうか可愛くないし!と顔を真っ赤にして両手をブンブンと振り否定するシアナだが、アスナは何でこんなにも自分に自信を持たないのか不思議でならない。
まぁ確かに昔から自分に自信が持てない子だった気がするが、ダイゴに恋をして余計に不安が大きくなってしまったのだろう。
勿論その分前よりも良く笑うようになったし、いい面も沢山増えたのだが。
「あーはいはい惚気は結構です」
「も、もー!からかわないでよーっ!」
「あははははっ!んー、そうだな。あたしから1つだけ言うとすれば…」
「言うとすれば?」
シアナが何かアドバイスが貰えるのかと藁にもすがる思いでアスナを見れば、彼女はゆっくりとこちらに近づき、優しく抱き締めてくれた。
「あんたはもう大丈夫。随分と強くなったよ。良く頑張ったね…そんなあんたが幸せになれないわけないだろ?」
「う…アス、アスナ…っ!アスナぁぁ…!」
「あーもー泣かない泣かない!あんたなら絶対大丈夫だって!だから自信持ちなさいって言ったんだよ?」
シアナは自分を思って優しく言ってくれた親友の言葉に安心したのか今まで溜まっていた感情が一気に溢れてしまったようだ。
「うん、このままもうちょっと、頑張ってみる…!」
「そうそう!その意気!あんたなら絶対大丈夫、親友のあたしが言ってんだから間違いない!」
「ん、ありがとアスナ…!大好き…」
もー恥ずかしいなぁと照れていることを隠すようにアスナがシアナの頭をワシャワシャと撫でると
元気が出たのか泣きながら笑い出すシアナを見て、アスナも釣られて笑い出す。
シアナの話を聞く限り、きっとダイゴさんは明日気持ちを伝える気なのだろう。
明日の夜には幸せそうな笑顔で報告してくるんだろうと確信したアスナは心の中で強く親友の幸せを願っていた。
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