目の前の光景は嘘か誠か





あれから、通信でシアナの父とマツブサの指示でグラードンの背中に飛びつき、そのまま共に奥に進んだらしいユウキはそれから何の音沙汰もない。

その後の通信も奥に進んだのが原因なのか上手く繋がらないらしく、シアナの父が必死に何やら機械を操作してユウキに繋げようと試行錯誤を繰り返している。

シアナもそんな父の隣で指示される部品を潜水艦から運んだり戻したりと忙しそうに手伝いをしているようだ。
最初はシアナだけでは大変だろうからと手伝いを買って出たダイゴだったのだが、シアナ達親子からせめてこれくらいはこちらでやらせてくれとの言葉で渋々ながらもそれを了承した。





「…ミクリ、もうあれからどのくらい経った?」


「少なくとも、半刻程は経っている筈だな…」


「っ…そうか…」



シアナ達を横目に、ダイゴとミクリは目覚めの祠の入り口を見つめるがやはり扉は未だに開かない。

そして少し離れた所では、マツブサと、ユウキが祠に向かってからすぐに到着したアクア団のリーダー、アオギリが何やら話をしている。

微かに聞こえる内容によると、どうやら和解の話し合いをしているようだ。





「ダイゴ、一つだけ言わせて欲しいんだ」


「?なんだい、そんな改まって…」


「いや。君が今までしてきた行動、そして思考、そして信念。その全てを私は信じているよ。」


「ミクリ…」



ミクリはそう言うと目覚めの祠のすぐ側にいるシアナ達をそっと指差すと呆気に取られているダイゴを見ながら得意気にまた口を開く。



「見たまえ。君は想いを寄せている人と、その父親を救い、そして今度はこの世界の命運を、君はあの少年に託した。」


「ユウキくん…か…」


「あぁ。大丈夫さ。君が選んだ選択は正しかった。少なくとも私はそう信じている。」



ミクリはそう言うと、ダイゴの肩をそっと叩く。
その顔は自信に満ち、そして本当に安心しているかのように微笑んでいる。
そんなミクリの言葉に、何処か胸の棘が取れたらしいダイゴは目を伏せると素直に礼を述べた。



「!…ありがとう…ミクリ」


「礼を言われることは何もしていないよ。ただ…」


「ん?」


「もう一つ、やることがあるんじゃないのかい?全く君ときたら…一体いつになったらシアナちゃんに告は」


「わ、分かってるよ!僕にだってタイミングってものがあるんだっ!」


「ほう…成程。つまり、この事が完璧に解決したら君はシアナちゃんにとうとう自分の気持ちを打ち明」


「ミクリっ!!」





黙ってくれ!と顔を真っ赤に染めて声を張り上げるダイゴにミクリは以前の君とは似ても似つかないと珍しく腹を抱えて笑う。

2人がそんな話を始めた中、それを遠くから見ていたシアナは会話は聞こえないものの、顔が真っ赤なダイゴとそれをこれでもかと笑って見ているミクリを不思議そうに首を傾げて見ていた。

そんなシアナの隣からクスッと笑う声が聞こえる。




「シアナ、そんなに彼が気になるのか?さっきからずっと見つめて…あの少年が帰ってきたら是非彼をお父さんに紹介してほしいな」


「え、え?嘘…。あ!う、うんっ!!」



え、そんなに見てた?嘘。
そう顔を赤く染め、あたふたしながらも父のお願いを快く了承しシアナはダイゴをもう一度見つめると、やはり途端に優しい眼差しで微笑みだす。

その顔は今は亡き彼女と母親と瓜二つだった。

余程、シアナにとって彼は大事な人なんだろう。
そう確信した父は嬉しそうに微笑むと、瞳の奥の痛みに襲われて思わず一度目を伏せる。



「私の知らないところで、お前はこんな立派に成長していたんだな…」


「…お父さん…あのね、それは違うよ。私には、アスナやアスナのご両親、ミクリさんにダイゴさん。それから、ずっと側にいてくれた…大切な…」


「ん?大切な…?」



シアナの父がその続きを聞こうとしたと同時に、まるでそれを遮るかのような激しい揺れがホウエン地方全体に襲いかかる。



「なんだ…っ?!この地震は!最初の物とは比べ物にならないぞ?!」


「っ…皆!何かに捕まるんだ!」



激しい地震の中、ダイゴ達が何かに捕まれと周囲に声を張り上げる。
中々止まない地震はルネの街にある住宅の塀を崩し、ジムの銅像までも崩れそうな勢いだ。

まともに立っていられない揺れの中、地面に座り込んでいるシアナは咄嗟に父の白衣に手を伸ばす。
そんな娘の手をしっかりと握り、守るように抱き締めた父は一瞬だけ繋がったユウキとの通信から聞こえたよっしゃー!との声に目を見開く。










「や、止んだ…か?」


「っ…シアナちゃん!無事かい!?」



それから暫くして、やっと地震が止んだと同時に真っ先にダイゴはシアナ達に声を掛けて無事を確認するが、どうやら2人共特に何の怪我もないようでダイゴはホッと胸を撫で下ろす。




「だ、大丈夫ですよー!」


「そうか!よか…」



シアナの返答に安心し、駆け寄ろうとしたダイゴは目の前の何かを確認するとつい足を止め、大きくその目を見開く。




ガラ…





足を止めて目を見開いたダイゴの視界には、シアナ達の頭上に先程の大きな地震で崩れたらしい巨大な岩が音を立てて落下する光景が広がっていたから。




「っシアナちゃん!!博士!!」


「え…?」



ダイゴの必死の声に、シアナ達が上を見上げると同時に、その岩は容赦なく大きな音を立てて落下する。


瞬間、スッ…とダイゴの瞳から光が失われる。




「……シアナ…ちゃん…?」




震える唇で紡ぎ出された言葉への返事は、




…無い。





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