自分に出来ること




「そんなことになっていたのか…」


「あぁ、ユウキくんが間に合えばいいんだけど…」


ルネシティについたダイゴとシアナは急いでミクリの元へ行き、状況を説明していた。
どうやらミクリも海底洞窟からの光を見たらしく、もしかしたらと考えていたらしい。



「それにしてもシアナちゃん、何故私に相談をしてくれなかったんだい?」


「ミクリさんに迷惑は掛けられませんし…」


「私は君を大事なライバルで友人だと思っているんだ。迷惑だなんて思わないさ」


「ミクリさん…」



ミクリは優しく微笑むと、とても辛かっただろう?とシアナの頭をポンと叩いた。
そんなミクリの言葉が嬉しかったシアナは自分は良い友人に恵まれたなと思わず微笑む。

だが心配をかけてしまったようで少し罪悪感を感じていると隣から不機嫌そうな咳払いが聞こえてきた。



「んっんん!ん。…で、話を進めてもいいかい?」


「まぁまぁダイゴ、そう怒るな。せっかくの整った顔立ちが台無しだ」


「え、ダイゴさん?私何かしました?」


わざとらしい咳払いをして、明らかに不機嫌そうなダイゴの行動を不振に思ったシアナが慌ててそう聞くものの。そんなシアナに本人の返答よりも先にミクリが気にするなと答える。



「この御曹司は嫉妬をしているだけだから、安心して構わないよ。」


「な…っ!ミクリ!」


「あ、ご、ごめんなさい!ダイゴさんはミクリさんと仲良しですもんね!」


「「…え?」」



でも別にダイゴさんからミクリさんを取ろうなんて思ってないですよ!?と慌てるシアナを見たダイゴとミクリは呆気に取られ、思わずえ?と声を揃えてしまう。




「流石に今のは…その、気づいてもいいだろうシアナちゃん…」


「え?何がですか?」


「…うん。ミクリ、僕なら大丈夫だから」


「大丈夫そうに見えないが…」



流石にからかったミクリもダイゴに対してお前も大変なんだなと同情していると、窓から眩しい光が一瞬で入ってくる。

その光景に驚いた3人が弾かれるように外に出るとそこはまるで真夏…いや、どう考えても異常気象の日差しが猛威を奮っていた。




「これは…まさか、本当にグラードンが…!」


「っ…ごめん!僕は急いでユウキくんの所に向かうから!ミクリ、シアナちゃんを頼んだ!」


「御曹司様の仰せの通りに。」


「え、ダイゴさん!?」


「シアナちゃん、君はここで街の人達の手助けをしてくれ!すぐ戻るから!」



ホウエンのチャンピオンとしてこの地方を守るためにも、想い人であるシアナの為にも、ダイゴは少しでも多くの情報を得たいのだろう。

それに心配な彼女も昔から知っているミクリと一緒なら安心出来ると考えたダイゴは素早くエアームドに乗ると、猛スピードでユウキが居るだろう海底洞窟へと飛び立ってしまった。





「…さて、取り敢えず君も不安だろうけど、今は街の人達の様子を見て回ろう。」


「はい…そうですね、私に出来ることをしなくちゃ!」


「よし、流石シアナちゃんだ。それとも、ダイゴが居ない寂しいさを紛らわしているのかな?」


「…へ?」


「はは。半分冗談だったんだが、まぁ見ていれば分かるよ。君が以前よりももっと素敵な女性になっていたからね!正直驚いたよ。」




女性は恋をすると綺麗になるからね!まるで水のイリュージョンのように!なんて美しい!グロリアス!と何かスイッチが入ってしまったらしいミクリは両手を広げると高らかに笑う。





「も、もう!ミクリさん!からかわないで下さいっ!」


「ははは、すまなかった。しかし、それにしてもこの日差しは…恐ろしいな…」


「…古代ポケモンって、こんなにも凄い力を持っているんですね…太陽は生きていく為に必要なものなのに、凄く不安になるなんて…」



空を見上げ、お父さんはこんな大変なことに巻き込まれていたんですね、と悔しそうに呟くシアナにミクリは大丈夫だと声をかける。



「君にはアスナも、そしてあのダイゴもついている。勿論、私もね。それに…以前と比べて君は強くなったと思うよ、心がね。」


「心、ですか?」


「あぁ。以前の君は、正直…壊れてしまいそうな儚げな感じがしていたのだが、あの雰囲気は君の寂しさから来ていたのかもしれないね。」


「……私、前よりも自分が少し好きになれたんです。それもこれも、ダイゴさんのお陰なんですけどね。」


「そうか…あの御曹司が羨ましいな。こんな素敵な女性に想われているのだから。」


「も、もうミクリさん!…あれ?」



コンテストマスターの2人がそんな話をしながら辺りを見回していると、シアナのポケナビが着信を知らせる音が鳴り出した。

その名前を確認したシアナがすぐに電話に出ると、そこには慌てている様子のアスナと、その後ろに氷枕や水ポケモンを連れたトレーナー達が走り回っている映像が映る。



「シアナ!?あんた無事!?」


「う、うん!私は大丈夫だよ!そっちは?」


「こっちは大変なんだよ!火山が近いのもあって元々暑い土地だから熱中症の人とか出始めちゃって…!」



そう言ったアスナが見て欲しいとシアナに映し出した映像には、ぐったりしているお年寄りや子供を若い人達や力が自慢のカイリキー達が運んでいる様子が見えた。



「え、アスナは?大丈夫なの?!」


「あたしは大丈夫!それよりシアナ、あんた今どこにいるの?」


「今は私とルネにいるよ、必要なら私のポケモンを貸そうか?」


「え、ミクリさん?!なら丁度良かった!是非お願いします!てか…あれ?それならダイゴさんは?」


「それなんだけど…」



それから、シアナとミクリがアスナに今までのことを省略しながら説明をすると、アスナもフエンタウンの様子が落ち着き次第すぐにでもこちらに向かってくれるとのことだった。



「シアナ、それで…おじさんは見つかった…?」


「ううん。まだ。…ユウキくんも見てないって。」


「そっか…分かった、こっちも落ち着いたらすぐ向かうから!無茶だけは絶対にしないこと!いい?!」


「ん。分かった、アスナも無茶しちゃ駄目だよ!水分補給してね!」



シアナの言葉に、分かってる分かってると笑いながら答えたアスナは誰かに呼ばれたらしく、ミクリに一言伝えると急いで通信を切る。

その後、大きな湖を挟んで二手に分かれた2人はお互い優先するべき事に集中する。
ミクリは先程アスナに約束をした水ポケモンを用意しにポケモンセンターへ。

そしてシアナはキョロキョロと見逃しが無いように辺りを見回しながら街中を歩いていると、木の木陰で具合を悪くしてしまっている幼い男の子を発見して慌てて駆け寄る。




「あの子…大変!」



駆け寄って声をかけてみるが、反応が薄い。
目の前で倒れている男の子を抱き上げたシアナが確認すれば、どうやら水分が足りていないようで汗をかいていないようだった。

これはどう考えても熱中症。今すぐ処置をしなければ命に関わるかもしれない。
早く手当をしてあげなければと男の子を抱え直したシアナはすぐに近くのポケモンセンターまで走った。




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