君の癖
あれから朝食を食べ終わった2人はダイゴの自宅の広い庭でバトルの練習を始めた。
まずはシアナがどれくらいのレベルなのか確認する為にも実際にやってみるのが早いだろうとダイゴは考えたのだ。
考えたのだが…
「メタグロス、バレットパンチ!…軽くね。」
「え!?え、エルフーン!コットンガード!」
「エルッ!」
なんだ。きちんと咄嗟に防御したり出来るではないか。
どうやらそんなに気にしなくても大丈夫なのかもしれない。
一度彼女のコンテストバトルを見たが、確かにあの時も瞬発的にエルフーンに指示を出していたし。
バトル中、そんなことを頭の中で分析していたダイゴだったが何やら目の前の光景が可笑しいことに気づく。
ぼふん。ぼふん。ぼよよーん…。
「……………。」
…コットンガードしたエルフーンがメタグロスのバレットパンチを受けて跳ねている。
綿の塊がふわふわ浮いたり跳ねたり…なんてファンシーな光景なんだろうか。
「……はっ!エルフーンそれ可愛いっ!次のコンテストで使ってみよう!」
「エルーッ!」
呆気に取られているダイゴを置いて、シアナの嬉しそうな声にエルフーンはいつの間にかコットンガードを解いて彼女に駆け寄り頬ずりをしている。
その可愛らしいコンビに、ついダイゴはエルフーンとシアナちゃん、癒されるなー…と頬を緩めるが、暫くしていやいやいやと首を横に振ると慌てて口を開いた。
「……って!違う違う!シアナちゃん!これコンテストじゃない!バトル!」
「……っ?!ごめんなさいっ!!」
「こほん。取り敢えず、君の癖が良く分かったよ…」
「ごめんなさい…その気はないんですけど…!」
「いや、でも正直言うと…シアナちゃんは判断力が早いね。咄嗟の指示でも問題ないレベルだ。ただ…まずは相手に勝とうって意識を持った方が良さそうだね…」
要は気持ちの問題だと励ますダイゴに、シアナはそうですよね!と意気込む。
先程までは落ち込んでいたが、ダイゴの褒め言葉もあってかどうやらやる気が戻ったようだ。
今日のところはバトルの練習は終わりにしてシアナの生活用品を取りに行こうと提案したダイゴにより、2人は彼女の家に戻ることに。
「えーっと、あとはポロックキットと木の実の種と………あ。ダイゴさん、あの…お願いがあるんですけど…」
「ん?」
「小さいガラスケースか何か、余ってませんか?」
「?ケースなら余分にあるけど、何か飾りたいの?」
ダイゴの返事にそれなら1つ貸してください!とシアナは目をキラキラと輝かせる。
あぁ…なんて可愛いのだろうか。
相変わらずの空色の瞳が綺麗だと思わず微笑んでしまったダイゴだが、ここまで喜ぶだなんて一体彼女は何を飾る気なのだろうか?
気になるな…と思わずダイゴが心の中で呟いていると、何かを大事そうに抱えたシアナが恥ずかしそうに照れ笑いをしながら目の前に立っていた。
何を持っているのだろうとそれを覗いたダイゴは見覚えのあるそれに驚いて目を見開いてしまう。
「その…これを、飾りたくて…!」
「……え?これって…」
シアナがダイゴに少し恥ずかしそうに見せてくれたのは可愛くリボンでデコレーションしてある何本かの水色のドライフラワーだった。
ダイゴの記憶が正しければ、確かこれはブルースターと言う花だった筈。
何故、石にしか興味がないダイゴが花の名前まで知っているのかと言えば、それは彼女とカフェに行く時にこの花を元気のない彼女にとプレゼントしたのがダイゴだったからだ。
もう枯れてしまっているだろうと思っていたが、彼女はこうしてドライフラワーにして保存してくれていたらしい。
どうしたものだろう。凄く嬉しくて仕方がない。
「折角こんな可愛いお花を頂けたので、ドライフラワーにしてみたんですけど…」
「シアナちゃん…」
「ダイゴさん?どうし…っ!?」
花弁が取れてしまったらいけないと一度テーブルにそれを置いたシアナを確認したダイゴは次の瞬間、シアナの腕を引くと咄嗟に彼女を抱き締めていた。
嬉しくて。恥ずかしさ等は全く無くて。
思うがままに体が動いてしまった。
しかし、この状況はどうしようか。
これは離すに離せない。というよりも正直言って離したくない。
「え…え?あの、ダイゴさん…!?は、恥ずかしいんです…けど…っ!」
「…もう少し駄目?」
「えっ?!」
どうやら彼女に少し我儘を言ってしまったようだ。
もう離してあげよう、彼女をあまり困らせたくはない。
そう思い、名残惜しいがとダイゴはそっとシアナから離れ…
「シャーッ!!」
「ちょ?!バシャーモ!?」
「え、待って!ごめん!ごめんってば!?」
するといつの間にか彼女のレッグベルトから出てきたらしいバシャーモがブレイズキックの構えで目の前に立っていた。
そうだ。ミクリに言われたことをすっかり忘れていた…!
(彼女のバシャーモには気をつけなさい。ヘタをすると強烈なブレイズキックが飛んでくる)
「もう!ダイゴさんに失礼でしょう!…心配してくれたの?」
「シャッ!」
「あはは…ご、ごめんねシアナちゃん…」
「え?あ、その…少し恥ずかしかっただけですから…っ!」
下を向いたシアナは恥ずかしそうに言うと、バシャーモをボールに戻し、荷物を急いでバックに詰め込み始める。
恥ずかしかっただけ…と言うことは、少し期待していいのだろうか?いや、まず先程の行動に深い意味はないと思われているかもしれない。
大丈夫だ、めげるなダイゴ。これからだ。
「よし!ダイゴさん、終わりましたよ!お待たせしました!」
「いえいえ、忘れ物はない?」
「大丈夫です!」
ダイゴが1人でそんな考え事をしている間にどうやらシアナは荷物を詰め終わったらしい。
今日は疲れているだろうから、荷物を一旦家に置いてトクサネのレストランへ行こうとダイゴが彼女に提案をして半分荷物を持った時、ふと聞こえた音にダイゴの表情が少し曇りを見せる。
「…待ってシアナちゃん」
「?ダイゴさん?どうかしました?」
これは何かの足音だろうか。
それも、どうやら1人ではなく数人いるようだ。
しかしここはシアナの家。
ミナモから少し離れた場所にあるし、何より海に囲まれた孤島に建っているこの場所はどう考えても数人で来るような所じゃない。
…これはマズい状況かもしれない。
「っ…シアナちゃん!荷物を持って隠れるよ!」
「え?!」
幸いまだ陽は落ちていない為に電気はつけていない。
上手く隠れれば留守だと思わせることが出来るかもしれない。
どこか隠れられるような場所はとダイゴが必死に探していると、どうやらシアナも足音を聞いて状況が分かったらしく慌ててクローゼットを指差した。
「よし、先に入って!」
「は、はい!」
急いでシアナを先にクローゼットへ入れてからダイゴは部屋に不審に思われるものがないか確認して急いでクローゼットに入る。
すると暫くしてやはりドアを開ける音がした。
クローゼットのほんの僅かな隙間から覗けば、そこには赤いフードを被った連中の姿が目に入る。
やはり間違いない、あれはマグマ団だ。
ダイゴと共にシアナも隙間から一緒に覗いているが
怖いのか、怒っているのかは暗くて判別出来ない。
しかしその体が少し震えているのに気づいたダイゴは安心させるようにそっと彼女を抱きしめ、優しく背中を叩いた。
(マグマ団、何を企んでいるんだ…!)
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