君との共通点




「ふふ。ダイゴさん、私のチルタリスの乗り心地はどうですか?」


「うん、この子はゆったりと飛ぶんだね。とても気持ちが良いよ!」



今、ダイゴはシアナとホウエンの上空にいる。
どうやら彼女のチルタリスはゆったりと飛ぶのが好きらしく、確かにこれは雲に乗っているような気分で気持ちが良い。

これで天気が良かったらもっと気持ちが良かったのだろう。それが少し惜しいがまず想い人である彼女とかなり近い距離でいることの方が今は辛い。

そんなことをダイゴが思っているとは知らないシアナはいつもありがとうと優しい手つきでチルタリスの頭を撫でている。




「…あ。そういえばシアナちゃん、」


「はい?」


「今日はいつもと服装が違うんだね?何か理由があるのかい?」


「それは…ふふ。内緒です!」




そういえば、今日の彼女はいつものニット系のふわふわとした雰囲気の服ではなく、何方かと言えばその逆のスポーティーな格好だと再確認したダイゴがふと質問をすれば、シアナは楽しそうに内緒だとその可愛らしく弧を描いている口元に指を添える。

あぁやめてくれ、その仕草は反則だから。






「あっ!ダイゴさん、着きますよ!」


「…あれ?ここは…」




ダイゴがそんなことを考えていると、どうやら内緒だと言っていた目的地に到着したようだ。
そこは洞窟に篭っているダイゴには庭同然のように良く知る流星の滝だった。
何故オススメの場所がこんな所なのだろうか?
それでも結局、想い人であるシアナと2人で出掛けられるのならダイゴ的には何処でも良いのだが。




「お疲れ様、チルタリス!ありがとね?」


「チルチルー!」


「ありがとうチルタリス、とても気持ちが良かったよ。」


「チルー!」


ゆっくりと地上に降り立ち、自分達を丁寧に降ろしてくれたチルタリスに2人はお礼を言う。
その流れでシアナはチルタリスをモンスターボールに戻すと笑顔でダイゴに行きましょうと伝えて洞窟の中に入っていく。





「ここって流星の滝だよね?」


「はい!その通りですよ!」


「ここがオススメの場所?」



2人が奥へと進む度にコツコツと靴の音が辺りに響く中、ダイゴはそろそろ教えてくれないかと彼女にここまで来た理由を問いかける。

何処かに綺麗な水が湧き出てたりだとか、そう言った絶景スポットのことなのだろうか?
そんな予想をしてみるが、そもそもこんな所に来たら思わず石を探したくなってしまうダイゴはなるべく余所見をしないようにと心の中で自分にキツく言い聞かせる。





「そしたら……それっ!」


「…え?」




すると、シアナは何故かボールから2体のポケモンを放つ。
この薄暗い洞窟の中で光る赤い光に少し目を細めたダイゴは暫くすると今度はその細めた筈の目を大きく開かせる。




「………え、待ってシアナちゃん…!」


「?何でしょう?」


「き、君って…っ!!」




彼女のボールから出てきたポケモンをしっかりとその目に焼き付けたダイゴは思わず口を開く。

シアナのパートナーがバシャーモなのは勿論ダイゴも知っている。

他に知っているのは、浜辺で倒れていた自分を発見してくれた人懐こいグレイシアと以前見に行った彼女主催のコンテストで活躍していたエルフーン、そしてポスターで見たミロカロスと先程挨拶したばかりのチルタリス。これで5体。



この世界では、トレーナーが所持出来るポケモンの数は6体までと決められている。
つまり、彼女には自分の知らない手持ちのポケモンがあと1体いる筈なのだが、その最後のポケモンらしい存在がこちらを静かに見つめているのだ。



光沢のある赤い体。

特徴的な模様の入った鋭いハサミ

強く、鋭く光る黄色い瞳。





「…っ…君って、ハッサムを持ってるのかい?!」


「え、へ?あ、はい…持ってます…けど…?」


「そうか!そうなんだね!!そうだよね?!やっぱり格好良い鋼タイプはかなり魅力的だからね!分かるよ、凄く分かるよその気持ち!」


「へ?!あ、はい!そ、そうですね…っ?!」



シアナに確認を取り、それに対して肯定を貰ったダイゴはガシッ!と思わず勢い良くシアナの両手を握る。
まさか可愛らしい雰囲気の彼女が鋼タイプを連れているとは予想もしていなかった。

何よりも彼女が自分がバトルで最も得意とする鋼タイプのポケモンを持っていることがダイゴにとってはかなり嬉しかったのだ。
しかもこのハッサム、どうやら手入れもしっかりされているようで鋼タイプ特有の硬い身体が光る程に磨きあげられている。




「あ、あの…ダイゴさん…?」


「それにこの光沢!本当に綺麗に整えてあげているんだね!流石コンテストマスターだよシアナちゃん!」


「ありがとうございます…!あ、あのでも…!」


「うんうん。それに君のバシャーモも素晴らしいよ!これは相当レベルが高いだろうね!でも取り敢えず何が言いたいって、君が鋼タイプを扱っていることが嬉しいんだよ僕は!」



シアナの言葉は全く耳に入っていないのだろうか。
思ったままの感情と共にスラスラと感想を述べるダイゴの手は未だにシアナの手を握ったままの状態だ。

いきなりのことに顔を赤く染め、あの…!と頑張って話し掛けているシアナに気づいていないダイゴに、とうとうバシャーモのブレイズキックの構えが向けられる。



「…………。」


「ちょ、え、何?バシャ………え?!あ、ごめんシアナちゃん!」


「い、いえ!大丈夫ですよ!ダイゴさんは鋼タイプの使い手さんですもんね!」




その静かながらも強烈なバシャーモからの殺気に我に返ったダイゴは自分の手を見つめ、一気に顔を真っ赤に染め上げながら慌ててシアナの手を離す。

いけない。あまりに嬉しかったものだからつい興奮してしまった。




「こちらこそすみません…バシャーモは少し私に対して過保護な所があって…!もう、バシャーモ?」


「………。」


「あはは、いや、今のは僕が暴走したのが悪いんだから、シアナちゃんは気にしないで?」



バシャーモに少し注意をしたシアナだったが、当の本人であるバシャーモは知るか、腕組みをして不機嫌そうにそっぽを向いている。
一方、ダイゴの内なる姿を晒させてしまったハッサムといえば、ただ黙ってこちらを見ているだけだ。
……何処か冷めたような目付きをしているような気がしなくもないが。




「えっと、取り敢えずそういうことで…今日は私とこの子達でダイゴさんのお手伝いをしますから!」


「…え?手伝いって…」



何を、だろうか。とダイゴは突然のシアナの言葉に首を傾げるが、もしかしてと自分の推測である石集めのことかと確認すれば、シアナは当たりです!と笑顔で答える。
しかも彼女は折り畳み式のスコップまで用意していた。…あ。それはうちの会社のやつだね。




「でも…それじゃぁ君が汚れてしまうんじゃ…」


「…もしかして嫌でした?あ、そういう気分じゃなかったですか!?」


「いやいや!凄い嬉しいよ?!ただ、穴を掘ったりすると…」


「あ、それは大丈夫です!今日はそれを想定してこの服装で来ましたから!」



シアナの返答に、成程。それでその服…とダイゴは納得をする。
通りでいつもと違うスポーティーな格好だと思った。

きっと自分がこの前カフェで奢ったから、そのお礼をしたかったんだろうなと彼女の健気な一面が見れたダイゴはなんて良い子なんだろうかとそんなシアナに更に惚れ直す。
……元々、既にかなり惚れてはいるのだが。




「そういう事なら…お言葉に甘えようかな?」


「はい!頑張りますねっ!」




そんな、自分が大好きで仕方ないシアナと一緒に石探しが出来るとは思っていなかったダイゴは嬉しさでニヤつく口元を必死に抑えながらなるべく彼女が汚れないように細心の注意を払いつつ、彼女達と石を探し始める。



今日は、どんな石が見つかるのだろう。
彼女の瞳のような綺麗な空色の石なんか見つかったりしたら、嬉しくて堪らない。





















あれから暫くしてダイゴ達が見つけたのは水の石とひかりの石。
折角なのでこの2つの石はベットの近くに大事に飾ろうとダイゴはその石を丁寧に仕舞う。

石を探している間に彼女に聞けば、どうやら前に此処で太陽の石をエルフーンの為に発掘した事があったようだ。
それで彼女は自分を此処に連れて来てくれたのだろう。






「本当にダイゴさんって石が好きなんですね?」


「あはは。…ごめんね?つまらないでしょう?」


「え?凄く楽しいですよ?何だか宝探しをしてる気分になりますよね!」


「!……ん。そっか。なら良かった…」




今まで自分が知り合った女性なら絶対に言わないだろう台詞を本心で言ってくれているシアナの言葉が嬉しかったダイゴが思わず微笑むと、それにほら!見て下さい!とシアナがある方向を指差す。
その指に釣られてその方角を確認したダイゴは先程の微笑んだ表情のまま言葉を失って顔を青く染める。


そこには、自分よりも遥かに大きな岩をスカイアッパーで軽々と壊しているバシャーモと、バレットパンチで壁を壊すハッサムが居た。





「あの子達も石探しのついでに運動出来てるみたいで楽しそうですから!」


「…運動………。」



あれは運動と言うレベルではない気がするよシアナちゃん、と素直に思ったダイゴが思わず口に出しそうになった時だった。
ずっとニコニコとしていたシアナの表情が一瞬にして曇り、薄暗い洞窟の中でも澄んだ空色の瞳も同じようにその色を無くして曇ってしまう。





「シアナちゃん?…どうかした?」


「っ…ダイゴさん…今、声が…しませんでした…?」



そのあまりの変化に心配になったダイゴが声を掛ければ、シアナは声が聞こえたと答える。
考え事をしていたせいか、良く聞こえなかったダイゴが耳を澄ませると確かに誰かの声が聞こえた。
同じ声質では無いようなので、どうやら1人ではなく数人いるようだ。





「っ…!」


「え、シアナちゃん!?何処に行くの!?」




ダイゴがその声を確認した途端、弾かれたように誰かの声が聞こえてくる方角へと走って行くシアナをダイゴと彼女のポケモン達が慌てて追いかける。

まるでダイゴの声が聞こえていないような彼女の行動に、追いかけながらもバシャーモ達の様子を伺ったダイゴは更に焦りを募らせる。




ポケモン達の瞳が、ただ前だけを見つめている。
それも恐ろしいと思う程に、とても静かに。





「っ…シアナちゃん…!」





一体、どうしたと言うのだろう。






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