もしかしたら





「シアナー!やっほー!」


「あ!いた!アスナー!」



お互い手を振りながら駆け寄るのはシアナとアスナの親友コンビだ。


アスナが用事があってミナモに来ると聞いたシアナがそれなら会いたいと提案し、デパートでお互い買い物を済ませた後にデパート内の喫茶店に仲良く入っていく。



「ふふ。今日はアスナに会えていい日だなー!」


「あっはは!はいはい、あたしもだよ。」



本当に素直なんだからと呆れながらも嬉しそうなアスナは荷物をソファの片隅に置き、アイスカフェラテを頼む。
そして向かいに座るシアナはシナモンアップルティーを頼み、暫くして運ばれてきたお互いの飲み物に舌鼓を打つ。




「あ。そう言えばさ、ダイゴさんとはどうだったの?」


「そう!それだよ!もー!なんで教えてくれなかったの?!」


「いや、だって普通気づくでしょ?」



あんなに有名な人…とアスナが言うと、シアナは罰が悪そうな表情でう…っ!と言葉に詰まる。

そんなシアナを見たアスナは、いくらコンテストにしか興味が無いと言っても自分の住む地方のチャンピオンくらいは知っておきなさいと言いたくなる。

…が、その言葉はアスナの口から発することは無かった。
言った所でこの親友のコンテスト馬鹿が治る訳ではないのだし、まず今更な事だ。




「あ、でもね!ダイゴさんからバトルについてアドバイスを貰えたんだ!」


「え?バトルって…シアナ、あんたバトルしたかったの?」


「えっと…あんまり興味無いんだけど、前にトレーナー同士のバトルを街中で見たことがあってね?その時バシャーモとハッサムが自分でボールから出てきて真剣に見てたから…」



成程。それで2体のためにバトルに挑戦しようとしているのかとシアナの説明にアスナは納得をする。
確かにあの2体はコンテストよりもバトル寄りだ。

シアナのエースであるバシャーモとハッサムを良く知っているアスナにはそれが手に取るように分かる。



「ふーん…因みにどんな?ジムリーダーとしてはチャンピオンのそう言った話は気になるんだよね。」


「ふふ。ダイゴさんが言うにはね?コンテストもバトルも、結局根本的なことは一緒なんだって。」


「…コンテストとバトルが?」


「うん!どっちもポケモンの長所をどれだけ活かしてあげられるかってことが重要だと思うって言ってた!」


「はぁー…成程ね…流石チャンピオン。」


「だよね!バトルが詳しくない私でもそれ聞いて思わず納得しちゃったもん!ダイゴさんって身なりもきちんとした人だし…なんだろ?スーツが似合う大人な男性…って感じ?」


「……………。」



目の前で自分の頼んだシナモンアップルティーの入ったグラスの中の氷をカラカラとストローで回しながら言うシアナの姿にアスナは目を丸くする。

自分で気づいてないのだろうが、目の前の親友のその表情がとても穏やかなものだったから。





シアナは小さな頃から誰に対しても何処か一線を置いたような雰囲気を醸し出している。
誰に対しても笑顔で接するが、それは悪く言ってしまえば愛想笑いのような物。

初めはそんな親友を心配していたアスナだったが、本当に心を開いている相手には心の底から感情を表に出す事が分かってからは特に気にする事も無かったのだが、それがどうだ。

親友である自分やシアナの手持ちのポケモン達以外の人を思い出しながら、自然に微笑んでいるのだ、あのシアナが。



「…ふーん…?ねぇ、他にはどんな話をしたの?」



「他?勿論色々話したよ!えっと…ダイゴさんが実はデボンの御曹司さんだとか、趣味の石集めで洞窟に行った時の思い出とか!」


「…それから?」


「後は…この間の私主催の大会をミクリさんと見に来てくれてたんだけど、その話とか……あ!また会う約束もした!」




正直驚いた。
実際その話はバトル好きや一般のトレーナーなら誰もが知っているような事なのだが、それを初めて知ったらしいシアナが本当に楽しそうに話しているから。

自覚…はやはりまだしていないようだが、これはどう見てもそう言った感情を持っていそうなのに何故気づかないのだろう。
全くどれだけ恋愛に興味が無いのだとアスナは呆れる一方、かなり嬉しくもあった。

これは自分の親友にとってとても良い傾向だから。





「へぇー?なら、次は2人でどこに行くわけ?」


「実はね、流星の滝に行くつもりなの。まだダイゴさんには内緒なんだけどね!」


「え…何しに?」


「ほら、ダイゴさんって石集めが趣味でしょ?だからバシャーモとハッサムにお願いして、それをお手伝いしようかなって!素敵な花束を貰って、その後ケーキまでご馳走になっちゃったし…」


「あー…それはダイゴさんも喜びそうだけど…ねぇシアナ、大丈夫?」



アスナがそう言うと、シアナはその意図がどんなものか全く分からないようで何度も瞬きを繰り返している。

頭の上に?マークが沢山見える気がするのは気のせい…ではないだろうとアスナは溜め息をつきながらもこれは親友の為だと腹を括って口を開いた。




「はぁ。あのね、男の人と2人でそんな所に行って、もし何かあったらどうすんの?」


「?何かって何?」


「……」


「アスナ?」




ダメだ。この子本当にダメだ。
もういい私は知らない。ダイゴさんすみません。
そう目の前で呑気に首を傾げるシアナを視界に入れながら心の中でダイゴに謝ったアスナはそのまま話を続ける。




「シアナよく聞きなさいよ。」


「は、はい…?」


「あまり人が来ないような所。暗くて狭い場所。そんな所に2人きり。そしてダイゴさんは男の人。」


「うん…?」


「つまり、それはその気になればいつでもシアナを襲える状況ってこと。ダイゴさんは良い人だからそういうことしないとかじゃなくて、男の人とはいつ、何処で、どうなるか、分からないんだからね?」


「……え。」


「…?シアナ?」



分かってる?そう話をした後に確認を求めたアスナに、シアナは暫く無言を貫く。

はっきりと言い過ぎたのだろうか?
しかしこれくらい言わないとこの親友は理解しないと分かっているアスナは後悔等は微塵とも感じていない。

そんな考えを巡らせながらアスナも無言でシアナの返答を待っていると、見る見るうちに顔を真っ赤に染めたシアナはあわあわとしながら両手をブンブンと振り出した。





「ち、ちちち、ちが、違う!!私とダイゴさんはそんな関係じゃない!」


「いや、それは知ってる知ってる!そうじゃなくて、もしかしたらの話だから!」


「え、ええ!?だ、大丈夫!ダイゴさん格好良いから私のことなんて何とも思ってないよ!」





格好良いって言った?今。
うん、言った。確かに今自分はこの耳で聞いた。

これはこれは、と面白くなって思わずニヤニヤと笑いだすアスナに更に慌てたらしいシアナはまた急いで口を開く。




「そ、それに!ほら!バシャーモもハッサムもいるし!というかダイゴさんそんなことしないし!」


「だからダイゴさん限定じゃなくて、他の男の人ともそうなったら大変でしょ?だから、いつも気をつけてなさいってことを言いたかったんだよ?」


「ダイゴさん以外の男の人の知り合いなんて私にはいないよ?!」


「は?いや、いるでしょうよ…ミクリさんとか。」


「……………………あ。」



もしかしてこの子、本当に自覚し始めてる?
鈍感だから気づいてないだけで、この反応はやはりどう考えてもミクリのような男性の認識ではなく、そう言った意味の男性としてあの御曹司を意識しているのではないだろうか。

……というか絶対しているだろう、これは。






「へぇー?そっかー?ふーん?そうなんだーぁ?」


「え…な、何?…え、何なのアスナ!」


「んー?別にー?何もーー?」



面白そうにニヤニヤと自分を見て笑うアスナにシアナは何なのー?!とまた声を上げる。

そんなシアナを横目に、アスナは先程の話題に夢中になってすっかり氷が溶けてしまったアイスティーにそっと口をつけた。

これはもしかしたら、もしかするかもしれないですよ、ダイゴさん。






(面白くなってきたねー?)


(だから何がっ?!)

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