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ピアスホールには恋が住んでる


※洛山についていろいろ捏造あります。


赤司くんは、いわゆるお坊ちゃまだ。
中高一貫でそこそこ生徒数の多い洛山だけど、彼のことは同じクラスになる前から知っていた。頭脳明晰、品行方正、おまけに容姿端麗のお金持ちとくれば、目を引く存在になるのは当然と言えた。かくいう私も噂で彼を知った有象無象のひとりではあるが、ひょんなことから私と彼はいわゆるお友達になった。

赤司くんの特異性は、独特の雰囲気にあると思う。そりゃあ彫刻みたいにきれいな顔も近付きがたい理由のひとつだけど。何にも固執しない彼の孤高の背中は、いつだってピンと真っ直ぐだ。思い通りにならないものなんてないから、赤司くんは執着を知らない。
彼は、時が来れば何も言わずにどこか遠くへ行ってしまう。胸の奥、最下層に埋もれている不可視の、けれど確かな予感。気の置けない友人だと笑ってくれるけど、彼の心の中に私はいない。きっと、予兆もさよならもない。手を振り合ってさよならをして、永遠の別れじゃないような顔で背を向けて、視界から消えた瞬間からきっともう連絡も取れない。

捨てられるわけじゃない。偶然どこかで会えば、彼はなんてことない顔で笑顔を向けてくれるはずだ。ただ、不必要なものを切り離すだけ。彼にとっては呼吸に等しい、ギムナジウムの残骸の排除。きっと彼はそうして古巣にいろんなものを置いてきた。

だから、私は捨てられるその日まで、彼の手中にいることを選んだ。隣に立てなくても、彼が笑いかけてくれるならそれだけでよかった。多くを望む気はなかった。いつか置き去りにされる宿り木でも、気を張りっぱなしの彼が休める場所になりたかった。


――そんな彼の隣に立つ彼女が現れたのは、洛山高校男子バスケ部が冬の大会を準優勝で終えてからだった。髪のきれいな、でもそれ以外は本当に平凡な、普通の女の子だった。赤司くんは私に彼女を紹介した。確かなことは何ひとつ言わなかったけど、表情を見れば分かってしまった。赤司くんの大切な、唯一の女の子。
あんなに分かりやすい赤司くんを、私は知らない。

心の痛みをごまかすために、目に見える確かな痛みが欲しくて、理由が欲しくて、薄い耳たぶに穴を開けた。増えていく傷の分、ふたりの顔を見るのが辛くなった。
確かに同じ場所で息をしてるのに、私たちを形成しているものはこんなにも違う。それはふたりにしか分からない秩序で、均衡だった。恋人の特権をただひとつ挙げるとすれば、それはこうして特別な距離を許されることなんだと知った。手を繋ぐことも肌を重ねることも、結婚だって、できてしまう。愛がなくても。でも、形だけの行為の先にはきっと今以上の虚しさしか残らない。



「ごめん、変なところを見せてしまったね」

そう苦笑しながらも離されることのないふたりの距離が、細い腰に回された力強い腕が。憎くて羨ましくて仕方がなかった。特別な距離。大事に大事に抱えられる腕の中。私には決して手に入らない場所。だいすきな赤司くんも、赤司くんの唯一になれた彼女も、――妬むばかりの私も、だいきらいだ。


私は、あの子になりたかった。


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