花火と魔法とタイムラグ
ドォン。地響きのような衝撃と弾ける音。こんなにも間近で打ち上がる花火を見たのは初めてで、濃い硝薬の匂いに眩暈がする。隣の菅原は喋らない。リズミカルに臓腑を揺らす花々が、抜け落ちた表情を補っている。
季節はずれだ。花火にはまだ早い。それでも彼の夏はもう終わってしまったのだろう。熱気の溢れる体育館も、三色のボールも、苦しみも。彼の愛した季節は、彼を待ってはくれなかった。指の隙間から逃げて、やがて本物の冬を連れてくる。空虚な冬。菅原は、凍えることを恐れている。大事に抱えたものを奪われ、ひとり迎える暴力的なまでの寒さを。
気持ちを理解してあげることはできない。別個のいきものである限り。
「バレーは室内競技でしょう」
それでも、何を考えているかくらいなら分かる。恋人でもチームメイトでもなく、友達だから言えることがある。
「…まだ終わりたくないんでしょう」
色を失った頬に伝う川。鮮やかな火花に彩られた哀しみ。ギフトによる力量の差も、本人の思いと無関係に向けられる同情も、何もかもすべて。彼の人一倍やわらかな心の裏側を傷付けませんように。祈ることしかできなくて、謝る代わりに指を貸した。
(闇に浮かぶ白い指は、)
(なんてことない顔で魔法をかける。)