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重ね続けたグラデーションの隙間で


知らなかった。蠱惑的な空気に噎せ返る。記憶の中に息づく彼女は、こんなにも切ない顔をしただろうか。僕が忘れているだけ?上手に年を重ねたせい?それとも。

「梓は変わらないね」

言って、桜色のくちびるを閉じる。口角を上げる。瞳の奥を覗き込む。睫毛を伏せる。子どもを卒業してもなおまろい頬に、くっきり落ちた影。不自然ではないくらいのスピードで、ひどくとろりとした動作。品定めされていると、理由もないのに気付いた。
なまえ先輩は、自分だけ変わってしまったことを悔やんでるみたいに、うつくしく伸ばされた髪の毛をかき上げる。ふわりと鼻腔を擽るのは、どこまでも純粋な甘い毒。

「ね、梓」
「なんですか」
「お願いがあるんだけど聞いてくれるかな」
「僕がなまえ先輩の頼みを断るわけないじゃないですか」

ふわりと音もなく微笑んで、ほっそりした指を伸ばされる。じれったい速度。待ちきれず迎えにいくように指を重ねたら、罠にかかった羽虫を見つけた捕食者の目。満たされない淋しさを見つけてしまうのが怖くて、するりと頬の輪郭をたどる。まるで何かを確かめるみたいに。

「――私と一緒に、だめになってほしいの」

左手には、リングの跡。すべらかな肌の上に居座っていたであろう所有の証。許されたはずのぎんいろ。外された理由なんて、もう分かってる。


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