夢を見た*白澤

「泣いてる君にいいものを見せてあげる」


昔の夢を見た。
幼い私が誰かの優しい手に引かれ、深い霧の中を進む夢。
なぜ泣いていたのか覚えていない。
その人が誰だったのか覚えていない。
何を見たのか覚えていない。
ただただ優しい手のぬくもりだけ覚えていた。


「あ、水蓮ちゃん
おはよう」


ここは住み込みで働かせていただいている桃源郷の薬屋 うさぎ漢方『極楽満月』。
そしてこの店のオーナー、吉兆の印、神獣白澤様。
フラフラとあてもなく彷徨っていたところを拾ってくれた方。
…そういえばどうして彷徨っていたんだっけ。


「今日はいい天気だし、お店休みにしてどこか出かけようか」

「いいですね」

「水蓮ちゃんもここの所ロクな休みがなかったから疲れ溜まってるでしょ?
そんなときは外に出てリフレッシュだよ」


漢方医がこんなこというのはあれだけど、と可笑しそうに笑った白澤様は私の手を引いて外へ出た。


「お疲れの君にいいものを見せてあげる」


どこかで聞いた声。
どこかで感じた優しい手のぬくもり。
どこかで見た深い霧の中。


「ここを抜けた先に、
…ほら、見えた」


霧がだんだんと薄くなってきて視界が開けてくる。
眩しい日差しとともに目に入ってきたのは、


「わぁ…、綺麗…」


深い青の湖。
一つの濁りもない澄んだ青。


「僕のとっておきスポット」


そう言って、人差し指を唇に当てた白澤様は以前にも見たことがあって。
私はこの人に助けられてばかりだ、と悟った。
私は思い出したが、白澤様は覚えているのだろうか。
いや、何千年も生きている方だ。
いちいち覚えているはずがない。
それでもいい。
私がこれから忘れなければそれでいい。


「水蓮ちゃんみたいだろう?
一つの濁りもない澄んだ深い青
純粋で澄んでいて
でも寂しがりやですぐ暗がりに逃げ込んじゃう水蓮ちゃんの心の色そっくり」


ふふ、と笑いながら目を細める白澤様は今までで一番優しい顔をしていた。


「白澤様の心にも似てますね
何度も激しく濁ったりして、戦って、流れ続けて、その上でまた透明に戻った深い青」

「僕が濁ったっていうの〜?」

「何千年も生きてたら、何度も濁るでしょう」

「僕は吉兆の印、白澤だよ〜?
濁るわけないじゃ〜ん」


あはは、と笑いながらくるっと私の方を向く。
その目にはうっすらと涙の膜が張っていて。


「でも、ありがとうね
水蓮ちゃん」


するりと優しく私の頬を撫でると、帰ろっか、と手を握る。


「やっぱりここに来ると君はいい顔をするね」


…覚えててくれたんですね。
返事を返すように私は白澤様の手をキュッと握った。




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