06

「あの、なんでついて来てるんです?」
「私も桃源郷に用がありまして」

「…そうですか」

「ええ」


折角鬼灯から逃げたのに、彼は水蓮の半歩後ろにいて。
彼女はガックリと肩を落とした。
微妙な距離感を保ったまま、二人は桃源郷へ足を進める。


「変わらないですね〜、ここも」

「ここの住人も変わりませんよ」

「あの方はもう変われないでしょう」


フッ、と呆れたように水蓮が笑った時。
目の前の店の中から、バチンという痛々しい音が届いた。


「…お取込み中?」

「いつ来てもだいたいお取込み中ですよ」


バンッと豪快に音を立てて開いたドアからは、顔を真っ赤にした鬼女がドスドスト怒りを含んだ足音を立て、出て行った。
店の中にはくっきりと手形がついた頬を撫でる男がいた。


「相変わらず過ぎてかける言葉もないですし今日は帰りましょうかね…」

「奇遇ですね、私もそう思ったところです」

「あれ、鬼灯様?」


帰ろうかと踵を返したところ、不思議そうにこっちを見つめてる男がいた。
彼は桃太郎。
現世にいた頃は英雄だったが、こちらに来てからはなんやかんやあって、ここ桃源郷の極楽満月で漢方の勉強をしながら働いている。


「あぁ、桃太郎さん」

「隣の方はお客様ですか?」

「あ、いえ
私は…」


水蓮が説明しようと口を開いたのとほぼ同時に、あれ〜ぇ?と、呑気な声が背後からした。


「水蓮じゃーん
帰ってきてたの〜?
おかえり〜」


水蓮を後ろから抱きしめる頬に手形をつけた情けないこの男は白澤。
一応神獣である。
ただ、どうしようもない女好きというオプション付き。
極楽満月から怒った女が飛び出してくるのは日常的なことであった。


「女だったら見境なしか」


鬼灯の金棒が白澤の顔にめり込む。
白澤は痛い痛いと、水蓮のお腹あたりで組んでた手を離した。


「相変わらずですね、白澤様」


ふぅ、ため息をつきながら彼の頭を小突く水蓮。
そんな光景を見ていた桃太郎は、疑問を口にした。


「三人はお知り合いですか?」

「桃タローくんがこっち来た時にはもういなかったもんね
この子は二代目第一補佐官候補だった子だよ」

「今の鬼灯様のポジションですか?」

「そうです
こいつ、めんどくさいからと言って私にこの仕事を預けて呑気に旅行に行ってたんですよ」


そう言って鬼灯は水蓮の頬を思いっきりひっぱった。


「いひゃい…っ」

「鬼灯やめろ!
水蓮の頬は僕が撫でるためにあるんだから!」


ねー、と笑って水蓮の頬にゆるりと自身の指先を滑らせる白澤。
その手を水蓮がパッと払い除けるのとと、鬼灯が金棒で殴り飛ばすのはほぼ同時だった。




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