ドS後輩レギュラスと誕生日「なまえ先輩、おはようございます」
掛けられた声に、勢いよく振り返る。勢いが良すぎてバランスを崩して壁に思いっ切り激突したけどそんなの関係ない。声を掛けてきた彼が引いた目で見てくるけどそんなの関係ない。
「れ、レギュラス!」
「いきなり何ですか先輩うるさいです」
「だ、だって…」
こんな朝っぱらからレギュラスが私に話し掛けてきてくれるなんて…! いつもは私が話し掛けてウザそうな顔をされるのが普通なのに…!
「何これ待望のデレ期!?」
「言ってる意味が分かりません。先輩頭悪いんですか?」
「え、頭悪いって…」
「あ、間違えました。頭おかしいんですよね」
「うわ断定された!」
くっ……話してくれてもツンな感じは揺らがないのね…!
くそう、と思いながら顔を上げると、レギュラスは既に私に背を向けて歩き始めていた。
「えっ、どこ行くの?」
「大広間に決まってるでしょう。朝食ですよ」
「ああ待って待って! 私も行くから!」
走ってレギュラスの横に並ぶ。「えー、一緒に行くのかよ」みたいな顔されたけど気にしない。
大広間に着いてすぐにレギュラスは空いている席に座った。なので私も席を探すために辺りを見回す。
すると、レギュラスが不思議そうな顔で私を見上げた。座っているレギュラスは私より低くなっていて、普段見ないアングルに胸を撃ち抜かれた。やばい、かわいい。
「なに気持ち悪い顔してるんですか。早く座ってくださいよ」
一瞬、時が止まった。
「…えっ、レギュラスの、となっ、隣に!?」
「……嫌なら良いですけど」
「嫌じゃないよ!」
慌てて隣に座ると、心なしかレギュラスがホッとしたような表情をした。
そして私の分の皿をするりと持っていく。……えっ何これ、朝ご飯食べるなってことなの。
「どうぞ」
昼ご飯までどうやって命を繋ごうかと思っていたら、私の好物ばかりが山盛りになった皿が差し出された。れれれレギュラスが取ってくれた…!?
「ど、ど!?」
「は?」
「どうしたのレギュラス!?」
デレデレじゃないかオイ!
レギュラスはうざったそうな顔をした。
「食べないならいいで…」
「食べます食べます!」
引っ込められそうになった皿を慌てて引き寄せた。
……それにしても、量多くない? ひくっ、と引き攣った私の頬に気付いたのか、レギュラスが私を見て笑った。
「受け取ったんですから、ちゃんと全部食べてくださいね?」
「……はい」
レギュラスの醸し出す圧力に負け、吐きそうになりながら朝食を終え、午前中の授業を受け、もはや食欲もないまま昼食を終え、午後の授業を受け、そして夕食。
今日は何故か、教室移動などで廊下ですれ違うたびに、レギュラスが毎回話し掛けてくれた。まあ内容は冷たい言葉だったり、もしくは呼び止めておいて何も言わずに去っていくみたいなものだったけど。さらに、本日三回の食事を全てレギュラスの隣で食べるという、何なのどういうことなのこの幸せ逆に怖いわ! という状態だった。
本当にどうしたんだ、今日は。
隣にいるレギュラスをちらりと見ると、澄ました顔でスープを飲んでいた。私がフォークを置くと、「やっと食べ終わったか、おせーよ」みたいな視線をこちらに向けた。
「食べ終わったなら行きましょう」
「あ、うん」
立ち上がってスタスタと歩き出すレギュラス。私も慌てて追い掛けた。
ほとんどの生徒はまだ食事中のため、廊下には人気がない。少し前を歩くレギュラスが無言だったから、私も何となく黙って歩いた。
寮に入ってすぐ、レギュラスが立ち止まった。ぼんやり歩いていた私は、その背中に思いっ切りぶつかった。
「ぶぇ」
「…咄嗟の声が女性とは思えませんね」
「……それは言わないで」
痛いところをつかれて思わず目を逸らすと、レギュラスがため息を吐いた。
「…なまえ先輩」
少ししてから、レギュラスが静かな声で私を呼んだ。目線だけを上げてレギュラスを見れば、彼は意外と真面目な顔をしていた。どうした。
「貴女は女性としては終わりに近いですし、ぶっちゃけうるさいっていうか鬱陶しいっていうかウザいです」
「ええ…」
「でも、」
真顔で言いたい放題言ったレギュラスは、言葉を切って少しだけ笑った。その優しげな表情に、私の顔に熱が集まる。
「でも僕はなまえ先輩のこと結構好きですよ」
私の耳元に顔を寄せて呟いた。
「誕生日、おめでとうございます」
そのまま、レギュラスはくるりと私に背を向けて男子部屋への階段を上って行った。
「え…」
その背中を眺めながら、間抜けに突っ立っていた私の肩を誰かが叩いた。
「なまえ、何ぼんやりして……あら」
同じ部屋の友達だった。私の顔を見て、ニヤリと笑う。
「その様子だと、やっと言われたみたいね」
「な…」
「レギュラスくんでしょ? あの子、『自分が一番におめでとうって言いたいから、なまえ先輩のこと祝わないで下さい』って私たちに頼んできたのよ〜?」
キャー青春ねー! と騒ぐ友達の横で、私は火照る頬を抑えるのに精一杯だった。
どうしよう…! もう明日からレギュラスの顔まともに見れない…!