ザンザスとほのぼの「ザンザスさん、雨ですよー」
ザァザアと騒がしい窓の外。朝から降り出した雨は強さを増して、霧雨はいつの間にか本降りになっていた。水滴がガラスを伝って、外の様子は何も見えない。
ほぉー、と外を眺めながら応答を待っていたが、一向に返事はない。振り返ると、ザンザスさんはソファに横になって寝ていた。ウソだろ。
いそいそと近寄ってみると、穏やかな寝息が聞こえてきた。
「ザンザスさーん…」
小声で呼んでみたが、全く反応がない。
せっかく二人そろっての休みだというのに、この人は。
「……」
ザンザスさんの向かいのソファでごろごろとくつろぐ。彼と平行に寝転がれば、ソファの間に陣取るテーブルに遮られて見えなくなってしまった。
それはさすがに寂しいので、起き上がって、またザンザスさんが寝転がっているソファのほうに近付いた。体の大きなザンザスさんはソファをすべてを使って寝ているので、私はソファを背もたれにして床に体育座りをした。
窓の外は相変わらずうるさい。水滴の向こうは灰色だ。
「ザンザスさん、雨降ってますよー…」
声を上げつつ、寝顔を盗み見る。
宝石のようにきれいな赤は、今は瞼に遮られて見えない。…もったいない。
「こんな雨じゃ外にも出れませんねぇ…」
「昨日花壇に水やりしちゃったのに…。枯れないといいんですけど」
「そういえばこの前新しい本買ったんですよ」
背中越しに、寝ているザンザスさんが起きないくらいの小さな声で話しかける。もちろん返事はない。強いて言うなら、答えるように雨音が大きくなっただけだった。お前はむしろ弱まれ。花が枯れる。
「……ザンザスさん起きてくださーい。私が暇してますよー」
ぐりんっと後ろを向く。ザンザスさんは微動だにしていない。
すやすやと眠る彼の髪の毛を触る。暇で暇で仕方がないのだ、私は。
思っていたよりふわふわだった髪の感触を楽しんでいると、いつの間にか隠されていた赤がこちらを見据えていた。
「…何してんだ、テメェは」
「あれ、起きちゃいましたか」
ザンザスさんはひとつ舌打ちをして寝返りを打った。
「ザンザスさん髪ふわふわですねえ」
「……」
「寝ないでください。寂しいです」
「……チッ、カスが」
またひとつ舌打ちをしつつ、ザンザスさんはこちらに振り向いた。優しい。
思うに、この人は見た目で損をしているんじゃないか。たまにこうして優しくなるのに、いつも不機嫌な顔をしていては意味がないというものだ。眉間のしわをなくして、口角を上げて、もっと穏やかににっこりと―――違う。そんなのもうザンザスさんの原型がなくなってしまう。
「…おい、」
「はい」
「何を考えてやがる」
……ああ、やっぱり駄目だ。
さっきはもったいないと思っていたけど。
その赤の瞳の強さに。
ひどく、心臓が騒ぎ出す。
「…知ってるでしょう」
いつだって私は。
「ずっとザンザスさんのことしか考えてませんよ」