スネイプ教授

「エドウィン、我輩は何度同じことを言えば、君の小さな脳みそに理解させることができるのだろうな?」

チラリ、と湯気の向こうでクラスメートをいびり倒しているスネイプ先生を見遣る。……今日もかっこいい。

多くの生徒からは不評なスネイプ先生だけど、彼は私の憧れの先生だった。顔色が悪くてわかりづらいものの、顔は整っているし、クールで寡黙で、そこらの男の人よりずっとかっこいい。…友達は誰も賛同してくれなかったけど。なんでだろう。

そんなことを悶々と考えながら魔法薬を作っていたわけだが、曰く繊細で高尚な魔法薬を、上の空の状態でうまく作れるはずがなかった。
深緑色になるはずの魔法薬は、見るも無残な鮮やかピンクになっていた。

「……」

いつの間にか側に来ていたスネイプ先生が、私の大鍋を覗き込んで、口元を引き攣らせる。

「…ミスみょうじ、君は我輩の話を聞いていたのか?」
「……」

もちろん、私がスネイプ先生の声を聞き漏らすはずがない。

「比較的優秀な者が多いレイブンクローでありながら、君は入学時から一度もうまく魔法薬を作れた試しがない」
「…え」
「……何かね」
「いや、…何でもないです」

……入学時から、だって。スネイプ先生、知ってたんだ。
全然そんな場合ではないのだけれど、綻びそうになる頬を引き締める。

「まったく、君のその不器用さには頭が下がりますな…。そこで、特別に金曜日の夜、我輩が補習をおこなって差し上げよう」
「えっ…」
「八時にこの教室に来たまえ。遅刻は許さん」
「は、はい!」

ととと特別授業…!? なにそれ役得すぎるでしょ! 私、魔法薬苦手で本当に良かった…!
大きく頷いた私を、周りは可哀想なものを見るような目で見ていた。







金曜日の夜七時五十五分。深呼吸をしてから、教室の扉を開ける。

「失礼しま……あれ」
「あ…君は…」

教室の中には先客がいた。同学年の有名人、ハリー・ポッターだ。

「君も補習?」
「…も、ってことは貴方も補習なんだ」

……何だ。私だけじゃないのか。二人きりかと思って、少しだけ期待をしていたのに。思わず肩を落としそうになるのを堪え、とりあえずポッターと自己紹介をしあった。

それから、八時きっかりになって、スネイプ先生がやってきた。
作る魔法薬は、この前の授業でやったのと同じもの。手順はすでに分かっているので、作業をテキパキと進めていく。スネイプ先生は私に一言、「君は丁寧という言葉を知っているかね?」と言っただけで、その後は隣の机で作業をしているポッターをいびる作業に入った。

「やり方が実に乱雑だ…父親にそっくりだなポッター」

……先生に構ってもらえるなんて、ポッターずるい。
しかめっつらになりそうなのを何とかこらえて、手元の月見草を執拗に切り刻んだ。

「…月見草に何か恨みでも?」
「えっ」

慌てて顔を上げると、気づかないうちに先生が目の前に立っていた。私の手元の可哀想な月見草を見て、ため息を吐きながら教科書を指差す。

「3ミリ程度だと書いてあるだろう。よく読みたまえ」
「は、はい」
「もう一度やり直しだ。…くれぐれも材料の無駄遣いは控えるようにお願い申し上げたい」
「はい、すみません」

スネイプ先生に言われて、教室の後ろの棚に月見草を取りに行く。
少し高めの位置にある月見草の入った箱を取り出そうとすると、何かに引っかかっているようで、うまく出てこない。

「ん、…しょっ」

それを、無理やり引き抜くと。
箱と一緒に、よく分からない液体が入った瓶が降ってきた。

びしゃっ
「あ゙…っつ!」

何だったのかはわからないが、液体がかかった腕のローブは破けて、皮膚は少し爛れたようになった。痛い。熱い。

「どうかしたのか…っ!」

瓶の割れた音に反応して振り向いたスネイプ先生が、私の腕の惨状を見て、血相を変えて近づいてきた。
そして私の無事な方の腕を掴むと、ポッターに「そのまま続けていろ」と指示を出して教室を出た。多分、医務室に行くんだろう。

「す、すみません先生」

前を行く背中に声をかけたが、先生は反応しなかった。……怒らせてしまっただろうか。ただでさえ出来の悪い生徒なのに、迷惑までかけてしまうなんて。

無言のまま、医務室に入った。
幸か不幸か、マダムの姿はない。先生は私を椅子に座らせて、壁際の棚を物色しだした。じくじく痛む腕からなんとか意識を逸らそうとそれを見ている。と、お目当てのものを見つけたらしい先生が近づいてきて、私の腕に何かを塗りたくった。

「いっ…たい…!」
「我慢したまえ」

尋常じゃないヒリヒリ具合に少し涙目になった。塗り終えた後、先生は傷口の上から包帯を巻いてくれた。

「…痛みは今夜中に引くだろう」
「……ありがとうございます」

包帯の上から腕をさする。ヒリヒリ感はまだ続いてる。
そうして沈黙が訪れてからしばらくして、先生が口を開いた。

「…君は本当に、授業中に魔法薬を正しく作れなさすぎる。一種の才能ではないかと我輩は思うのだ」
「……はは、」
「よもや君が我輩の話すら聞くこともできないほどのバカだとは思いたくはないが…」

ネチネチと責め立ててくるスネイプ先生。それでも、構ってくれるのがうれしいなんて、私は相当な重症患者だ。

「大体君は…」
「あの、先生」
「……何かね?」
「先生は、魔法薬をちゃんと作れる生徒のほうが良いですか?」

スネイプ先生の眉間にしわが寄った。「質問の意図がさっぱり理解できん。先ほどの薬品にはそんな作用はなかったはずだが…」とでも考えていそうな表情をしている。

「……まあ、大抵の場合は、バカな子ほどかわいいという言葉には賛同しかねる、と答えておこう」

大方の場合…というのはよく分からないが、おそらくはスリザリンの生徒は無条件で好きだとかそんな感じだろうと勝手に解釈しておく。

「…じゃあ、あの、頑張ります」

ぐっと拳を作って宣言すると、先生が少し驚いたような顔をした。今のはレアだ。
少しダメなほうが構ってもらえるかも、と思った時期もあったけど、やっぱり憧れの人には良い印象を持ってほしい。だから、頑張ろう。

「……良い心がけだ」
「あ、あのっ、そしたら…」
「? 何かね?」

少し、図々しかもしれないけれど。

「分からないところとか、先生のお時間のある時に、聞きに行ったりしてもいいですか?」

意を決して放った言葉に、スネイプ先生は無言で私を見ていた。そして、不意に椅子から立ち上がると、そのまま出口に足を向けた。
やっぱり、図々しすぎたか…。少し残念に思いながらその後ろを追いかけると。

「君の才能のなさでは、最初から一人で勉強するのは無理だろう。我輩が空き時間に指導してやる」
「…えっ、本当ですか!?」
「……不服かね?」
「まさか! うれしいです! 頑張ります!」

スネイプ先生から見えないのを良いことに、一人大きくガッツポーズをした。

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