ザンザスと寝起き

ふと朝目が覚めたときに、隣に温もりがあれば幸せだ。

広いベッドの上で眠りにつくのは、いつも私一人だけ。
仕事の時間帯が違うこともあって、なかなか会えない日々が続いている。何より、一番偉くて、強くて、忙しい私の恋人は、帰ってくることすら稀なのだ。それでもいい、と思ったのは嘘じゃないけれど。

一人は、少しだけ寂しい。

おやすみ、と小さく呟いて電気を消した。
真っ暗になった部屋には、私以外の気配なんてなかった。







「……」

休日でも朝早くに目が覚めてしまうのは、悲しきかな、社会人の性なのかもしれない。ぼんやりとする頭でしばらく天井を見ていると、隣に、寝る前にはなかった温もりがあることに気づいた。

私の横で寝息を立てているのは、恋人のザンザスだった。普段は威圧的で殺人的に悪い目付きをしている彼も、寝ているときはおとなしい。思わず笑みが浮かんだ。
しばらく寝顔を拝んでいたが、不意にのどの渇きを覚えた。起きて、紅茶でも飲もう。それから、休日らしく二度寝を堪能しようか。滅多に帰って来ることのない、彼の隣で。
そう思い、隣のザンザスを起こさないように注意しながらベッドを抜け出す―――

「……オイ、どこ行く」

―――のは、やっぱり無理だった。今までぐっすり寝ていたのに。職業病というやつだろうか。

「ごめん、起こしちゃったね」
「……」

ザンザスは、カーテンの隙間から入り込む朝日に眉を寄せつつ、こちらを見ている。

「まだ寝てていいよ」

そう言って、ベッドから立ち上がろうとしたのだが、それはお腹に巻きついた腕によって阻止された。強く引き戻され、再びベッドに倒れこむ形になる。そのまま、ザンザスの腕に捕まってしまった。

「わっ…ちょ、ザンザス…」

ぎゅうと抱きしめてくる腕から逃れようと、抵抗するが、まったくびくともしない。
彼は全く気にした様子もなく、寝起きの低い掠れ声で呟いた。


「大した用もねえのに、俺から離れようとしてんじゃねえ」


そしてフン、と鼻を鳴らす。
それからすぐにまた、小さく寝息が聞こえてきた。

私は、と言えば。

「……もう…、」

不意打ちなんて、本当に卑怯だ。

頬がひどく熱い。普段会えない上、会えたってそこまでストレートに伝えてくれたことは、数えるほどしかないのに。

せっかくの休日。朝早くからばっちりと目が覚めてしまって、二度寝すらままならない。

でもこんなのも、悪くないと思うのはきっと。隣に、ザンザスがいるからだと思うのだ。

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