本番で主力戦前夜祭

私が未来に来てから一週間ほど経った。いよいよ明日は敵対するマフィアに奇襲する日らしく、今はその前夜祭のような感じで、みんなで宴会をしている。

本来なら私はここにいたらダメだと思うんだけど、ベルくんとフランくんに「まあいーんじゃね?」「大丈夫ですよー多分」と信じて良いんだか悪いんだかわからない曖昧なノリで連れてこられた。そんな二人は私をほったらかしにして、離れたところで絶賛殺し合い中である。笑うしかない。
とりあえず、邪魔にならないように壁際に寄ると、ルッスーリアさんが近付いてきた。

「なまえちゃん! 来てたのね〜。あ、ジュースでもどう?」
「ありがとうございます」

ルッスーリアさんが差し出してくれたオレンジジュースを受け取る。

「そういえばなまえちゃん、平隊員とは初めましてよね?」
「はい」

私は基本、幹部の皆さんと一緒にいさせてもらっていたので、幹部でないヴァリアーの皆さんとはこれが初対面だ。思ったより人数が多い組織だったらしい。
そして、幹部でない皆さんは、「えっ、誰?」みたいな顔でこちらを伺っている。気まずい。
何となくそわそわしながらジュースを飲んでいると、ヒソヒソと小さな声が聞こえてきた。

「おい、あれ…姐さんの横にいるのって…」
「女の子だ」
「女の子がいる」
「どうする」
「おお俺に聞くなよ!」
「あっ、オイ! 見ろ! 動いた!」
「ジュース飲んでるぞ!」
「すげぇ! 女の子が動いてる!」

もしかして:ツッコミ待ち

思わず声の聞こえた方を見遣ると、遠巻きにこちらを眺めていたらしい隊員さんの一人と目が合った。その人は一瞬で固まってしまった。

「…? …おい! どうしたロバート!」
「ロバートが! ロバートが動かなくなっちまった!」
「ロバートぉおお!」
「おい誰かそっち持て! 医務室連れてくぞ!」

……えっ、…えっ? と私が戸惑ってるうちに、ロバートさんはお仲間の何人かによって連れていかれた。残った隊員さんたちは、心配そうな顔で「大丈夫かなロバート」「シャイなくせに…女の子と目を合わせたりするから…」と話していた。

それを見ながら、私は唇を噛む。

「……っ」
「なまえちゃん?」

……悔しい。
14年間生きてきて、こんな気持ちは初めてだ。

「……して…」
「え?」

どうして私には、ツッコミが出来ないんだ!

あれだけのボケを見せられて! 私は! ツッコミの一つも! 入れられないなんて! 隊員さんたちのボケを! 殺してしまうなんて! ボケ殺しは一番辛いことだと分かっていながら…!

自分の無力さに泣けてくる。

「はっ…そうだ! 沢田くん! 沢田くんはどこですか!」
「なまえちゃん!? どうしたの!?」
「ルッスーリアさん! 私、沢田くんに会わなくちゃいけません! どこに行けばいいですか!?」

沢田くんに会って…ツッコミの指南をしていただかなくては!

私がルッスーリアさんに詰め寄っていると、少し離れたところで何かが割れる音と、スクアーロさんの「ゔぉおいザンザスてめぇえぇ!」という叫び声が聞こえてきた。何事。
振り返ると、スクアーロさんに向かってテーブルを投げ付けるザンザスさんが見えた。えぇ、ホントに何事?

「…あらあら、ボスったら。妬いちゃったのね」

隣でルッスーリアさんが笑う。

「なまえちゃん、行ってくれるかしら?」
「え!? あの殺傷能力高めな空間にですか!? む、無理ですよ!」
「大丈夫よ、なまえちゃんなら!」

とてもイイ笑顔だ。鬼畜かこの人。実は私のこと嫌いなのか。殺したいくらい嫌いなのか? どうでもいいけど、殺したい、まで行くとちょっと愛を感じる気がする。巷で噂のヤンデレな匂いがする。…怖いな。

「さ、なまえちゃん! ほら!」
「え、ちょ、ルッスーリアさん!? 押さないで下さ……ぎゃあ!」

押されて躓いた私は、より殺傷能力の増している空間を逃げ惑っている隊員の人にぶつかって、誰かの足元に、びたん! と思いっ切りうつぶせの形になった。
恐る恐る顔を上げると、眉根を寄せたザンザスさんと目が合った。とりあえずもう一度、顔面を床に擦り付けた。…えぇ…ザンザスさん何か不機嫌やないですか……。

「……」
「……」
「……」
「……いつまで寝てんだ」
「はいすみません」

瞬時に体を起こして正座する。すると眉間のシワを濃くしたザンザスさんが、私の腕を掴んで立たせた。

「汚ぇだろうが」

ザンザスさんが腕を引っ張って、隣に私を座らせた。優しい。………そして何故かとても見られている。隊員の皆さんにとても見られている。何でだ。
若干の居心地の悪さにもぞもぞしていると、相変わらず不機嫌そうなザンザスさんが私に呼び掛けた。

「おい、なまえ」
「何ですか?」
「……沢田綱吉に会いたいのか」
「? まぁ、はい」

友達だし、それにツッコミも教わりたいしね。一瞬隣から憎悪のような空気を感じたが、多分気のせいだ。
私が目指すのは、そう。ツッコミのできるボケキャラ! ボケるのは私だけじゃない! 沢田くんのいない場で、不測のボケが起こっても対処できるように! 補欠として!

「備えあれば憂いなしですからね!」
「……あ?」
「沢田くんがいなくても、私がツッコミを入れられるようになってみせますから! 今度沢田くんにご指導ご鞭撻してもらってきますから!」

任せてください! と拳を握って力説すれば、ザンザスさんは目を丸くした。それから、すぐに「ハッ」と笑い、私の額を軽く拳で叩いた。

「いらねぇよ」
「え?」
「お前は沢田のとこなんかに行く必要はねぇ。ここにいろ」

なんと! 沢田くんの所に行かぬならば、私は誰に教えを乞えばよいのだろうか。

そんなことをザンザスさんの横でずっと考えていたわけだが……今日の結論。ツッコミで沢田くんの右に出るものはいない。ガッテンして頂けただろうか?

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