あさきで並盛三人組と・山本寄り

その日、なまえは日本に来ていた。殺しの依頼を受けてのことだ。
話を聞いたときは、わざわざ海外の殺し屋である自分に依頼するなんて、とは思ったが、なまえは特に仕事を選ぶ人間ではない。確かに相手は強ければ強い方が楽しいし、その方がやる気も出る。だが、場所や報酬にこだわりはしない。与えられれば、彼女は基本的に依頼を断ることはないのである。

今回のターゲットは、楽しめるほどには強くなかった。つまらない仕事ならば早めに終わらせるに限る。
そんなわけで仕事は拍子抜けしてしまうほどあっさり終わってしまったが、余裕を持って日程を組んだため、急いで帰る必要はない。
なまえは、少しのんびりしていこうかと思い、街中を歩いていた。

ここのところ、働き詰めだったような気がする。
当たり前ではあるが、裏の仕事には労働基準法などは関係ない。依頼があれば一日だけで何人も殺すし、なければないで書類などの事務作業が待っている。休みはザンザスの機嫌が良いときにたまに与えられるくらいだ。もちろん滅多にあることではない。残念ながらなまえには、自分から休みを申請する勇気はないのだ。

───とりあえず、ホテルに帰って寝ようかな。

欠伸をしながらも歩みを進めていると、向かいから見覚えのあるスーツ姿の赤ん坊がやって来るのが目に入った。
彼女が驚いて足を止めると、相手もどうやら気が付いたらしく、こちらに向かって気さくに手を挙げてきた。

「ちゃおッス」
「こんにちは。お久しぶりです」

なまえはリボーンに向かって頭を下げる。

「珍しいな。お前が日本にいるなんて」
「ええと、仕事で…」
「そうか」
「……」

元々、親しい仲であるわけもない二人だ。すぐに沈黙が訪れてしまった。無表情のリボーンに、なまえは何だか気まずさを感じて「それじゃあ、私はこれで…」と別れを告げようとした、その時。

「あ! お前!」
「ちょうど良いところに! ソイツ捕まえて!」
「え…」

突然聞こえてきた声に、なまえは目を丸くする。反射的にリボーンに手を伸ばすが、彼はヒョイッとそれを避け、道の向こうに消えてしまった。

「ああ! 行っちゃった…」
「テメェ何しに来やがった!」
「久しぶりなのなー」

リボーンの去って行った方を見ていたなまえが振り向くと、綱吉と獄寺、山本の三人が立っていた。浮かべている表情はそれぞれ三者三様である。
綱吉はがっかりした顔でリボーンが消えた方を見ていて、獄寺は警戒心の篭った目でなまえを睨み付け、逆に山本は笑顔でなまえを見ている。

何だか面倒なことに巻き込まれそうだ。
なまえは零れそうになるため息を慌てて押し込んだ。







「はぁ、なるほど…」
「だからさ、なまえも協力してくんない?」

お願い! と手を合わせて頼まれ、なまえは困ったように眉尻を下げた。


綱吉の話はこうだ。

この前の小テストが今日帰ってきたのだが、彼はそのテストでクラス最低点を更新した。それは割と日常的なことだったが、今日は彼の想い人が風邪で学校を休んでいたのだ。心配だけど、知られなくてラッキーと思っていた綱吉。放課後、想い人のお見舞いに行こうとした彼から、リボーンは小テストを奪い、「制限時間内に捕まえられたら返してやる」と宣った。捕まえられなかったら、わざわざ想い人の家まで行って最低点更新をバラす、と脅され、今現在は鬼ごっこの最中なんだと。


「お願いします!」
「あのー…」
「十代目! こんな奴に頭を下げる必要はありません!」
「ははっ」
「……あの、制限時間は大丈夫なんですか?」

首を傾げて聞いたなまえに、三人がハッとした顔をする。

「やべー! どうしよう!?」
「大丈夫です十代目! まだ時間はあります!」

いきなり狼狽え出した綱吉に、思わずなまえは

「お…落ち着いてください。私も手伝いますから…!」

と言ってしまった。口に出したあとに、すぐ後悔したが「本当!? ありがとう!」と笑顔で言われては、もう無理だとは言えず、なまえは曖昧な笑みを浮かべた。

かくして、彼女も鬼ごっこに付き合わされるハメになったのである。

「じゃあ手分けしよう! 俺と獄寺くんでこっち探すから、山本となまえはそっちお願い!」
「よろしく頼むなー」
「こちらこそお願いします」

明るい笑顔の山本に、なまえも自然と笑顔になる。

───話し易そうな人でよかった…。

明らかに自分を敵視している獄寺でなくて、どちらかと言えば好意的な山本とペアになったことに、なまえは安堵のため息を吐いた。

すぐに綱吉、獄寺と別れて、山本と共に歩き出す。ペースは少し速めで。

この辺りの地理に明るくないなまえは、山本の後に着いて行きながら周りを注意深く見遣った。

「……見つかりませんね」
「小僧はかくれんぼも得意そうだしなー」

路地や草むらを覗きながら歩く。

「あの、結局…制限時間って、どのくらいなんですか?」
「んー…あと三十分くらいだな」

携帯を見て答える山本。なまえは小さくため息を吐く。どう考えても、無理だろう。

「疲れたか?」

彼女のため息を勘違いしたのか、山本が気遣うように声をかけた。なまえは慌てて否定する。

「い、いえ…大丈夫ですから」
「そうか?」
「はい。お気遣いありがとうございます」

なまえ笑って礼を言ったと同時に、彼女に向かって横から誰かがぶつかってきた。
軽くよろけた彼女を、山本が支える。

「おいおい姉ちゃん、道の真ん中で立ち止まってんじゃねぇよ」

そこにいたのは、数人の男達だった。ぶつかってきたのは、一番前にいた、サングラスを掛けている厳つい男だった。

「はぁ…すみません…」
「おー、イテテテ……ぶつかったせいで肋折れちまったみてぇだ…」
「大丈夫っすかアニキ!」
「てめぇアニキに何してくれてんだよ!」

普通に考えて、今の衝撃で折れるはずはない。

───きっと、骨が弱い人なんだなぁ。

なまえは妙な方向に納得し、先程歩いて来た道を指差した。

「あの…まっすぐ行けば、病院がありますから…」
「あぁ?」

予想外の返しだったのだろう。男達は一瞬意味の分からなそうな表情をした。
それを見ていた山本が、苦笑気味に言葉を挟む。

「スンマセン、俺達今急いでるんで、見逃してくんねーっすか?」
「はぁ? …お前人様を骨折させといて、謝っただけで済むと思ってんのか? 悪いと思ってんなら誠意見せろや」
「やっぱダメか…」

今度こそ本当に苦笑した山本は、なまえに視線を映した。

「わり。ちょっと下がっててくれっか?」
「はあ…?」
「おい聞いてんのか、このガキ」

取り巻きの男が山本の胸倉を掴む。それを見たなまえは構えるが、山本自身が彼女を手で制した。

「大丈夫だって」

そう言いながら、胸倉を掴んでいた男の手を捻り上げた。

「痛ぇえ! はな、離しやがれ…!」
「ほんとスンマセン、俺達急いでんで」
「ガキが…調子こいてんじゃねぇぞ!」

横から殴り掛かってきたもう一人の拳を避けつつ、その一人をカウンターで沈める。

結局、5分も掛からずに全員を倒した山本。なまえはただ、それを見ていただけだった。

「待たせたな、そんじゃ行くか!」

振り返って笑う山本を、なまえは不思議そうに見つめる。

「…あの…何で、私のこと止めたんですか?」
「ん?」
「二人でやった方が、楽だし早かったと思うんです、けど…」

目を逸らしながら尋ねる彼女に、山本が「あぁ」と頷いた。


「アンタが強いことは知ってっけどさ、女子にケンカさせるわけにはいかなくね?」


な? と明るく笑った山本を見たなまえは、目を丸くする。

───…女の子扱いされたの、初めて…。

ヴァリアーでは、そんな風に扱われたことは一度もなかったため、何となくくすぐったい。

「あんま時間ねえし、今度はあっち探してみるかー」
「…はい」

少し嬉しくなったなまえは、笑みを浮かべ、歩き出した山本を追った。

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