ベルで死ネタ「ベルくん、」
幸せそうにオレの名前を呼ぶ声が好きだ。
目が合った時に照れたように笑う顔が好きだ。
抱きしめると少しだけ躊躇いながらも背中に回してくれる腕が好きだ。
「ねぇ、ベルくん」
暖かい手が好きだ。
さらさらの髪も。
すぐ赤くなる頬も。
だけど、
「仕方ないんだよ」
困ったように眉尻を下げて、諦めたように笑う顔だけは好きになれなかった。
頑張ったってどうにもならないことがあることくらい知ってた。だけどそれがまさか自分に降り懸かるなんて思う訳無いじゃん。
「泣かないで」
・
・
・
病気、治らないんだって。
白い病室で白い病院服を着たなまえが小さく呟いた。
「……は、」
オレは口を開けてなまえを凝視するしかできなくて、それを見たなまえは心底可笑しそうに笑った。
「王子様の間抜け面って、なんかシュールだね」
「お前…」
「ごめんごめん」
それは謝って欲しかったんじゃなくて。
「……治らないって、どういうことだよ」
自分でも驚くくらいに低い声が出た。
なまえは一瞬目を丸くして、それからすぐに俺の嫌いな表情を浮かべて言った。
「仕方ないよ」
・
・
・
「ねぇ泣かないで。ベルくんに泣かれると、どうしたらいいかわからなくなっちゃう」
泣いてねぇし、って言った声が震えてて、頬に手をやったら水滴が指についた。何これ、王子めちゃくちゃダサいじゃん。
「笑ってほしいな」
そう言って、自分も笑うなまえは呆れるくらいにいつも通りで、自然とオレの口角も上がった。
だけど二人で笑ったって現実は変わらないわけで。一瞬で沈黙が降りた。
「……ベルくん」
しばらくしてからなまえがオレの名前を呼んだ。
「お願いがあるんだ」
「…何だよ」
なまえは相変わらず薄く笑みを浮かべていた。
「私が死ぬ前に、殺して欲しい」
・
・
・
『ベルくん、』
幸せそうにオレの名前を呼ぶ声が好きだった。
目が合った時に照れたように笑う顔が好きだった。
抱きしめると少しだけ躊躇いながらも背中に回してくれる腕が好きだった。
『ねぇ、ベルくん』
暖かい手が好きだった。
さらさらの髪も。
すぐ赤くなる頬も。
『仕方ないんだよ』
困ったように眉尻を下げて、諦めたように笑う顔も本当は嫌いじゃなかった。
だけど、
『泣かないで』
……だけど、
『ありがとう、大好きだったよ』
もう全部なくしてしまった。