まほうでレギュラスとデート「休みだからって家から出ないのは、いくらなんでも不健康ですよ」
夏休み中、家でだらだらしていた私に、レギュラスが非難するように言ってきた。
「えー…」
「ほら、天気も良いみたいですし、庭で水遊びとか」
「お前私を何才児だと」
とりあえず、ソファから体を起こす。外出か……あ、そうだ。
「レギュラスさ、今日何か予定ある?」
「え…特にはないですけど」
「じゃあ出掛けよう」
「はあ、気をつけて行ってきてください」
「何でだよレギュラスも行くんだよ」
「ええー」
「ほらほら、早く!」
不満げなレギュラスの手を取って、姿くらましをした。
ホグズミードの外れに姿あらわしした瞬間、レギュラスが私の頭を叩いた。
「痛いっ!」
「本当に先輩はたまに死ねばいいと思います」
「真顔は傷付くなぁ」
もちろん冗談だと分かっているので笑顔で応対する。……え、冗談だよね?
「何で僕まで…」
「いいじゃん一人は寂しい」
「気持ち悪いです」
いつにも増して毒舌だぜレギュラス。やっぱ無理矢理じゃ怒るよね。
「ごめんね」
「……」
「気持ち悪くて」
「謝るのはそこですか」
ハァ、とため息を吐いたレギュラスは渋々といった感じで「……分かりましたよ」と言った。
「わぁいありがとうレギュラス!」
私が笑うと、レギュラスはまたため息を吐いた。
「じゃあそこの喫茶店で休もうか」
「外に出てきた意味全然無いじゃないですか」
「ぐぇ」
颯爽と歩き出した私の襟首を掴んだレギュラス。本気で首が絞まった。
「ゴホッ…おまっ……テンプレな引き止め方すんな…ゴホッ」
「この引き止め方がテンプレなら今頃何人か死んでるでしょうね」
「つまりアレだ君ちょっと本気で私を殺そうとしたわけだね」
そっと目を逸らされた。お前…。
「まあまあ先輩、元気出してください。ほら、フリスビーありますよ。投げるから取ってきてくださいね」
「何でフリスビー。ていうかお前私を何だと思ってんの犬じゃねぇから」
「犬だとは思ってませんけど……ただ遊んであげようと思って」
「その若干の上から目線何なの? ていうかフリスビーならシリウスにやってあげなよ」
「…何言ってるんですか」
レギュラスは、私のセリフに眉根を寄せた。
やべ、怒ったか? やっぱ兄を馬鹿にするのはダメだったか…。いや馬鹿にしたわけじゃないけど。だって犬だし。
「あの人にフリスビーを取ってくる脳があるとでも思ってるんですか?」
「ねえシリウスって確かレギュラスのお兄さんじゃなかった? あれ? 記憶違い?」
何だこの辛辣さ。
「まあとりあえずさ、喫茶店行こうよ」
「先輩って本当に休むことしか考えてないんですね」
まあ良いですけど、と言ったレギュラスと一緒に歩き出す。
「奢ってください」
「お前女の子にたかるなよ」
「先輩なんだから後輩には優しくしてくださいよ」
すれ違った人が、何だか興味深そうな顔でこっちを見てきた。
私たちは、同時に足を止める。
「レギュラス」
「はい」
「分かってるよね」
「もちろんです」
コホン、と咳ばらいしたレギュラスはチラッとこっちに目をやって口を開いた。
「……行きますよ、なまえ」
「はい、お兄ちゃん」
ガンッ
「〜〜〜っ」
「無駄な設定はいりません」
ちょっとした冗談なのに…今こいつガチだった。こわい。
「ああ、そうだ。喫茶店に行った後は、夕飯の買い物に行きましょう。今日は何食べたいですか?」
「えーとね、」
「作るのはクリーチャーなんですから、あんまり大変なものはリクエストしないでくださいね」
「…分かってるよ」
こいつクリーチャーに優しすぎだろ。その優しさこっちにも向けろよ。
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喫茶店でのんびりした後、側の店で夕飯の買い物をした。店のおばさんが「兄妹で買い物? 仲良しね〜」と言ったので、レギュラスはとても複雑そうな顔をしていた。私は笑いを堪えるのに必死だった。
「今日は疲れました…」
「まあ、たまにはこんな休日も楽しいでしょ」
笑った私の言葉に、レギュラスはため息を吐いてから笑った。
「…10年に一回くらいなら良いかもしれませんね」
「どんだけ嫌だったの」