ヴァリアーとボケキャラ夢主

ヴァリアーのアジトの談話室。
この日は珍しく幹部が勢揃いしていた。思い思いに過ごす彼らの(比較的)穏やかな空気を壊すように、部屋のドアが勢い良く開いた。ズバァンッ! と扉の開閉音とは思えないような凄まじい音に、皆が一瞬びくりと肩を揺らした。空気だけでなくドアまでもが壊れてしまったわけである。

「うぉ゙ぉい!! もっと静かに入って来れねぇのか!」
「無理」

注意したスクアーロの言葉をスパッと切り捨てたなまえ。逆にスクアーロはもっと静かに喋れないの、と思うだけで言わないのは彼女なりの優しさだ。
彼女は真面目な顔で部屋を見回して、ベルの隣に腰掛けた。彼は面倒な雰囲気を察して明後日の方を向いたが、なまえは気にすることもなく口を開く。その表情は、相変わらず無駄に真剣なものだった。

「ねえベル、」
「今王子忙しい」
「聞けよ。もしかしたら私死ぬかもしれないの」
「え、死ねば」
「冷たい! 傷付いた! きーずーつーいーたー!」
「うっせ」
「さーせん」

ベルにナイフをちらつかされ、なまえは一瞬で土下座の体勢を取った。フレッツもびっくりな光の速さである。その様子を見て、向かいのソファにいたルッスーリアが笑った。

「で、なまえちゃんはどうしたの?」
「そう! 聞いてルッスーリア! 私、口から心臓が出そうなの!」
「えぇえ!?」
「うわっ、出すならあっち向いて出せよ!」

シッシッと追い払うように手を振るベル。ルッスーリアはなまえの肩を掴んで揺さぶる。

「だだだ大丈夫なのなまえちゃん!? 医務室行きましょう! あ、その前に私の匣!?」
「待って痛いルッスーリア痛いよ肩折れる鎖骨が折れます止めて」
「あらっ、ごめんなさ〜い」

パッと手を離され、なまえは膝から崩れ落ちた。もう少しだけでいいから丁寧に…と思うのは私の我儘なのだろうか……と彼女は思った。

「えー、凄いじゃないですかセンパーイ。今すぐ出してみてくださいよー」
「いくら可愛いフランの頼みでもそれは聞けないんだけど私の話は聞いて!」
「うわ、おーぼー」
「うるさい聞け! 私恋しちゃったみたいなんだよ!」
「……」

一瞬落ちる沈黙。

「「「ハァっ!?」」」

わー凄いハモりー、と呑気に笑ったなまえ。

「おまっ……妙なこと言うんじゃねぇえ゙!!」
「ええっ、妙ってどういうこと!? いくらなんでも酷すぎない!?」

叫んだスクアーロの言葉に憤慨するなまえ。

「そもそもお前は…その、……恋、というものが何だか分かってるのか?」

恋、と言った時にうっすら頬を赤らめたレヴィに、ちょっとキモいな…と思いながらもなまえは自信満々に頷いて見せる。

「もちろん! ちゃんとルッスーリアに聞いたことあるから!」
「ほう」
「その人のことを考えるだけで心臓がバクバクいって、それで対峙しちゃった時なんか頭真っ白になっちゃうのが恋でしょ?」
「……まあ、間違ってはない…のか?」
「それで、相手は誰なの?」

嬉々とした表情のルッスーリアに尋ねられたなまえは、途端に冷や汗を流してガタガタと震え出し、辺りをキョロキョロと見回し始めた。
あまりにも挙動不審な態度に、「あ、コイツ絶対何か勘違いしてんな」と皆が察した。

「え、えっと……その…、ぼ、ボスのことが…」
「ぶっ」
「ベルちゃん!」

思わず吹き出したベルに、ルッスーリアが鋭い視線を向けた。
肩を震わせているベルをなまえの視界に入らないように、さりげなく移動してから、ルッスーリアはなまえの方を向く。

「それで…どうしてボスなのかしら?」

彼女は相変わらず尋常じゃない程に震えて、自らを抱きしめるように体の正面で両腕を交差させている。

「こ、この前…しょりゅっ…書類を……」
「なまえちゃん落ち着いて」

宥めようとルッスーリアが肩に手を置くと、なまえは「ひぃっ」と悲鳴を上げた。

「あ、ご、ごめん…ルッスーリア…」
「……大丈夫よ」
「そんなことより、早く話してくださいよー」

完全に面白がっている口調のフラン。いつもなら突っ掛かるなまえだが、何も言わずに再び話を始めた。





その日、なまえは任務の報告書を持ってザンザスの部屋に向かっていた。
いつも通りにノックをして、「失礼しまーす」と明るく扉を開いた瞬間、頭の横を銀色の何かが、明確な殺意を持った勢いで通過した。

「へ…」

正面には、明らかに「今投げました」という格好のザンザスと、今の物体を避けたらしい体勢のスクアーロ。
地味にチリチリと痛む耳に触れると、指先には赤い液体。

ゆっくりと振り返ると、目の前には亀裂の入った壁と、亀裂の中心に突き刺さった鋏があった。





「それからというもの、ボスのことを考えるだけで激しい動悸息切れ目眩ついでに足の震えが止まらなくて」

……なまえ、それ恋ちゃう。恐怖や。
皆の心が一つになった瞬間だった。

「えっと…」

とりあえず何か言わねば、と口を開いたルッスーリアの言葉を遮るように、談話室の扉が開いた。

「……るせぇぞドカス共、何やってんだ」

眉を寄せたザンザスが入ってきた。
同時になまえが震え出す。真っ青な顔をして、歯がぶつかってカチカチと鳴るほどに震えている彼女を見て、ザンザスが怪訝そうな表情で、なまえに向かって手を伸ばした。

「……おい、」
「ひぃあああぁぁああぁあすみませんでしたぁあ!」

悲鳴を上げてザンザスの手を避けると、先程のベルに対する土下座よりも俊敏な動きで部屋を出て行った。
行き場をなくした手を下ろして、なまえが去っていった扉を見つめるザンザス。

「…ふっ」

耐え切れずに吹き出してしまったのは誰だったのか。
瞬間的に談話室は跡形もなく吹っ飛んだ。



数日後、何とかなまえの恐怖を払拭しようとする幹部たちの姿が見られたが───それはまた別の話である。

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