「つまらない嘘に動揺する」でデレるレギュラス

レギュラスくんに「嫌いだ」と嘘を吐いたあの日から、何となく二人で過ごすことが多くなった。
特に二人でいなければならないわけでも、何か話をしたりするわけでもない。だけど何となく、一緒にいることが当たり前になりつつあった。

そんなある日。

「好きです」

告白現場に遭遇してしまった。しているのは同じ学年のレイブンクロー生で、されているのはレギュラスくんだ。のぞき見は趣味が悪いよな、なんて思いつつ物陰から見守る。気になるのだから仕方がない。
私のいる位置からはレギュラスくんの表情はまったく見えなかった。

「……すみませんが、僕には付き合っている人がいるので」

それでは、とレギュラスくんは大広間の方に去って行った。女の子は呆然としていたが、しばらくして寮の方に向かった。多分、泣いてた。

私はといえば、物陰から出ることもできずに突っ立っていた。


『すみませんが、僕には付き合っている人がいるので』


女の子に向かって言ったレギュラスくんのセリフが、脳内でリピートされる。まるで直接私に言われたみたいに。


───レギュラスくんには、彼女がいるのか。


「知らなかった」

言葉にしたら、より重くなった。
鉛のようなものが、ずしりと心にのしかかる。


もしかしたら私は、少し舞い上がっていたのかもしれない。

レギュラスくんに、「嫌いじゃない」と言われた。

───だから、何?

嫌いじゃない、から、何だっていうんだろう。


つ、と何かが頬を伝った気がして、触れてみたけど、相変わらず渇いたままだった。







「どうかしたんですか」

声を掛けられて、はっと顔を上げる。目の前には無表情のレギュラスくんがいた。

「早くしないと、閉館の時間になってしまいますよ」
「う、うん」

閉館間際の図書室で、二人でレポートを仕上げる。

……彼女がいるなら、こんなことをしてちゃダメなんじゃないのかな。
そう思ったけどレギュラスくんの近くは心地がよくて、離れ難いと思ってしまう。

もしかしたら告白を断るために嘘を吐いたのかもしれない、とか。
くだらない希望みたいなのが、ぐるぐる回り続けている。
だけどレギュラスくんはそんな嘘を吐いたりする人じゃない。ずっと見ていた私が、一番よく知ってるんだ。

「また手が止まってますよ」

レギュラスくんに言われて、見ると羊皮紙には黒い染みが出来てしまっていた。

「あーあ…」

やっちゃった、と鞄から杖を取り出して振ると、染みは綺麗さっぱり消えてなくなった。

「…何かあったんですか?」

少しだけ心配そうな(もしかしたらそれは私の願望なのかもしれない)表情で、レギュラスくんが言う。
だけど、理由を言えば、きっとレギュラスくんは呆れてしまうだろう。くだらない、と思うに決まってる。それが私にとってどんなに大事でも、彼と私の価値観は違うのだから。

「何でも…」
「ちゃんと話してみてください」

ないよ、とごまかそうとした私の言葉を遮ったレギュラスくん。

「本当に、何でもないんだよ」

適当に笑って流そうとした私に、レギュラスくんが顔をしかめた。

「……僕は、そんなに頼りないですか?」
「…え?」
「僕なんかに悩み事を話しても意味はないと思ってるんですか」

急にそんなことを言われて、混乱してしまった。とりあえず誤解をとかないと。

「違うよ、そうじゃなくて…」
「なら話してください」

また遮られた。レギュラスくんは真っ直ぐ、ともすれば睨むような勢いで、私を見つめてくる。今日はどうしたんだ。ちょっといつもと違う。
羽ペンを置いて、完全に話を聞く態勢になったレギュラスくんに合わせ、私も羽ペンを置いた。

「……レギュラスくんは、」
「はい」

意を決して、言葉を紡ぐ。


「今、付き合ってる人いるの?」
「…………は?」


ぽかんと私を見つめるレギュラスくん。ああ、これは初めて見る表情だ。

「何言ってるんですか…」
「え?」
「僕……貴女は…」
「……何て?」

レギュラスくんが小さな声で呟くので、まったく聞き取れない。ぶつぶつと何か言っているレギュラスくんに、私はまずいことを聞いてしまったのだろうかと不安になった。

しばらくして、勢いよく顔を上げたレギュラスくんは、謎が解けたみたいな、すっきりとした表情だった。

「そうか、……分かりました」

そう言って、レギュラスくんが姿勢を正してこっちを見たので、私も同じように居住まいを正す。

「なまえさん、」
「…はい」
「僕は貴女が好きです。付き合ってください」
「……は、」
「ちゃんとは言ってなかったですよね。すみません」

レギュラスくんは、こっちが恥ずかしくなってしまうくらい真っ直ぐ、私に目を合わせた。

「好きなんです、なまえさんが」
「え、えっと…」

混乱する頭で、何とか言葉を搾り出す。

「…私も好きです」
「はい、知ってます」

ふわりと微笑んだレギュラスくんは、「さて」と言って羽ペンを持った。
再びレポートに取り掛かるレギュラスくんは、耳まで真っ赤だった。

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