まほうでリーマス

「先輩、家の掃除するんですけど」
「うん」
「捨てられたくなかったら外で時間潰して来て下さい」
「え!? 何それ私ゴミってこと!?」
「否定はしませんけど」
「しろよ!」
「いいから早くどっか行ってください」
「……ばかやろーっ! レギュラスなんか掃除中に元カノの思い出の品が出てきて回想に浸って掃除はかどらなくなっちまえ!」
「夕飯までには帰ってきてくださいね」



と、言うわけで、私は今リーマスの家にお邪魔している。財布を持って来なかったので、どっかの店に入るわけにもいかなくて、知り合いの家といったらリーマスしか思い浮かばなかった。

……薄々は感じてたんだけど、

「私って…友達少ないよね」
「え?」

私の正面に座ったリーマスが、目をぱちくりと瞬かせた。

「急にどうしたんだい?」
「…いや、大丈夫。小数精鋭なだけだから」
「?」

はいこの話題終わり。
自己完結して、リビングを見回す。

「それにしても、リーマスの家はいつ来ても綺麗だよね」
「ああ、まあ結構こまめに掃除してるからね」
「そうだよね! 掃除って普通は毎日少しずつやるものだよね! レギュラスに言ってやってよ! ……ていうか大掃除しなきゃいけないほど家汚くないのになぁ」

首を傾げた私に、リーマスが言った。

「レギュラスはレギュラスなりに気を使ってくれたんだと思うよ?」
「えぇ…?」

私のことをゴミ扱いするレギュラスが気を使ってる…だと?
表情に出ていたらしく、苦笑いされた。

「なまえは、休みになると面倒臭がって部屋から出ないだろう?」
「……言われてみれば」
「たまには気分転換しないと、不健康だしね」

にっこりと笑ったリーマス。
なるほどなるほど、確かにそうかもしれない。レギュラスは素直じゃないからなぁ。帰ったら肩でも叩いてあげようか。

「優しいねぇ、リーマスは」
「…私かい?」

私が言うと、リーマスが驚いた顔をした。

「うん」
「どうして?」
「だって、私の話聞いただけでそこまで考えられるんだよ? 私なんか冷たい奴だなぁとしか思わなかったし。それに、多分リーマスの言ったこと当たってるから」

レギュラスも何だかんだ優しい子だからね。

「優しい人の素直じゃない行動、ちゃんと分かるのは優しい人だけでしょ?」
「……その結論に持って行けるなまえも、十分優しいと思うけどね」

リーマスが優しく微笑んだ。私は頭の後ろに手をやりながら笑う。照れるなぁ、もう。

「まあレギュラスのことだから、口実でもちゃんと掃除してんだろうけど」
「そうだね」

言ってくれれば手伝うのに…。…私の部屋もやってくれてるみたい、だし……

「あああああ! そうだ!」

私がいきなり叫んでしまったため、リーマスが手にしたカップを落としそうになっていた。

「突然、なに…」
「ごめんリーマス!」
「え? な、何が?」

怪訝そうな顔でこっちを見た。

「私の部屋!」
「え? え?」
「リーマスにお世話になってた時に借りてた部屋!」
「……ああ」

しばらく考えてから思い出したらしいリーマスが、ぽん、と両手を叩く。

「あの部屋どうなってる!?」
「全部そのままだよ」
「うわああごめんね! 片付けんのすっかり忘れてた! 今からやるよ!」

基本的には大したものは持ち込んでないから、全部捨てるか。と、立ち上がりかけたとき。

「別にいいよ」

ところが、リーマスから返ってきたのは予想外の言葉だった。腰を浮かせた体勢のままで、私は動きを止める。

「え……だって邪魔でしょ?」
「邪魔じゃないよ。わざわざ一部屋空けてまで収納しなきゃならないものもないし」
「ええ、でも…」
「いいんだよ」

ココアを飲みながら、少しだけ照れたように笑った。

「…実は、わざとそのままにしてあるんだ」
「……へ?」
「いつでもなまえが戻って来れるように、さ」

リーマスが柔らかな笑みを浮かべる。

「だから、片付けなくていいんだ」

思わず、目の前の人物を凝視してしまう。

「……私、来てもいいの?」

尋ねた言葉に、彼はわざとらしく驚いて見せた。それからすぐに、にっこりと明るく笑う。


「当たり前じゃないか。ここは、君の家でもあるんだから」


そう言ったリーマスの表情は本当に柔らかくて。

この人は、どこまでも優しい人なんだなぁと改めて思った。


「ありがとう、リーマス」
「うん」
「今日は、夕飯までに帰ってこいって言われてるから無理だけど」
「うん」
「……休み中に、泊まりに来るね」

リーマスは笑って頷いてくれた。

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