「なまえ! 買い物行こうよ!」
「……はい?」
ブルーベル様の突然の提案に、私は思わず目を丸くした。そんな私を見ながら、彼女は至極楽しそうに続けた。
「びゃくらんがね、『ずっとアジトにいたらカビ生えちゃうよー? なまえちゃんとショッピングでも行ってくれば? ウィンドーショッピングでも気分転換にはなるでしょ』って」
「はあ、なるほど」
「だから行こう! 支度してきて!」
「…わかりました」
あまりにも突然すぎて驚いたが、とりあえず頷いて、着替えをするために一旦部屋に帰った。
手早く支度を整えて、ブルーベル様の部屋に戻る。私が戻った時には彼女は既に着替え終えていて、退屈そうな表情でベッドの縁に腰掛けていた。
「お待たせいたしました」
声をかけると、ブルーベル様はひょいっとベッドから降りて、私のほうにやってきた。
……なんというか本当に、こうやって見ていると、彼女は普通の、可愛らしい女の子だ。
「遅かっ、……何それ」
顔を明るくしたブルーベル様は、私が持ってきたものを見て視線を鋭くした。
足の自由がきかない彼女のために用意したものだ。
「? ただの車椅子ですが」
「そんなの見ればわかるってば! そうじゃなくて、何でそんなの持ってるの!?」
「何で、と言われましても…」
首を傾げる。ブルーベル様は何を苛立っているのだろう。
「ブルーベル様に乗っていただこうと思いまして」
「いらない! せっかくなまえとお出かけなのに! そんなのに乗ってたら楽しめないでしょ!」
彼女は頬を膨らませて、「にゅー」とこちらを睨みつける。
「…ですが、車椅子がないと移動が不便ですよ」
「飛ぶもん!」
「一般人は、飛ぶ人間には慣れていませんから…」
「やだやだぁ! 乗らない!」
首を振って拒否するブルーベル様。…困った。どうしたものかと思案していると、彼女が大きな声で叫んだ。
「せっかく一緒に出かけるんだから、なまえも楽しくなきゃ意味ないの! 車椅子なんて押してたら疲れるだけじゃない!」
「……」
…別に、私はそれを負担とは思わないのだけれど。
ブルーベル様は私のことを考えて言ってくださったのか。
「ちゃんと、低く飛ぶから! ね? お願い!」
必死に私を見上げてくる。……まあ…仕方ないか。
「…わかりました」
「!? ほんとう!?」
少し不機嫌そうな表情から一転、きらきらと目を輝かせて私を見るブルーベル様。
「では、幻術を使います」
私のその言葉に、彼女は目を大きく見開いた。
「なまえ、幻術も使えるの!?」
「…大したことはできませんが、少しだけなら」
私の体には雨の波動と、ほんのすこしの霧の波動が流れている。それを知った時に、少し幻術をかじってみたのだ。
戦闘には使えないような粗末なレベルではあるが、その辺の一般人の目をくらませるくらいなら問題はないだろう。
「幻術で普通に歩いてるように見せますから、ブルーベル様は私の側で低空飛行していてくださいますか?」
「わかった!」
ブルーベル様は嬉しそうに笑って頷いた。
……なんだかんだ言いつつも、私も彼女には相当甘いのだ。